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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第二章 白の国の姫
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15 羊モフモフ計画

「うーん、この方法は無理があるわね」


 セラフィナは自室の机の前で悩み、頭を抱えていた。

 モトキの願いである羊をモフる為のいい案が中々思いつかないのだ。


『無理そうなら別にいいけど? 他の願いを考えるし』

「私はやると言ったらやるわ。モトキもこの程度で妥協しようとしないで」


 モトキはセラフィナが起きている間でも会話が出来るようになっていた。

 と言うより、やろうとしなかっただけで、恐らくモトキが目覚めた時点で出来たのだろう。


 モトキの声はセラフィナの頭の中に直接響き、他の人には聞こえない。

 逆にセラフィナからは直接声に出さないとモトキには聞こえなかった。


「お父様に頼めば羊くらい幾らでも用意して貰えると思ったのに、「動物と触れて病気になるかもしれないから駄目だ」って、長年病弱に生きてきたことが思ったより枷になっているわね」

『今は神の加護のおかげで病気にならないけど、説明のしようがないからな』


 現在、モトキのことは他の誰にも話していない。

 話しても簡単に信じてはもらえないだろうし、仮に信じてもらえたとしても悪魔憑きなどと思われては事だ。

 実際、狂った異世界の人間が憑いているので、あながち間違いでもない。


「現実的な案としては、城をこっそり抜け出して、モトキが見つけたっていう羊の牧場に行くことだけど障害が多いのよね」

『王女様が城を抜け出すのは定番だけど、普通に大問題だからね』

「私が王女ってだけなら後で怒られれば済む話なんだけど、問題は私の眼の色なのよ」

『眼の色?』


 セラフィナは手鏡に自分の顔を映すと美しい金色の瞳が見えた。

 まるで宝石のように煌めくその虹彩は、モトキのいた世界では見られないものだ。

 ただしモトキ視点だとイサオキとエアは例外である。


「金色の瞳は特別でね、通称王の証とも呼ばれているわ。王位を継ぐために絶対不可欠な要素なの」

『そういえば王様の眼は金色だった気がする』

「エドブルガもよ。あと一応リシス叔母様も。シグネはお母様と同じ青色だけど」


 モトキは以前にエドブルガが王位を継ぐと、シグネが言っていたことを思い出した。

 あれは金色の瞳を持たないシグネと病弱なセラフィナでは継ぐことが出来ないからなのだ。


「でも逆に条件さえ満たせば誰もが王になれる可能性があるの。王族でなくてもね。」

『え? それって大変なことなんじゃ』

「ええ、大変よ。他にも条件はあるのだけど、私の見た目は王位を継ぐ要素を全て満たしているから、下手に外に出たら誘拐されて、国盗りの広告塔にされかねないわ。実際は王女が誘拐されたわけだから別の意味で大問題になるのだけど」

『その上で城を抜け出すのって現実的な案かな!?』


 どう考えてもリスクが大きすぎる。


「眼の色さえ誤魔化せれば現実的よ。今その為の術式を組んで――」

「姫様、キテラです。昼食のお時間です」

「今行くわ」


 扉の方からノックの音とキテラの呼び声に応え、セラフィナは軽く机の上を片付け、羽織ものを着ると部屋を出た。

 キテラは開いた扉から何かを探すようにキョロキョロと部屋の中を見る。


「姫様、何やら話し声が聞こえましたが、部屋に誰かいるのですか?」

「独り言よ。今声を用いた術式を考案中なのよ」

「そうでしたか」


 万能ワード「術式」。

 セラフィナの奇行は大体この言葉で納得してもらえるのだ。

 そもそも部屋に居ないのは本当なので嘘ではない。


 キテラと共に辿り着いたのは、以前王達が食事をしていた食卓だ。

 既にシグネ、エドブルガ、リツィアは食卓に着いていたが、イオランダの姿は見えない。


「お待たせしました、お父様はいらっしゃらないのですか?」

「ええ、早めに済まさなければならない仕事があるので自室で食べるようです。ですから私達だけでいただきましょう」

「はい、数多の命が我々の血肉になることに感謝を」


 セラフィナは以前モトキが見たものと同じように祈りと感謝の言葉を唱えて食事を始める。

 途中でモトキに体の主導権を渡し、代わりに食事をしてもらったりもした。

 どちらかが交代したいと念じれば、もう一方が強く拒否しようとしない限りいつでも入れ替わることが出来るのだ。


(俺が出るのは最低限にした方がいいと思うんだけどなぁ……)

『どう? この世界の料理の味は』


 今までとは逆に、今度はモトキの頭の中にセラフィナの声が響く。

 その料理は見たことのない食材ばかり作られており、モトキには馴染みのない不思議な味だ。

 しかし体がセラフィナのものだからだろうか、その味に特に拒否感を感じることはなく、食べ終わるころにはすっかり慣れていた。


『うん、美味しかったよ。いずれ調理工程も見てみたいかな』

(なるほど、モトキは調理に関心ありと)


 体の主導権を戻しモトキの感想を聞くと、セラフィナはニタリと笑う。

 生前ミタカ家の家事全般を取り仕切っていたモトキは、当然料理にも精通していた。

 イサオキとエアに美味しくて体にいいものを食べさせたいと鍛えてきた料理の腕はかなりのものだ。


 現在は王族と言う立場の為、その腕を活かす機会はないだろうが、それでも自分が得意な分野には興味が湧くものである。

 セラフィナそういった、モトキが口に出さない、または無意識の趣味趣向をこのように引き出そうと企んでいた。


 食事を終えるとリツィアが、話があると皆をその場に引き留める。


「シグネ、あなたが最近リシストラタさんの稽古に参加しないのは、彼女の指導が合わないからだそうね」


 断定的な物言いであった。

 それを昨日セラフィナとキテラに初めて話したことで、他に知っている者はいないはずの情報だ。

 当然シグネはセラフィナとキテラを疑い2人の方を見るが、セラフィナはそんなことをしていないので、即座に首を横に振り否定をする。

 キテラも全く興味がなさそうに場を眺めていることから関係がないのだろう。


「母は子供のことは何でも知っているものなのですよ。それでリシストラタさんの指導が合わないのでしたら、騎士候補生の訓練に参加するのはどうですか?」

「街の子供達を集めて訓練しているっていうあの?」

「そうです。身分を隠して貴族を装い加わるのです。それならある程度あなたの自由に訓練が出来ますし、共に切磋琢磨する相手もいます。体の弱いセラフィナに手伝ってもらうよりずっと良いでしょう」

(よく言ってくれました、お母様!)


 セラフィナのことまで把握していた。

 どうやら昨日のやり取りは誰かに見張られていたようだ。

 セラフィナはこれで剣の稽古から解放されると胸を撫で下ろす。 

 シグネはリツィアの提案を聞き少し考えている。


「母上、僕もそれに参加することはできるでしょうか」


 シグネより先にエドブルガが答えた。

 しかし期待に満ち溢れた表情のエドブルガに対して、リツィアの表情は難色を示している。


「あなたは金色の瞳を持っています。シグネと違って身分を隠すことは難しいでしょう。無用なトラブルを避けるためにも許可できません」

「そうですか……。それでは仕方がありませんね」


 一転エドブルガの表情は曇っていく。

 エドブルガはリツィアの言う、共に切磋琢磨する相手と言う言葉に惹かれたのだ。

 本来その相手はシグネが担うものであったが、現在はそれが叶わないでいる。

 その上、シグネが騎士候補生の訓練に参加すれば、今まで以上に接点がなくなってしまう。


 シグネもそんなエドブルガの心境に気付いていた。

 気付いてはいたが、シグネの目的である強くなることを考えれば断る理由がない。


「母さん。俺、騎士候補生の訓練に参加する」

「分かりました、ではそのように手続しておきます」


 こうして話はまとまり解散となった。

 エドブルガは少し暗い表情をしながら、リシストラタとの訓練の準備に向かう。

 セラフィナは少し食休みの後、日課となっている筋トレのストレッチと散歩をするため、いったん自室に戻ることにした。

 するとシグネに呼び止められたのだ。


「待ってくれセラフィナ。このあとちょっと付き合ってくれ」

「また剣の稽古? それなら勘弁してほしいのだけど……」

「そうじゃない。相談したいことがあるんだ。昨日の裏庭で待ってるから、準備が出来たら来てくれ」


 そう言うとセラフィナの返事も聞かずにシグネは走り去っていった。


『どうする?』

「行かない訳にはいかないわ。キテラ、今日の散歩は中止よ」

「仕方がありませんね。ですがご同行はさせてもらいます。人目のないところで倒れでもしたら事ですから」

「それで構わないわ。行きましょう」


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