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二人で一人の剣姫  作者: 白玖
第二章 白の国の姫
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10 セラフィナ・ホワイトボード

 四色国歴846年、地球とは別の異世界「アステリア」にある無色の大陸の都市「アステロ」。

 4つの大陸に囲まれたそこは、各国の物流の中心であり、人の流れが活発な賑やかな場所である。

 その日はちょっとした祭りが開かれ、普段以上の賑わいを見せていた。


「第293回世界創作魔術コンテスト! 10位から4位まではご覧の通り! どれも素晴らしい魔法の数々だ!」

「「「うぉおおおおお!」」」

「次はいよいよベスト3の発表だ! 優勝の栄光は一体誰の手に!」


 大きなステージの上に立つ司会者らしき男の声に合わせて、ステージを取り囲んでいる観客達は一斉に沸き上がった。

 世界創作魔法コンテスト。

 それは年に一度行われる、自作の魔法の良し悪しを競う大会である。

 選手は世界各国から集まり、この日の為に1年間研鑽を積み重ねてきたのだ。


 コンテストのクライマックスに観客の興奮は最高潮となっている。

 彼等の目線の先にいるのは司会者の後ろで椅子に座っているコンテストの参加者達だ。

 ある者等は自分の順位の発表に胸を高鳴らせ、ある者等は優勝を逃し落胆の表情を浮かべている。


 その中に一際目立つ1人の少女がいた。

 大人しかいない参加者の中に一人だけ混じる子供。

 肩まで伸ばした白い髪に金色の瞳の如何にも育ちの良さそうな格好をした少女セラフィナ。

 現在8歳である。


「い、いよいよね。私の名前が歴史に残る瞬間よ、キテラ」

「姫様の名前は既に歴史に残っていますよ? 白の国の王族なのですから」

「そうじゃないのよ」


 セラフィナの座る席の後ろにはキテラと言う長い栗色の髪の女性がメイド服を着て控えている。

 彼女が言うようにセラフィナはアステロの西方にある白の大陸、そこを収める白の国の第一王女、セラフィナ・ホワイトボードである。

 キテラはその世話係兼護衛であった。

 本日は身分を隠し、お忍びでコンテストに参加しているのだ。


「私の体じゃどんなに頑張っても王位は継げないわ。それ自体は別に構わないけど、このままじゃ「王位継承権一位でありながら王になれなかった人」以外に歴史書に書くことがないじゃない。そんな情けないのは嫌なのよ」

「白の国の歴代王族にも結構いますけど。そんな情けない方々」

「私以外の王族が聞いたら首が飛ぶわよ……」


 シレっと暴言を吐くキテラにセラフィナが呆れていると、いよいよベスト3の発表が始まった。

 セラフィナはキテラとの会話を切り上げ、司会者の一語一句に全神経を集中させる。


「第3位はテラモン選手! 第2位はフリージア選手! そして第1位は――」


 ここまでセラフィナの名は呼ばれていない。

 入賞するにはもはや優勝しかなく、セラフィナは両手を握りしめて神に祈る。


「本大会最年少参加者! セラフィナ選手だ! 優勝おめでとうございます!」

「やったぁあああああ!」

「「「うぉおおおおお!」」」


 会場には今までで最大の拍手と歓声が鳴り渡る。

 セラフィナもそれに負けないほど大きな声で歓喜の雄叫びを上げた。


「おめでとうございます、姫様」

「ありがとうキテラ。あなたの協力のおかげよ」


 キテラはセラフィナを頭上に掲げ、くるくると回りながら共に喜びを分かち合う。

 普段はクールですまし顔のキテラもこの時ばかりは笑顔だ。

 そんなセラフィナ達を中心に割れんばかりの拍手が鳴り響く。


「セラフィナ―!」


 そんな中、人混みをかき分けて何人かの集団が駆け寄ってきた。

 集団の先頭を走るのは彼女の父。

 白の国の国王、イオランダ・W・ホワイトボードである。


「お父様!? どうしてここに!?」

「娘の晴れの舞台に駆け付けないわけがないだろう。凄いぞセラフィナ。お前は私の自慢の娘だ」


 なんと一国の国王が国務をほっぽり出して娘の応援に来ていたのだ。

 王に続いて現れたのは王妃リツィア、彼女の兄シグネに弟エドブルガ、生まれたばかりの妹、叔母のリシストラタ、護衛騎士のフラマリオ、大臣のボーミア、魔術の師であるオルキスとセラフィナにとって親しい人物が勢揃いしている。


「おめでとう姉さん」

「すげぇじゃねーか!」

「立派よ、セラフィナ」

「よく分からないけどおめでとう、セラちゃん」

「セラフィナ様ー!」

「姫様ー!」


 皆が次々と祝福の言葉を送ってくれる。

 それはまるで夢のような一時である。


「ありがとう! みんなありがとーう! ……セラちゃん?」


 そんな風に呼ばれたのは初めてだ。

 そもそも王女であるセラフィナをまるで友達のように呼ぶ相手など心当たりがなかった。

 呼んだのは誰だと辺りを見回すと、1人知らない男が混ざっている。

 顔は良く見えず、体はうっすら発光しており、明らかに異質な存在だ。


「あなたは一体……あれ?」


 気付くと辺りは真っ暗になっており、見知らぬ男以外は誰もいなくなっていた。

 最後に残った男も徐々に遠ざかっていく。


「待って! あなたは誰なの!?」


 セラフィナは遠ざかっていく男を必死に追いかけるが距離が縮まることはなく、ついには見失ってしまう。

 脈絡がなく意味が分からない事態に、セラフィナは夢でも見てるのではないかと疑いだした。


                    ・

                    ・

                    ・


 本当に夢だった。

 魔術コンテストの優勝の辺りも全て。


 目を開けるとそこには見慣れたものが、自分の部屋の天井がある。

 セラフィナは病気で寝込むようになってから始めた日課、自分の生の確認をするために声を出そうとするが上手く喋れない。


「ぁ、ぁっ……わ、たし……まだ……いきて、る?」

「はい。おはようございます、姫様」


 そこには夢の中でしか見せないような優しく微笑んだ顔のキテラがいた。

 セラフィナは生と死の狭間からこの世界に帰還したのである。


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