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氷の国と白髪の少女

(準)異世界転移ものの中でも「ありそう感」を出した物語を心掛けました。

卒業式を終え、最後のホームルームが始まった。クラスメート一人ひとりが自分の将来について一言述べることになったが、大抵の場合「○○高校に行って××を頑張ります。」というものだった。出席番号一番の奴はさぞかし大変なことだろう。自分の発言が出席番号二番以降のテンプレとなるわけだ。慎重に言葉を選ばなければならない。クラス一人ひとりが順番に何かを話さなければならないとき、僕はいつもこの出席番号一番の「テンプレ作成マン」を尊敬していた。幸いうちのクラスの「テンプレ作成マン」は、口数の少ない奴なので、二番目以降も困らない。いつも簡単なテンプレをありがとう・・・と言いたいところだが、今回ばかりは違う。僕は高校に進学しないからだ。もう高校でこんな嫌な思いをするのはごめんだ。誰も聞いてはいないだろうが「働きます」と一言だけ言って座った。


どうせまたこの顔をネタにされるのがオチである。人間は所詮顔なのである。「人間は中身だ」とかいう、現実を見れば明らかに間違いである見解が何故ここまで広まっているのか。答えは簡単である。イケメンがそれを言うからである。イケメンが心の中では「イケメンの俺 tueeeeeeee」と思いながら謙遜でそれを言うのだ。イケメンの発言しか受け入れられないこの世界では、僕がいくら「人間は顔だ」という、すぐ目の前で起こっている現実を述べたところで、「屁理屈」だの「卑屈」だの言われ、聞く耳を持たれない。つまりこのまま日本にいても、何を成し遂げても、どんなスペックを持っていても、「顔がキモイ」という要素で全てが台無しになり、常に不遇な扱いを受け、童貞のまま老いて死ぬのだ。


しかし、救いはある。人間の容姿はテストの点数とは違い、絶対的評価基準がないことである。正直、僕の顔は自分ではそこまでキモイとは思っていない。ただ日本人の美的感覚と絶望的に合わなすぎただけである。海外に行けばワンチャンあるかもしれない。よって僕は日本での高校進学を捨て、海外移住に踏み切った。もちろん進学も視野に入れている。


くだらないホームルームが終わった後、打ち上げに誘われた。当然断った。「あ、そっか残念。じゃ、またね」とさ。社交辞令ご苦労様。義務的に誘ったってのが見え見え。君が僕にかけた唯一かつ最後の言葉が、それだっていうことに気づいているかな。お前らの茶番に付き合っている暇はない。僕は忙しい。これから家に帰って海外移住先を見つけなければならないのだ。


家に帰り、早速パソコンを開いた。移住先の選択基準はかなり厳しい。まずアメリカやイギリスなどの国は駄目だ。ニホンジンとかいう糞民族留学生が多すぎる。日本人が誰もいないようなマイナーな国がいい。そして、できれば日本語と似た言葉を話すところがいい。聞くところによると、世界では英語のSVOよりも、日本語やトルコ語などのSOVの語順をした言語の方が多いそうである。もう英語とかいう訳の分からん言語はごめんだ。進学も考えている以上、日本人に学びやすい言語を話しているところがいい。


そもそも、日本語を公用語としているところは本当に日本だけなのか?調べてみると思わず「へぇ~」となってしまった。太平洋の島国に、パラオという国があり、そこの一部の州が日本語を公用語としているそうだ。しかし、現在は形式的に公用語と定められているだけであり、日本語話者はいないということを続けて知ってしまい、一気に興が醒めてしまった。しかし、諦めずに検索結果をさらに下へと進めた。


すると、ある一つの国が出てきた。誰もリプをしていない掲示板での書き込みにその国の名前があった。大方その国に住んでいる人が日本語サイトの掲示板に書き込んだのだろう。未承認国家「コオリノクニ」である。昔、地球温暖化により、氷海の一部分が分離したのを機に、どこかの金持ちがそこに勝手に国家を作ったとのことだ。地図上で見ると氷海のほんの一部が欠けたに過ぎないが、国土としては申し分のない大きさである。学校や病院などの「建物」は、海氷を切り取ったところに船を浮かべ、それを学校や病院として利用している。氷海のほとんどは「道路」として利用され、「建物」は基本的に海に浮かんでいる。また、交通手段は徒歩、もしくは巨大船間を行き交うヘリコプターだけである。


早速掲示板の書き込み主にリプをした。もちろん移住方法に関してだ。よほど暇だったのか、すぐに返ってきた。その国への行き方はかなり特殊なものだった。非承認国家としてひっそりと立国している国なので、飛行機などの通常の方法で行くことは不可能なのである。


まず、この国とグルになっている某旅行会社の北極海周遊クルーズに参加し、そこからこっそり別船で抜け出すというものだ。ツアー参加中はできるだけ目立たないようにしなければならない。クルーズ参加者のほとんどがこの非承認国家のことを知らない人達だからである。友人を多く作りすぎて、途中離脱した後に、「大変です。○○さんがいません。」ということになっては問題だ。友達を作ってはいけないという点では問題ないが、この(日本人には)不細工な顔は覚えられやすいから、その点は気を付けなければならない。


早速某旅行会社の北極海周遊クルーズに参加をした。支度にはそれほど時間がかからなかった。むしろかけられなかった。旅行という面目で行く以上、好む好まざるにかかわらず、移住であっても大荷物で行くことはできない。必要最低限のものをリュックに入れて集合場所の港へと行く。


集合時間まではまだ時間があったので、港のカフェで一休みをする。すぐ隣のテーブルに座っている白髪ロングの妖精のような美少女をちらちらと見ながらネットサーフィンをしていた。


集合時間十五分前、僕は席を立った。すると、隣の席の少女も同時に席を立つ。少女は気付いたのか「もしかしてクルーズ参加者ですか?」と声をかけてきた。これほどの美少女に声をかけられるのは、生まれて初めてだったので、緊張と同時に嬉しさがこみ上げた。途中離脱とはいえ、これからこの娘と一緒に旅行ができるのだ。しかし、「いえ、違います」と一言。正直かなりもったいない。この娘とこのまま北極海クルーズを楽しんで、その後も友達として連絡を取り合うこともできたかもしれないのだ。しかし、顔がキモい上に中卒の僕には、日本にいても未来はない。僕は途中離脱の選択肢を選んだ。「あ、そっか残念。」と返されたが、どこかで聞いたものと一致した。最初からNOと答えるのを予測していた感じだ。あぁ、この娘も社交辞令で声をかけただけなのか。そりゃそうだ。こんな可愛い娘が僕に好意を持って話しかけてくるはずがない。しかし、ここで顔を見せて存在を知られた以上、この娘に船内で会わないようにしなければならない。


船に入った。一人用の部屋にこもり。夕食パーティも欠席。ここで存在を知られてはならない。このまま部屋にこもり、離脱日時になったら、待ち合わせ場所に直行。誰にも姿を見せてはならない。特にあの娘には。部屋にこもり、ベットに寝そべっていると、突然ノックが鳴った。おそらく旅行会社の方だろう。クルーズ参加者の多くが夕食パーティに行っているし、今が打ち合わせのチャンスなんだろうと思い、覗き穴からドアの外に立っている人を確認した。すると、目に入ってきたのは、なんと先ほどカフェで出会った白髪の少女であった。


困惑と焦りから、布団に飛び込み、必死に居留守を使った。なぜあの子が来る?なぜノックをする?存在がバレたのか?バレたとして、なぜ僕にからもうとする?もしかして、彼女も途中離脱組なのか?いや、それはない。もうしそうであるならば、カフェで声をかけて来るはずがない。彼女くらいの美しさになると、自分でも目立つ存在だということは自覚しているはず。それなのに、自分から声をかけるという、最もやってはいけないことをするはずがない。


ドンドンドン・・・・いつまでノックをしているんだ。もう5分は経つ。誰もいないですよ。もう諦めて帰ってください。いやしかし、今自分は相当もったいないことをしているのではなかろうか。これだけの美少女が僕に言い寄ってくる。このままクルーズを楽しんだ方がいいのではないか?コオリノクニへの入国はまた別の機会にして。今回はこのクルーズをこの娘と一緒に楽しんだほうがいいのか?


しきりにドンドンと音が鳴るドアに近づき、ノブに手をかける。開けるか開けないかの葛藤が続いた。ノックはまだ続いている。ここまでノックをしてくるということは、僕に興味があるということは確実?いや、ちょっと待て。そもそも彼女は僕が乗船していることを知らないはずだ。僕のことを乗船前からずっと観察していない限り、極限まで気配を消していた僕がいることは分からないはず。恐らく人違いでずっとノックをしているのだろう。いや、ワンチャン僕のことをずっと見ていたかも!?そうこう考えているうちにドアのノックが止んだ。安堵と後悔の双方が一気に体に下りてきた。


引きこもりの日々はそれ以降も続いた。部屋を出るのは早朝か深夜。トイレか食べ物を買う時だけである。正直ここまで徹底する必要はないかもしれない。他の乗客に姿を見られても、存在感さえ出さなければいい。ただ、あの娘だけは駄目。会った瞬間存在に気づかれてしまう。あの娘だけには会いたくない。しかし、どういう訳か、毎回外に出るたびにヒヤッとしてしまう。毎度あの娘に紙一重で見つかりそうになるのだ。なんで、毎回早朝や深夜に部屋から出ているんだ?あの娘は一体何者なんだ?もう今回を最後に部屋から出るのをよそう。今夜が待ち合わせの時間だ、と思った矢先、後ろから聞き覚えのある声がした。「ねぇ、」ドキッとするのと同時に必死に顔を見られないようにうつむいた。「カフェで会ったよね?なんで嘘をついたの?」僕は黙った。そして彼女が僕の顔を覗き込もうとしたのを察し、走って部屋へと逃げ込んだ。


ほっと一息をついたのも束の間、彼女がドアを開けようとしてきたのだ。当然僕は必死にドアを引き戻した。ドア越しでの彼女との格闘の末、どうにかドアを閉め、鍵をかけた。すると、ドアをドンドンと蹴り鳴らし、しきりに開けるように求めてきた。もう存在がバレたのは明白。でも、もう引っ込みが付かない。もうどうにでもなれ。彼女に事情を話して、見逃してもらおう。それがいい。きっと分かってくれる。そう思い、ドアを開けようとした瞬間、突然ドアを蹴る音が止み、何かから逃げるように彼女は姿を消していった。大方、他の乗客がやって来て騒ぎになりそうだったから逃げたのだろう。


待ち合わせ時間の5分前、僕は部屋を出た。彼女に存在がバレたのは明白。出発前に彼女に訳を話そうか考えていたが、もう時間がない。待ち合わせ場所のデッキへと出た。すると、目の前に驚くべき人物が立っていた。そう、例の彼女である。条件反射的に逃げようとしたが、僕は立ち止まった。むしろここで訳を話した方が得策だと考えたからだ。


「やっぱりそうだよね?カフェで『いいえ違います』と言った時から確信しちゃった。この人だって。あのカフェに来る人はほとんどがこのクルーズの参加者だから。『違います』ってことはあなたが入国希望者ってことね」


「私、アンナっていうの。よろしく」

「あ、あっ、あっ、ぼ、僕は天神といいます。よ、よろしくお願いします」

「なに硬くなってんの?君、かわいいねwww」

「僕はてっきり旅行会社の方と思ったんですけど、待ち合わせの人はあなただったんですね。でも一つ分からないことがあります。」

「何?」

「僕に最初声をかけてきたのはどうしてですか?その時は僕が入国希望者ということは分からなかったはずですし、あなたもこれから途中離脱するということは、存在を消さなければならない立場で、クルーズ参加者に声をかけるのはまずいのではないですか?」

「そうね。だって、あまりにも嬉しかったから。君が入国希望者だったらな、って。もし違ったら、それならそれで、君と一緒にクルーズを楽しむ予定だったし」

「え?それってつまり・・・」

「あっ、今のは忘れて。結果君が入国希望者だったわけだし、もういいじゃない」

「あと、なんで僕の部屋を知っていたんですか?旅行会社の人に聞いたんですか?」

「いや、聞いてないよ。カフェで会ったときから、ずっと君を見ていたから」

「え?どうし・・」

「あ、あなたが入国希望者だからに決まってるでしょ?私があなたのことをす、すすす・・・(スキトデモ)、思ったの?」

「え?今なんて?」

「うるさい。ほら行くよ。下で船が待っているから」

「下って、まさかここから飛び降りるの?」

「あたりまえじゃない?海だから飛び降りても死なないし」

「いや、北極海ですが」

「つべこべ言わない。ほら荷物は先に下の船に落として。私たちは海に飛び込むから。いい?」

「いや・・・」

「ほら荷物」


アンナは僕の荷物を強引に取り上げ、船に落とした。


「さあ、今から飛び降りるから。いい?せーの」

「やめろーーーー」


バシャーーーーン。


水の温度はいくら下がっても0度以下にはならない。むしろ水の温度の方が外の気温よりも温かいともいえる。しかし、そういう問題ではない。普通に考えれば、こんなのは自殺行為である。どうにかこうにかで船から上げられたが、服はびしょぬれ。狭い船内にストーブはあるものの、こんな冷たいものは着ていられない。


「じゃ、服を脱ぐから、あっち向いててね?もし振り向いたら船から落とすからね。あなたも脱ぎなさい」


急展開過ぎて頭が困惑していたが、服を脱いでも良いという許しが出たことは分かったので、さっそく脱ごうとした。しかし、それを直前で止めた。アンナがずっとこちらを向いているからだ。


「何してんの?風邪ひくから早く脱ぎなさい。」

「あなたも早く脱がないと風邪をひくんじゃないですか?」

「は?私に早く脱いでほしいの?見る気?変態」

「いや、ブーメランだと思うのですが・・・」

「う、うるさい。あなたがむこうを向くのを確認したら私も脱ぐから、それまで待ってんの。別にあんたの裸なんて見たくないから」

「そうですか。僕もあなたが向こうを向くまで待っていたので・・・」


僕は彼女に背を向けて服を脱ぎ始めた。しかし、小型船の室内は狭い。なにか、背中の方からムラムラと感じる。まさかと思い、後ろを振り返ると、アンナが僕の体をマジマジと見ていたのだ。


「な、なにしているんですk・・」

「振り向くなって言ったじゃない。変態」

「いや、変態はそちr・・」

「女は男の裸を見ていいの。更衣室の清掃のおばちゃんだってそうでしょ。」

「いや、でもガンm・・」

「してない。はやくあっち向け。わたしも脱ぎたいんだから。」


正直、こんな強引の感じの女性は嫌いではない。いや、顔が可愛いから、むしろプラスポイントだ。無論可愛くなければ、ここまでの糞女は生まれて初めてになるのだが。やはり顔が全てなのである。互いに服を脱いだ後、二人は何かを示し合わせたわけでもなく、同じタイミングで座りこんだ。背中を合わせてお互いを温め合いながら、コオリノクニへの到着を待った。


夜が明けた。眼を覚ますと、アンナの姿はなかった。先に上陸しているのだろうと思い、船から出た。

アンナはいた。海に反射する朝日が彼女の美しさを一層際立たせた。


「おはよう。これからもよろしくね。」

「よろしく?あ、はい、まあ、よろしくお願いします」

「じゃあ、行こうか。」

「あ、はい。」


目の前には僕の想像を超える風景が広がっていた。


建物が全て船で出来ていることは知っていたが、これほどのものとは思わなかった。船とは思えないような建物が海上に浮いているのである。ぱっと見ると、ここが海氷の上とは思えないくらいの発展具合である。氷海の中に建物が立っているというよりは、建物と建物の間に海氷が道路のように走っており、まさに氷の道路なのである。これほどのものが、なぜ世界から認知されていないかという疑問は考えないことにした。裏で何かあることは明白であるが、僕には関係のない話である。


ここでの滞在は「就労」という形をとった。掲示板での連絡で、そうするように言われたからである。しかし、ここでの進学も考えているので、学校にも通う予定だ。最初の一年はここの言葉に慣れるために、「入学準備研修」を受けることになる。無論、ここの公用語は日本語なので、その必要はないのだが、現地の人と同じ入試を受けると、落ちることは目に見えているので、僕もこの研修を受けることにした。


さて、就労先に着いた。ここが就労先であり、同時に住居でもある。ここのホストファミリーは個人経営でカフェを営んでおり、僕は調理補助とホールを担当する。


「アンナさん。ここまでありがとうございました。それではオーナーに挨拶をしてきますので。」

「・・・もう挨拶は済んでいるじゃない」

「?」

「私がここのオーナーだから」

「!?!?・・・え゛っ?・・・・」








本職もありますので、更新は遅いと思いますが、できるだけ早く書き上げようと思います。カフェ経営エピソードと学園ハーレムエピソードは並行して進めていこうと思います。

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