Hello, Goodbye
「どうも、お取り込み中スイマセン。」
ルート・マスターから教わった無難な挨拶を使用する。
「「キャアァァァァァ」」
「なんでボス戦中に扉が開くんだ!?」
全員がこちらを振り向いてきた。一番近くにいる杖を持った銀髪の小さな女性は腰を抜かしたようで、へたり込んでいる。杖をついているから足が悪いのかもしれない。
一番遠くにいるのは、なんとあのお隣さんだ。いつもの場所ではなく、部屋の中央に移動して動いている。欠陥品ではなかったようだ。
お隣さんの前には2名の男性がおり、片方は両手剣を持ち金属鎧を着た身長2mほどの筋肉質の戦士、もう片方は盾と片手剣を装備したそれより細めのイケメンだ。
お隣さんは長年の相棒であるわたしに挨拶を交わすこともなく、前にいた筋肉質の男を殴りつける。かなり、暴力的な性格の持ち主らしい。吹き飛ばされた筋肉鎧男はその後ろにいた弓を持つ細めの男を巻き込みながら壁に激突する。
「ファイアー」
扉の左側にいた黒いローブ姿の女性の持つ短杖から炎玉が飛び出しわたしの体に直撃した。
「あの、それ止めてもらってもいいですか?」
両手を挙げて攻撃する意思のないことを示し、近づく。
「イヤァー、ファイアー、ファイアー、ファイアー」
『解析完了...』
エリーが淡々と解析を行う中、取り乱してまったく効いていない魔法を連発してくるので、手のひらで攻撃を受け止めながら近づき、仕方なく両手で包み込むように魔法使いを取り押さえる。
「心配しないでください。私は話がしたいだけですから。攻撃を止めてくれるなら、放しますので落ち着いてください。」
恐怖でひきつらせ思考が停止してしまったらしく、わたしの言葉を理解できるほど落ち着くまでしばらくかかった。暴力的なお隣さんと同じ見た目のわたしに捕らえられたら、殺されると思ってもしかたないだろう。
「ほっ、本当にた...」
モギョ
ようやく口を開いてくれたと思った瞬間、お隣さんのパンチが捕らえられた魔法使いの顔面を直撃し、彼女の首がもげてしまった。
「何をするんですかー!」
殺人マシンと化したお隣さんに抗議をしようと向き直ると、すでに筋肉鎧男と弓男だけでなく、イケメン戦士まで原型を留めないレベルで倒されており、最後の生き残りである腰の抜けた少女の方へ向かって歩き出していた。
「お隣さんとしての馴染みはあれど、これが最後の警告です。止まりなさい。」
動きの遅いお隣さんの前に回り込み進路を妨げると、どうやらわたしも敵として認識されたようで殴りかかってきた。大蜘蛛よりも遅い右ストレートなのでかわすことは造作もないが、かわしてしまうとへたり込んだ子に当たりそうなので、右ストレートを左の裏拳ではじき、同時に前に出した右肩に体重をかけタックルをくらわせる。
尻もちをついたお隣さんの右腕をつかんで背後に回り、関節技を決めようと試みる。
残念ながら関節がないため、腕が回転してお隣さんは起き上がってしまった。
自身の体を解析して分かっていたことだが、戦闘への応用ができていなかったようだ。シミュレーションに組み込む。
自分と同じ構造なので分析結果はすぐに出た。無効化する最適な方法は胸についた石を外すこと。壊してもいいが、そうすると無効化ではなく破壊になってしまうので外す方向で進める。
とりあえず大外刈の要領でお隣さんを仰向きに倒し、よつん這いになり両手足を押さえつける。
「そこのお嬢さん、あちらの壁際に落ちている剣を持ってきてもらえませんか?」
「っえ、自分?」と言った顔で見つめてくる少女に力強くうなずき行動をうながすが、まだ腰が抜けたままで立ち上がれないようだ。
ホワァン
彼女の体が一瞬光りに包まれる。どうやら自分自身に魔法をかけたようだ。動けるようになるとゆっくりと立ち上がる。身体は回復しても、恐怖心の克服はできていないようで体は震えたままだ。
「ゆっくりでいいので、その剣をこちらまで持ってきてもらえると助かります。」
先程まで暴れていた二体の巨大な石像に近づくのはかなり勇気のいることだ。仲間が全員無慈悲に殺された直後ならなおさらである。それでも、イーライの励ましの効果もあり、少女は剣を引きずって近づいて来た。
「その刃先を胸に光ってる石の隙間に差し込んで、テコの原理を使って石を外してもらえないでしょうか?」
また、「えっ、わたしが?」と言った表情をするが、こちらも両手両足ふさがっているので仕方がない。
「大丈夫ですよ。この子はしっかり抑えてますから。」
でかいよつん這いになった石像の下に潜り込んで作業をするというのは、それだけでも危険だ。さらに、お隣さんが時々もがいて抜け出そうとするから揺れるので、安全基準を満たさない作業である。
しかし、自分の太い指で人間のこぶし大の石をつまむことは難しく、動いているゴーレム相手にできる作業ではない。ただ抑えるだけなら、体術スキルの差からこのまま何年か続けられる自信はあるので、比較的安全なはずだ。
説得の甲斐もあり、少女はお隣さんの胸部に這い上がり、剣先で石をほじり始めた。それから30分ほど、剣と石と格闘し、近くに落ちていた岩の破片などで剣の柄を叩くなどの工夫もあり、ようやく光る石が外れた。
その瞬間、少女の体が光に包まれ、膝からくずれ落ちた。
18.12.20 主に魔法関係で細かい修正をしました。