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ハイスピード・オウルナイツ  作者: 小村・衣須
STAGE1 ナイスミート・バディオウル
6/8

第5羽 出会い

書いた端から予約投稿しているので、表示されてる文字数と実際の文字数が合わない事に気付くなど。

 何故、走り出したかは分からない。

 何故、“それ”に気付いたかは分からない。

 何故、“それ”を何とかしようとしたのかは分からない。


 その上、“それ”の正確な場所なんざ分からない。それ故、カイトが取ったのは手当たり次第にそこら中を駆け巡る事。

 脇目も振らず、その形相に怪訝な顔をする他の生徒達に目もくれず。カイトはただひたすらに走り続ける。その勢いで風が恐ろしくカイトにぶつかるが、ゴーグルによって目が守られている事で、カイトに走る事を躊躇わせる障害にはなり得なかった。


 勢いよく校舎の中へ入り、「ここじゃない」という直感から、再び校舎の外へと飛び出す。グラウンドまで出たところで、周囲を素早く見渡す。1分1秒でも早く着かねばならない。そんな気持ちの表れが、その場に留まっても走ろうとするカイトの足に出ていた。


「……っ! あそこか!」


 やがて目的の場所を“感じ取った”のか、カイトが再び駆け出した。


 何故、感じ取った“何か”へとここまでして向かおうとしているのか。

 理由は分からない。いや、理由なんていらない。カイトは心の中でそう断言する。


 何故ならば。


「騎獣に関する事でっ……嘘だけはつきたかねぇっ!」


 その一心で、カイトはただひたすらに走り続けた。



──────────────────



「ギャー! ギャー!」

「キー! キー!」

「キャア! キャア!」


 3羽のカラスによる鳴き声の三重奏。そのやかましい音が、小等部の校舎裏に響き渡った。

 彼らはこの学院に所属する騎獣ではない。ただの野生に住むカラス達だ。

 それが何故学院の敷地にいて、このような鳴き声を出しているかといえば。


「クルル……」


 3羽のカラスが取り囲み、クチバシでつついたり爪で蹴飛ばしたりしている相手。それは、1羽の小さなフクロウであった。

 端的に言ってしまえば「イジメ」である。小さくか弱いフクロウを包囲して、カラス達は思い思いの嫌がらせに励んでいる。

 フクロウも、弱めながらも反抗を示すかのように鳴き声を漏らす。そうして顔を上げてみれば。


「クル、ルルル……!」

「ギャー! ギャ、ギャー!」

「クッ!? クル……」


 何を生意気な、とでも言わんばかりにカラスから反撃をもらう。完全に、遊ばれていると言っていいだろう。


 ここは校舎裏であるが故に、窓からその異変に気付いた生徒もいた。

 しかし、校舎は校舎でも、小等部。つまり小学生の校舎である。まだ幼い生徒達は、カラスの凶暴さを怖がり、ただ見ている事しかできていなかった。中には教員を呼びに行った者もいるが、果たして間に合うかどうか。


 そんな時だった。


「──チェーストォォォォォ!」


 走り続け、走り続けて。その勢いを殺す事なく、軽く跳躍。校舎の壁を蹴って更に飛び、フェンスに指を引っ掛ける。引っ掛けた指を起点に身体を前へ倒し、勢いのままに指を弾き、同時にフェンスを蹴る。

 見事なアクロバティック動作によって、70kg強の物体が、カラス達の前に吹っ飛んできた。


 突然の出来事に、ビクリと跳ね飛ぶように身体を震わせ、その動きを止めたカラス達。

 同じく、突如飛んできた謎の物体に驚き「うわっ!?」と声を上げる、窓の向こうの生徒達。


「そこまでだカラスさんよ。イジメはご法度だ」


 飛んできた謎の物体……謎の存在は、勿論アオバ・カイトだ。彼はゴーグル越しにカラス達を見据え、人差し指を真っ直ぐ彼らへと向けた。ぜぇ、ぜぇ、という荒い呼吸音が周囲に響く。

 カラス達はすかさず、突如として割り込んできた愚か者へと反逆を試みる。しかし。


「もうじき先公が来ると思うぜ? 分かったらとっとと散った散った」


 自分達カラスほどの黒色に染まったボロボロのコート。走りまくっていたが故にボサボサになった青い髪。ゴーグル越しに見える、凶暴な人間(ヤンキー)めいた眼差し。走り続けて酸素が足りないが為に、半開きになった口は歪んでいる。

 そして何よりも──彼の全身から感じ取れる、()()()()()()()()()()の残り香。


 それらはカラス達に「恐怖」、または「畏敬」とも取れる感情を抱かせ、結果として。


「ギャ……ギャー!?」

「キー!? キー!?」

「キャア!?」


 3羽のカラス達はものの見事に飛び去って行った。それを見送り、どこか満足げな表情のカイト。


「よっし、邪魔者はいなくなった。んで……」


 カイトが目線を向ける。その先には、小さなフクロウの姿。


 両手ほどの大きさしかないそのフクロウは、カイトのコートとは正反対の純白の翼を持っていた。しかしカラス達に虐められていたせいか、その綺麗な羽毛は乱れ、或いは泥で汚れている様子。

 だがその瞳は赤く光り、身体は弱っていても、目に宿る力強さはまったく衰えていない事が見て取れた。


「いいガッツだ、よく耐えた。そんで……悪いな、もうちょっと早く来ていれば……」


 カイトはフクロウへと歩み寄り、両手で優しく、そっとフクロウを抱きかかえた。

 普段の粗雑っぽい様相とは裏腹に、フクロウを抱くその手は一切の力を宿していなかった。そのおかげかどうかは定かではないが、フクロウも一切抵抗する事なく、カイトの手中に収まる事を選ぶ。


「待ってろ。傷の手当てをしてもらわなくちゃな……っと、先公が来たな」


 カイトの視界に、こちらへと走ってくる教員の姿が認識された。

 フクロウがゆっくりと顔を挙げれば、同じくフクロウへと目線を下げたカイトの目。


 2つの視線が交差し、フクロウの脳裏に、カイトの穏やかな笑顔が焼き付いた。



────────────



 時は14時ごろ、ところは保健室。


「はい。もう大丈夫ですよ」


 学校医の手当てを受けたフクロウが、騎獣専用の小さなベッドに寝そべった。

 その白い翼の上から、同じくらい白い包帯が巻かれている。しかし不本意であるらしく、フカフカのタオルの上に寝転びながら、時々端っこをクチバシで引っ張っていた。


 その様子を見て「大丈夫そうだな」と安堵の息を吐くのは、当然カイトだ。教員の案内で保健室へとフクロウを連れて行ったカイトは、フクロウが手当てを受けているのを見守りながら、何があったのかを話していた。

 ホッとした様子のカイトを見て、学校医の女性が口を開く。


「アオバ君もありがとうね。あの子、また虐められてたみたいで」

「“また”? って事は、前にも?」

「そうなのよ。正確には、あの子の方から突っかかっていったみたいで」


 学校医が語るところによれば、あのフクロウは1年前に入学してきた騎獣らしい。“ヒトことば”を話せず、勢いで行動するせいでよく失敗を繰り返す事から、他の騎獣にからかわれる事もよくあるそうだ。

 だが問題は、そうやって馬鹿にされる度にフクロウが相手に突っかかっていき、その度に喧嘩となって怪我をする点である。



「この1年で、あの子の顔もすっかり覚えちゃったわね」

「でも、1年前に入学してきたって事は、もうパートナーの騎手とかは……」

「それがいないのよ。あの子が拒絶しちゃうの」


 曰く、その猪突猛進さなどから、元々勧誘に来る生徒は少なかったという。それでもあのフクロウをバディにしようと勧誘してきた生徒は何人か存在していた。

 しかし、そう言われる度にフクロウは飛び去っていき、生徒達は途中で見失って諦めていく。


 そうやって、生徒からは疎まれ、騎獣からは嘲笑される孤独なフクロウになってしまった。というのが学校医から聞かされた話である。


「私としては、早く誰かのパートナーになった方がいいとは思うんだけどねぇ……」

「ふーん……」


 保健室の椅子の上で胡坐をかくカイト。「行儀が悪い」という学校医の指摘は、3回目以降は聞かなくなった。

 ふと、フクロウの方を見れば。タオルに寝そべりながら、窓の外から来る風を気持ちよさそうに浴びるフクロウの姿が。しかしその目は、揺れるカーテンの向こうにある“何か”を見据えているようにも見えた。


「……なぁ、先公」

「先生と呼びなさい。で、なぁに?」

「あのフクロウって、名前あんの?」


 カイトの問いかけに、学校医が暫し考え込む。顎を上げ、唇に人差し指を当てて「んー……」と思案するその姿はどこか蠱惑的だ。


「それが無いのよね」

「無い? どういうこった」

「言葉通りの意味よ。面接の時、名前を聞いたら『自分の騎手になる人間につけてもらう。それまでは名無しのフクロウでいい』って、翻訳担当の騎獣さんが」

「へー……」


 もう1度、フクロウの方を見る。その姿を視認して、カイトは何となしに理解した。


──あのフクロウは、空を飛びたがっている。


「……決めた」

「決めたって、何を……」

「なぁ」


 椅子から飛び降り、フクロウへと近付く。その事に気付いたフクロウが、カイトの目をじっと見つめた。

 それを見て、カイトは歯を剥いて笑う。まるで、何か面白い事を考え付いた子供のように。


「俺の騎獣(バディ)にならねぇか?」


 その言葉の意味を、学校医が認識したのと同時だった。


「クィィィィィーーー!!」


 甲高い鳴き声を上げて、フクロウが小さいながらも大きな翼を広げた。

 そしてそのまま、カーテンの間をすり抜けて、保健室の外へと飛び去る。


「えっ、ちょっとアオバ君!?」

「あれはあいつなりの“挑戦”さ。行ってくらぁ!」

「あっ、ま、待ちなさい!」


 その言葉を聞き流し、カイトは迷う事なく保健室の窓から外へと飛び出した。

 保健室は校舎の1階にあるものの、窓と地面には高低差がある。だが、着地した時のラグをそのまま看過する余裕は無い。飛び出してから着地するまでの間に、フクロウの行き先を見つけ出す。左だ。


 フクロウの小さな体躯が、遠近法によって更に小さく見える。その距離を詰めるのがカイトの仕事だ。

 再びゴーグルを装着する。ニッカリと笑うその顔は、いつものような「カッコつけ」目的のポーカーフェイスではない。心からの笑顔、心からのワクワクが、表情として現れていた。


 迷う事なく駆け出す。遠くのフクロウ目掛けて走り出す。彼をカラスから助けた時よりも早く、より早く。


 カイトの視界にこちらを見る生徒達の姿が映り込むが、それらを認識する暇など、カイトには許されていなかった。

 走る。ただ走る。あのフクロウに追いつく為に。


「ん? おいアオバ、お前どこへ……」

「悪い先公! 18時までには帰るわ!」

「おっ、おーい?」


 不思議そうな顔でカイトの後ろ姿を見送る担任教師の姿さえ、カイトは気にする余裕も無かった。


「18時って……騎獣のアテでも見つかったのか?」


 後ろで、教師がそんな事を言った事さえ、カイトは認識していなかった。

 保健室にいてある程度の休息が取れたとはいえ、カラス達から助けに行った時からそう時間は経っていない。

 カイトの足は徐々に悲鳴を上げていく。ただでさえ足りない酸素が更に少なく、1秒ごとに吸って吐いてを繰り返す。汗を気にしてはいれない。髪がグシャグシャになっても知った事か。


 カイトの胸の中には、ある種の「楽しさ」が満ち溢れていた。

 己の見てくれを顧みず、いつものカッコつけた態度はその影すらない。しかし、カイトはそれを悔んだりする事は決して無い。


 何故ならば。


「騎獣に関する事で──嘘はつかねぇ主義なんだよっ、俺はっ!!」


 その一心で、カイトはただひたすらに走り続けた。

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