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44.これってデートイベントですか?


 中央広場の時計台が鳴る。機械式のおもちゃの兵隊がマーチを奏でる午後三時。

 カノンちゃんがキラキラとした笑顔で手を振っている。


「アリアさまぁ!」


 ま、眩しい!!


 ゲームで見たまんま! お花とキラキラが空を舞っている。かわいい!!


 やっぱり今日のこれは、カノンちゃんのデートイベントだ。


 前世で見たことのある町行き用のワンピースは、清楚でよく似合っている。


「待たせたね」


 私の横でお兄様が微笑む。


「いいえ、今来たところです。ルバート様、ジークフリート殿下とラルゴ様」


 今日のメンバーをカノンちゃんは見回して、ニッコリと微笑んだ。


 なんでこんなことになったの?


 私はひっそりと頭を抱える。


 本来ならば、親密度が上がった攻略者と二人でいくはずのイベントなのだ。

 しかし、本日の参加者は、ジーク、ラルゴ、お兄さま、にどう考えてもおじゃま虫な悪役令嬢のアリア(私だよ!)である。


 ちなみに『夢色カノン』には、逆ハーレムルートはない。

 死後にセカンドシーズンとかでたのか? としても、今の時間軸ではないはず……だけど。


 カノンちゃんは、トテテっと私に近づくと、ごくごく自然に手を繋いだ。


 ! な、なつかしー! 確かに中学生くらいのときって、友達同士で手を繋いだ!


 コミュ障な私でも、前世ではオタ友はいたんだよ。

 今は、手を繋ぐような友達っていないもんな、なんか、うれしい。


 カノンちゃんの手は小さくて、ホワホワしていて、幸せになる。


 そして、ふと嫌なことを思い出して、カノンちゃんの手を強く握った。

 カノンちゃんはそれに応えるように微笑んだ。


 ぎゃんかわ!


「こっちよ」


 カノンちゃんの手を引いて、私は歩き出した。

 今日は二学期末の舞踏会のドレスを見に行くのである。

 

 ゲームではこんなストーリはなかったが、時期的にゲームのイベントではないかと疑っていたのだ。

 きっと関係性の違いから、色々変化が起こっているのだと思う。


 しかし、今日のカノンちゃんの服装を見て確信した。


 清楚な菫色のワンピースに、白い帽子に髪をまとめて入れている。間違いなくスチルと一緒だ。私はそれを知っていたから、手持ちのアイテムで何気にリンクしてきた。さすがにニコイチコーデとかしたら気味悪がられると思って、白い帽子とピンクのワンピースである。


 

 ちなみに、このイベントは攻略対象者によって内容が変わるが、大筋と時期は同じだ。

 ジークの場合はドレスを誂えるスパダリデート。

 ラルゴの場合は、町歩きの年相応デート。

 お兄さまの場合は観劇からのレストランで、タクト先生は本屋さんと博物館だったはず。

 タクト先生ルートの場合、穏やかなデートで終わるのだが、その他ルートの場合、カノンちゃんがデートで暴漢に襲われるのだ。

 そこを攻略対象者が助けて傷を負い、カノンちゃんが癒しの魔力でそれを治し、恋心を決定的なものにするのだ。


 逆にタクトルート、なぜ暴漢イベントがない? たぶん攻略対象者の中で、腕力は一番強いのはタクトだと思う。インテリと見せかけて、武闘もいけるとか胸キュンポイントだと思うんですけど!


 ちなみにタクトルートの場合、ここでキスできるイベントがあるのだが、キスをすれば学園にバレてバッドエンドとなります。私、なりました。

 バッドエンドが控えてるって分かってても、したかった……欲望に忠実。

 ゲームはやり直しがきくしね。



 しかし、今思えばさすがゲームだよな、と思う。

 一国の王太子が、街中で怪我を負わされるとか、その後のお咎めについては何ら追及されていないところとか、何がどうなってこうなった? としか思えない。


 まぁ、王太子の怪我がバレたら今後デートができないと、ジークが二人の秘密にして欲しいと頼むわけなのだが。

 二人だけの秘密なんて、君が初めてだよ、と微笑むジークに鼻血を吹いたオタクがどれ程いたか!

 実際、そんなことがあったら、アリアは報告してしまうだろうし、その辺が可愛くないだのだとも思う。

 ま、それ以前に、アリアはジークと二人っきりでデートすらしたことないけどね!!


 やさぐれないよ、アリアちゃん!


 今日は皆がいるから心配はないと思うけど。

 と思いながらも、誰も傷つかなければいいなと思った。

 ここはゲームではない。やり直しがきかないから。


 そもそも、グローリアの治安は悪くないし、街の警備隊だってちゃんといる。



 さて本日は、前回のメゾンでプレタポルテのイブニングドレスを見ることになっていた。


 うーん、一体なにルート?

 一番内容に近そうなのはジークルートなのだが、なんでこの大人数?


 原因はだいたいジークにある。今回のドレス選びも私に投げたから、だったらとカノンちゃんと二人で行こうと思ったら、なぜか人数が増えていた。

 ちなみに、ジークは僕が関わらないのはまずいとかで、ラルゴは当然ジークのお付き。お兄さまは護衛をかねてと、今朝突然言い出した。


 っていうかさー、ジークもラルゴもいたら、お兄さま要らなくない? 何からの護衛?

 ジークもはじめっから二人で行けよ。


 と、思ったが、きっと皆カノンちゃんとお出掛けしたいのだろうから、断るのも可哀想だと思って突っ込まなかった。


 つーか、イケメンなんだから自分で誘え!



 後ろの男性陣が、恨めしそうな顔で、手を繋ぐ私達を見ている。


 ザマァ! 自分で誘えば手を繋いでたのは、君達だったんだよ!


 憧れのカノンちゃんを独り占めした私は、内心高笑いである。


 メゾンにつけば、いつものマダムがにこやかに迎えてくれる。


「こちら、前回のドレスを贈った方よ」

「あ、あの、ピンクのドレスがとても素敵で! その今回もお願いしたくて」


 カノンちゃんは緊張した面持ちで挨拶する。慣れてないところが初々しくて可愛い。


「まあまあまあまあ、そうでしたの!」


 マダムは、手を繋いだ私達を見て微笑みを深めた。


「では、今回はいかがいたしましょう?」

「紫って、私は不釣り合いでしょうか?」

「いいえ。今日のワンピースもお似合いですよ。お嬢様に似合う紫ならば、こちらの……」


 私はマダムにカノンちゃんを任せた。


「カノン嬢とは手を繋ぐんだね」


 お兄さまが不機嫌に言った。


 最近手を繋ぐのを断っているから、怒っているのだ。


「お友だちですもの」


 笑って答えれば、納得していないように鼻を鳴らした。


「おにいちゃんはダメなのに?」

「お兄さまのお邪魔はしたくありませんもの」

「どういう意味?」

「妹がべったりでルバート様に近寄れない、ってご令嬢方から言われたくありません」

「俺はモテるから、ちょうどいい虫よけなのに」


 お兄さまは、真顔で言った。


 イケメン滅びろ! じゃない、お兄さまはイケメンでも滅びちゃダメ!!


「お兄さまの結婚される方は、私のお姉様になるんですから。素敵な方を捕まえてくださいね」

「アリアのお姉様か、それは羨ましい。俺もなりたい」

「何を言ってるんですか」


 呆れて笑えば、ジークもラルゴも呆れかえった顔で私たちを見ていた。


「アリアはどんな姉が欲しいの?」


 お兄さまが笑った。


「私? ですか?」

「うん。アリアの気に入った人と結婚する」


 ……お兄さま、その危険思想が心中事件を生むんだよ!! アリアなんか無視して自分の好きな人と結婚してよ!!


 バッドエンド回避!! 警笛が鳴る!!

 変なこと言って拗らせたくない。


「お兄さまが好きになった人なら、どんな方でも好きになるわ、きっと」


 どうだ、正解だろう? これなら大丈夫だろ?

 そもそも、お兄さまが結婚するころ、私は国にいないかもしれないし。


「どんな人でも?」

「ええ、身分が釣り合わなくても、私は気にしません」


 むしろ、男でも年上でも年下でも気にしないよ! とは言えないけど。


「ふーん、でも参考までに聞かせてよ。俺の結婚相手はともかく、アリアの理想のお姉さま」


 お兄さまはにっこりと笑う。

 この回答は回避不可、らしい。

 私はそっとカノンちゃんを見た。


 お兄さまの彼女にカノンちゃんってやっぱりいいよなぁ……。


「可愛くて、一生懸命で、動物にも優しくて、一緒にいれば癒されそうな人が、好き」


 お兄さまは私を見て、目を細めた。


「ふーん、やっぱり妬ける。アリアの理想のお姉さまと結婚したら、おにいちゃんがやきもちを焼いてしまいそうだよ」

「お兄さまったら! お兄さまはアリアのたった一人の大好きなお兄さまなのに!」

 


「アリアさま!」


 試着をしたカノンちゃんが現れて、控えめにドレスの裾をつまんで見せた。


 キラキラと光る紫色のビーズが眩しくて、とてもよく似合っている。

 まさにルバートカラーだ。

 お兄さまと並ばせたい!


「かわいい!」


 思わず声を上げる。

 ジークがブスッとした声で、まるでアリアみたいだ、なんて言っている。

 お兄さまとラルゴは何も言わずに、無表情。

 

 おーい! 男子チーム! なんか、さー。もうちょっとさー。

 ゲーム内では言ってたよ、ゲロ甘な賛辞を!!


 ジークだって、さすが僕のお姫様だ、誰もがキミに振り返るだろう、僕はとても気が気じゃない、とか言ってたからね!!

 

 さては自分で誂えてないから気に入らないとか、そういうやつ?

 そういうやつなの?

 だったら、マジ、自分で誘えってばよ。


「おかしくないですか?」

「とっても似合ってるわ! ねぇ!」


 振り返って男子チームを見る。マダムも奥の方で満足げにうなずいている。

 

 男子チームはあまり興味なさそうに、ソウダネ、と呟いた。


「殿下の隣に並べば、お似合いですよ」


 ラルゴが言う。


「いやいや、お前は紫色が好きだろう」


 ジークが言えば、ラルゴが黙る。


「カノン嬢は紫が好きなの?」


 お兄さまが優しく微笑むけど、なんか、棘がある。

 カノンちゃんは屈託なく笑った。


「最近好きになったんです!」


 知らなかった。

 カノンちゃんは紫が好き、メモメモ。ずっとピンクが好きなんだと思ってた。


「だったら、お兄さまと並んでみて! きっとお似合いだと思うの!」


 私がそういうと、お兄さまとカノンちゃんは顔を見合わせて、びみょーな顔をした。

 

 え、ダメだった? テレてる、のかな?

 

 ジークとラルゴは口を固く噤んで、笑いをこらえているように見える。

 何がおかしいの?


「さぁ、ドレスが決まったなら少しお茶にでもしようか」


 私の提案をまるっと無視して、お兄さまは笑った。


 こ、こわい。



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