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【書籍化】転生悪役令嬢は推しのハピエンを所望す!  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売


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34.軟禁城



 さすがに辺境伯様に泣きつくこともできず、私は城内に軟禁されることになってしまった。


 とりあえずは、お父様に手紙を書いた。

 ジークとラルゴにも手紙を書いた。

 その後は、庭に出て池の亀を見たり魚に餌をやったり。庭師に花の名前を聞いたりして過ごした。

 それも二時間もすれば飽きてしまう。


「暇だわ」


 呟けば、ペルレがスッとやって来た。


「レースの教師は明日やってくるそうです。その前に運針を復習いたしましょう」


 それからみっちり裁縫を仕込まれて、休憩をしたら図書室へ逃げ込んだ。

 珍しい本を二、三冊借りて、大型の図版を図書室で読む。


 それにしたって、半日で飽きてしまった。

 それまでが刺激的だったから、仕方がない。

 しかも、すぐそばに見たいものがあるのだ。



 ああああああああ。

 お兄さまの、ばか。

 うそ、私が悪かったのも分かってる。

 心配かけたから仕方がない。

 でも、さぁ。せっかく、さぁ、ここまで来たのにさぁ!


 

 萎れ切ってしまった私のために、ペルレはサパテアードの仕立て屋を呼んでくれた。ワンピースを仕立てて貰ったサロンだ。気に入ったので、ドレスの仕立もお願いすることになっていたのだ。

 昨日見た布でドレスを仕立てようということだろう。



「どのようにいたしましょう?」


 仕立て屋のマダムはにこやかにほほ笑んだ。


「サパテアードのスカーフと、こちらの布を使ってイブニングドレスをと思っております」


 ペルレが説明しながら、スカーフとサンゴの模様に染められた布を広げた。マダムは眼鏡を合わせてその生地をまじまじと見た。


「出島まで行かれたので?」

「ええ」


 ペルレはそれだけ答えた。


「良いものをお買い求めになりました。この作家のスカーフはサパテアードでもなかなか手に入りませんの」


 ペルレは自分が褒められたかのように満足げに頷いた。


「お嬢様、どちらのスカーフでお作りしましょう?」


 並べられたスカーフを見て、私の心も少しずつ晴れていく。やっぱり綺麗なものは見ていて楽しい。


「そうね、サパテアードらしさが出ているものがいいわね」


 海の柄、鳥の柄、果物の柄、カラフルなものがたくさんあって、目移りする。


「少し派手なくらいがいいでしょう。サパテアード風をお望みなら、胸の前でガウンのように合わせるのはいかが?」

「どういうことかしら?」


 ペルレが尋ねる。するとマダムがササっと絵にして見せてくれる。

 襟を着物のように合わせたデザインにして、その片側をスカーフで彩るようだ。

 鮮やかな鳥が描かれたスカーフを手にする。一番のお気に入りだ。でも、派手過ぎで日常では使えないと思ったけれど、諦めきれずに令嬢力(要するに金だ、金)を使ったものだった。


「これは使えるかしら?」


 マダムはマジマジとスカーフを見て、生地を合わせた。


「これなら、こちらのラベンダー色と合わせるのはいかがでしょう?」

「素敵ね」


 こうやってドレスが造られていった。



 翌日は、朝からタクト先生がやってきてワグナー語の勉強会をしてくれた。

 出島の地図を持ってきて、成り立ちの歴史から街の構造までいろいろなことを教えてくれる。

 これらのことを知ってから、出島を散策すればきっともっと面白いのに、そう思った。



 その翌日はレースの先生。


 その翌日は街の楽団。



 夜は地元の著名人を集めた夜会が開かれた。

 今夜はワグナー語で話してもいい、なんてお兄さまが言ってくれて、私は片言のワグナー語で、会話を楽しんだ。




 自分が悪かったのに、こうやって沢山気を使わさせてしまっている。

 たくさんの人に迷惑をかけている。

 ありがたいと思う。申し訳ないとは思う。


 でも。

 と、どうしても思ってしまうのだ。

 

 

 何をしても気もそぞろだ。

 何を食べても、味がしない。

 天文台にもいかなくなった。

 図書室も行かなくなった。

 もちろん群れ星の塔だって。


 だって、行けば思い出してしまうから。

 楽しかった出島を思い出してしまうから。



 今日はジークとラルゴから手紙が届いた。

 同じ日に届くなんて、息がピッタリだと思う。

 ジークからは、夏休みがつまらない、なんて子供っぽい愚痴。

 ラルゴからは、時候の挨拶と、王都の様子。そして相変わらずのみじか歌。


 懐かしいな、そう思った。

 もう、帰りたい。ジークに会いたい。ラルゴに会いたい。

 そう思った。

 ここにいる理由がなくなってしまった。


 だって、外へはいけないんだから。



 食事の量が減った私のために、お兄さまが町からいろいろな物を買ってきてくれる。

 テーブルにはシラップの実のジュースが、美しいグラスに入れられている。

 一口飲んだ。

 でも、違うのだ。

 あの出島の、階段にぺたりと座って、果肉に口づけて飲んだあの味とは、あの匂いとは違うのだ。

 私はグラスを置いて、外へ出た。



 城壁のへりに座って、町行く人を見る。

 最近の習慣になった。

 あのサンダルを履いて、ぶらぶらと足を揺らす。足先にはまだ薔薇が残っている。

 

 向こうから見慣れたトラ猫が歩いてきた。


「こんにちは、お嬢さん」

「ごきげんよう」


 私も答える。

 あの日と同じようにクーラントは城壁に腰を掛けた。


「全然ご機嫌には見えないけど」

「怒られちゃったわ」


 そう答えれば、クーラントはあっけらかんと笑った。


「やっぱりね」

「もう!」

「でも楽しかったでしょ?」

「ええ、楽しかったわ」


 町へ続く道へ目を向ける。

 真っ白い入道雲。空の高いところを白い鳥が舞っている。


「もしかして外出禁止?」

「もしかしなくてもそうよ」

「いつまで」

「分かんない」

「つまんなくない?」

「つまんないわよ」


 海鳥が鳴く。

 視界が滲んでしまいそうだ。


「ねぇ、逃げちゃう?」


 クーラントが私の顔を覗き込んだ。


「こんな低い城壁で、何にも守れないよ。アリアだってわかってるでしょ」


 そうだ私は分かってる。

 それでも、この優しくて柔らかな檻から逃げ出そうとは思えない。

 だって、これは私を守るための檻だから。


 

 私はクーラントに首を振って見せた。


 クーラントは失望した顔で私を見た。


「アリアにはこんな狭いとこ似合わないよ。ワグナーは嫌い?」

「嫌いじゃない、と思う。あの日の出島しか知らないから、わからないけれど。また行きたいと思うくらいには、好きになったわ」

「だったら、オレと行こう」

「行かないわ」


 今日は自分で決める。誘惑に流されたりしない。

 そちらの方が楽しくて、幸せかもしれないけれど。


 あの日、この人は、私を金で買ったのだから。


 そんなこともう二度とされたくないし、クーラントにもして欲しくない。


「ねぇ、クーラント、あなたに会いたかったらどうしたらいい?」

「アリアがオレに会いに来るわけ?」

「ええ。逃げだすんじゃなくて、ちゃんと自分で行きたいところへ行くわ。その為に頑張ろうって、今思ったのよ」


 私は物じゃない。自分で考えて自分で動く。


 クーラントはじっと私を見つめた。


「うーん、でも、そうしたら、ルバートとかついてくるんだろ?」

「そうね、そうなると思う」

「じゃ、いいや。オレ、アリアには会いたいけど、他の奴には会いたくないからね」


 そういうと、クーラントはぴょんと城壁から飛び降りた。


「じゃあね、バイバイ」


 クーラントはひまわりみたいに笑った。


 そして、急に真面目な顔をして吐き捨てた。


「もう二度とオレには話しかけるな」


 翻る背中。


 真っ青な空に、真っ白なクーラントのシャツ。

 振り返そうとした手のひらは、夏の空に凍り付いた。



 海鳥が鳴く。

 また視界が滲んでしまいそうだった。



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