20.ドレスはアーマースーツ
今日はペルレとメゾンへ来ていた。
先日ジークと訪れたメゾンである。
学期末の舞踏会に向けて、私もイブニングドレスを新調することにしたのだ。
アリアのイメージがクールであることもあり、いつもは瞳の色に合わせた紫色の衣装が多い。
ブロンドのジークと並ぶことが前提で作られていることもあり、ジークのブロンドを引き立てるため少し濃い目の色を選びがちだ。
だが、今回はラルゴと並ぶのである。
ラルゴは、黒髪で黒い瞳。ブラックタイの場合は、黒いスーツが多い。
それではいつもの服装だと、あまりにも暗いだろう。
少し色味が華やかな方がいいだろうと思ったのだ。
というのは前提で。
影の従ラルゴの隣に並ぶなら、光の主ジーク色一択!!
なんである。
せっかくラルゴにエスコートしてもらうのだ。
ラルゴにも気分良くしてもらいたい。
だったら、やっぱりジークのカラー。これに決まりでしょ!
キラキラと光るスパンコールに、高級ビーズたち。
様々な生地が所狭しと並べられている。
とても綺麗でワクワクする。
これは生前では得られなかった楽しみだ。
何の因果か、グッズ投資のできない今世。
こんな形でしか、キャラにお布施を上納できない。
資金は潤沢にある。
悪役令嬢万歳!!
「お嬢様は今回どのようなイメージでしょうか?」
ペルレが尋ねる。
「グリーンと、黄色かゴールドを組み合わせたいのだけれど、おかしいかしら?」
ペルレは眉を少し上げた。
「よろしいかと思います。お嬢様の御髪はプラチナですから、ゴールドとも相性が良いでしょうし、瞳の色は紫ですので黄色もお似合いかと思います」
私たちの会話を聞いて、メゾンのスタッフは緑や黄色、ゴールドの素材を用意してくる。
その中にひときわ目を引くものがあった。
カワセミの翡翠色の生地だ。
まるで優しく微笑むジークの瞳の色を写し取ったみたいに煌めいている。
とても目に鮮やかで美しい。
「綺麗だわ……」
手に取ってみれば、ペルレは満足そうに目を細めた。
「でも、少し地味かしら?」
無地の単色の生地だ。少し寂しいかもしれない。スパンコールやビーズの刺繍で何とかなるだろうか。尋ねれば、ペルレは頭を振った。
そして、ゴールドのバラが織り込まれたレースの生地を取る。
薔薇の花は王家の紋章でもあるのだ。
ペルレ! わかってるぅ!!
「このように重ねるのはいかがでしょう」
濃い目のグリーンにゴールドのレースが映える。重なり具合で微妙な色の違いが見て取れて、まるで鳥の羽のように美しい。
「素晴らしいですわ」
メゾンのマダムの声が上がる。
「でしたら……」
マダムはスケッチを描き起こした。
ホルダーネックの緩やかなマーメイドライン。ウエストの切り替えには、初めに選んだ翡翠色の布をレースの上にあてるらしい。背面の膝から下には切込みが入っており、フワフワとした線でデザインが描かれている。チュールを入れるのだろうか? それともフリル? ここは何色になるのだろう。
楽しみだ。
「少し、大人すぎないかしら?」
ちなみに、ホルダーネックも、マーメイドラインも、この世界ではまだあまり普及していない。
「先日のワンピースを着こなされていたアリア様なら間違いないですわ!」
マダムが鼻息荒く言う。
「それと、アリア様がドレスをお決めになられたご令嬢とは、違う趣向のほうがよろしいでしょう?」
ペルレが納得するように頷いた。
彼女は、ジークがエスコートできないことを良く思っていない。彼女は王太子妃推進過激派なのだ。
すでに、ジークがカノンちゃんにドレスを選んだことは噂になっていた。もちろん、王太子はカノン嬢に熱を上げているなんて尾ひれのついた噂も一緒だ。
しかし、そのドレスを私が選んだことは、ごく一部しか知らない。
私が選んだことがカノンちゃんの耳にはいれば、嫌な思いをするのは疑いもなかったから、きつく口止めをしてある。それに、知られたら着てもらえない可能性だってある。
イジメ首謀者と思われる人物が選んだドレスとか、私だったら怖くて着れない。
そういうの、ジーク無神経だよ、ほんと。リア充街道まっしぐらだからわかんないんだろうけどさ。
でも、真実を知っている彼女たちにすれば、心穏やかではいられないのかもしれない。
きっと舞踏会は戦いじみたものになるだろう。
私は、カノンちゃんと闘う気は毛頭ないけれど、イジメ首謀者ではない空気を流せるような社交ができたらいいと思っている。
欲を言えば、カノンちゃんに対する風当たりが弱まれば、間に挟まれるジークも楽になるのに、と思うけれど。
そこまでは難しいかな……。
どう考えたって、今回の舞踏会、注目はカノンちゃんとジークの関係、だもの。
きっと、彼女のポジションが図られる。
王国の保護下にあるだけの人物なのか。
ジークの後ろ盾は、学園内だけでのものなのか。
はたまた、王太子妃候補として名乗りをあげるものなのか。
私も知りたいところだ。
身の振り方を考えるに早いに越したことはない。
余命宣告は早めにお願いします! ジーク様!
「後はヘッドドレスですね」
ウキウキとした声がメゾンに響く。
「同じような色のレースはありますか?」
ペルレがとても楽しそうだ。
「糸から染めさせましょう。レースは私が編みますわ!!」
マダムはギラギラとしている。
やる気満々なことだけは伝わってきて、ありがたいと思う。
なんにせよ、この二人に任せておけば心配ない。
きっと素敵なドレスが仕上がるだろう。
私の採寸が始まった。
おおお。おっぱいがまた大きくなったみたいだぞ、アリアちゃん!
おまえ、ほんとけしからんな!







