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17.承知しておりませんでした

 

「まず一つ目の、不本意で不快極まりない決定事項」


 ジークは不機嫌な様子で紅茶を一口飲む。

 その様子も美しい。

 隣に座ったラルゴは、相変わらず優しい瞳で微笑んでいる。


「君も聞いただろう。カノン嬢はグローリア王国の保護下にあると明言された」

「ええ、カノン嬢には心強いでしょう」


 そう答えれば、ジークは何かを疑うようにマジマジと私の顔を見た。

 ああ、そうか、イジメ首謀者だと思われてるんだもんね。仕方ない。


「そのため学期末の舞踏会のエスコートを僕がする破目になった。期末の舞踏会は学年だけの非公式のパーティ、いわば練習用のパーティだ。だから、というのが学園側の理由だ」


 どの辺が不本意何だかいまいち不明だ。

 非公式のパーティであれ、形式に則るべき、そういう感じだろうか?

 それとも、カノンちゃんのマナーに心配があるのだろうか。


 もしくは、まだカノンちゃんが好きだという自覚がない?


「そうですか、承知しました」


 王子が断れなかったものだ。私が断れるはずもない。


「承知してくれるのか?」

「ええ。非公式の場ですし……」


 でも、私のエスコートは誰に頼もう。学年内のパーティではお兄さまにお願いできない。

 しかも、私は王太子の婚約者であるため、あまり同級生の男子と親しくしてこなかった。

 困ったなーなんて思っているその時。


「アリア様のご迷惑でなければ、私にエスコートをさせていただけませんか?」

「本当? ラルゴ、嬉しいわ!」


 ラルゴの申し出に私はホッとする。正直助かった。


「ラルゴがエスコート? 不釣り合いじゃないか」


 ジークは不満そうに眉を吊り上げた。自分の従者が盗られるのが悔しいのだろう。


 でも、ジーク、ごめん、ラルゴを一瞬だけ貸してください! 私今から相手探すとか困るんで。イジメ首謀者とかみんな嫌だからきっと。


「ラルゴがエスコートしてくれるなら、私はとても安心です。今から他の方と親交を深めるとなると少し難しいと思いますから。ジーク、お願いです、ラルゴを少しお貸しください」


 そう言って頭を下げれば、ジークはウっと言葉を詰まらせた。


「……他の男と親交か……確かに、それよりはマシかも……」


 小声で何か言っているのを、ラルゴが静かにほほ笑んでいる。

 私は生ぬるい目で、(主、心配しなくても、私の心は主のものですよ)と勝手にラルゴのセリフをアテレコする。


「もう一つ、相談とお願いなんだが。君にドレスを見繕って欲しいという頼みだ」

「ドレス? ですか?」

「ああ」


 ジークはそういうと、投げやりな感じで話をつづけた。


「カノン嬢のドレスを王国として用意することになったんだ」


 確かに、一般平民があの学園の舞踏会のためのドレスを用意するのは難しいかもしれない。

 かといって、彼女ほどの力があれば欠席するわけにもいかないし、国の保護下にあるのならば下手なことをして恥をかかせるべきではないだろう。


「ぜひ君と選びたい」


 ジークは私を見つめていった。真剣な目つきだ。

 初めの頃の沈んだ瞳とは違う、眩しい光が私を射る。

 なにか試されているのだろうか? それとも謀られているのか?


「カノン嬢とお選びになったらよいかと」

「ダメだ」


 食い気味に否定される。


 こわい、恐いよジーク。真剣なのはわかるけど。 


「国としてキチンとしたセンスのものを付けさせなければいけない」

「ジークのセンスであれば問題ないでしょう?」

「君のセンスが必要なんだ」


 そう言ってジークは私の手を握った。


「お願いだ」


 真剣な顔で懇願されて、困ってしまう。



 意図がわからない。

 ライバルの勝負服を選べだなんて、嫌がらせか、はたまた策略か?


 ジークは残酷だ。


 どのみち、断れる状況にはない……気がする。


「わかりました。どんなものをお望みですか? 私の仕立屋を紹介すればいいのでしょうか?」

「いや、保護下にあるとはいえ、贅沢をさせるつもりはないらしい。学期末の舞踏会は準礼装だそうだから、プレタポルテのイブニングドレスで十分との見解だ」

「では、ものを見て選べばいい、ということでしょうか? だったらすぐに、いつも使っているメゾンを呼びます。選んだものを王宮へ届けさせますか? カノン嬢の自宅でしょうか?」

「僕と、見に行く」


 唐突にいいだした言葉に耳を疑った。


「は?」

「僕と一緒に見に行ってくれ、アリア」


 ギュッと手を握られた。あまりの強さに驚く。


「表向きには、僕が選び用意したことになってしまうんだ」


 不本意そうにつぶやいた。


「……誤解されたくない」


 ちょっと頭が混乱してきた。


 どういうことだろう?


 私はラルゴに助けを求めて視線を送る。

 ラルゴが困ったように笑った。


「殿下は、カノン嬢にご自身がドレスを贈る破目になり困っておいでです」


 破目って、おい。なんかさっきも聞いた気がする。


「いらぬ誤解を受けたくないということで、アリア様に事前にご相談されているわけです」

「そう」


 要は、男なのに女のドレスを選ばなきゃいけなくて、しかも注目度のある子だから失敗したら困るし、最終的に失敗したら『アリアが選びました』ってことにするためのアリバイとして一緒に店頭に行く、そういう感じ?

 オーケーオーケー! って酷くないか?

 

 私は小さくため息をついた。


 まぁ、でもいいか。

 カノンちゃんみたいな可愛い女の子のドレスを選ぶのは楽しみだし、ジークとラルゴと出かけるのは久しぶりだ。

 もしかしたら、この三人で出かけるのは最後になるかもしれないんだから。


「承知しました。ではご都合の良い日をご連絡ください」


 主従を目に焼き付けるのだと私は心に強く刻んだ。






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