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第二話 「性別反転」

前回、短編として投稿した「星の明かりに映るキミ」の続きです。前回は大ボリュームを一度に投稿しましたが、今回からは少しずつ書き進めて、こまめに投稿しようと思います。

短編の方を読んだ後、この「連載版」を読まれることを強くオススメします。キャラ設定や世界観がよくわからなくなってしまう可能性しかありませんので。

 翌日。 昨日は皆で九時くらいまで騒いでいたが、生憎、翌日も普通に学校があった。

 「おはよう、麻紀、まつり」

 「あ、亜香里。 おはよう」

 「おはよー、あかり」

 教室に入ると、すでに教室の最前列にある茉莉の机で、麻紀と茉莉、そしてもう一人、見慣れぬ男子生徒が談笑していた。 その見知らぬ男子生徒は、長身で顔も小さく、どことなく王子様のようなオーラを発していた。

 「やあ、亜香里お嬢様。 今日も麗しいね」

 「え、ええと、どなたさま?」

 彼は亜香里の目の前にひざまずき、亜香里の手を取って話しかけた。 しかし亜香里はあっさりとその手を払いのけた。 彼は悲しそうな笑顔を浮かべ、やれやれ、とため息をついた。

 「つれないなあ。 いつも顔を合わせているじゃないか。 この教室で、僕はいつも君のことを見ているというのに」

 「いや、流石にクラスメートの顔と名前は全部一致するけれど、私、あなたみたいな方は存じ上げないわ」

 「ははは、片思いとは、こんなにもつらいんだな」

 こんな会話が繰り広げられている横で、麻紀と茉莉はクスクスと笑っていた。

 「ちょっとあなたたち、なんで笑っているのよ。 この人だ誰? あなたたちの知り合い?」

 麻紀は王子様のような男子生徒を、少し弁護してあげた。

 「あはは、亜香里、本当に彼の言っていることは本当だよ。 毎日亜香里と顔を合わせて楽しそうにしゃべっているし、授業中は亜香里のことをずっと見ている人、だよ」

 「嘘、そんな人思いつかないわ」

 謎の男子生徒は首を振りながら立ち上がり、楽しそうに言った。

 「あんまり亜香里お嬢様をいじめるのは心が苦しいから、ここらで種明かしをしようか。 ほら、亜香里お嬢様、いや、あかりん、これを見てごらん」

 そう言うと、彼は自分の右目の近くにある泣きぼくろを指さした。

 「その泣きぼくろ……そして「あかりん」っていう呼び方……」

 ようやく亜香里は何かに気づき、少し警戒心を解いた。

 「そう、あかりん。 僕は、愛しいあかりんの後ろの席の、佐倉薫(さくら・かおり)だよ。 まあ、男になっている時は、漢字は一緒でも「かおる」って呼んでもらっているけれどね」

 亜香里は、ふう、とため息をついて、茉莉の隣の席に自分のカバンをおろした。

 「なんだ、かおりんだったのね。 いや、かおるん、かしら」

 「できればかおるんだと助かるよ」

 「わかったわ、かおるん」

 亜香里がそう呼ぶと、薫は胸を抑えて天を仰ぎ見た。

 「あかりんにそう呼んでもらえるなんて、なんという至福! ああ!」

 「男でも女でも、あなたはちょっとうるさいわね」



 佐倉(かおり/かおる)。 「性別反転」という異能力を持ち、いつどんな時でも自分の性別を変更し、容姿を切り替えることが出来る。 もっとも、服装は自動では切り替わらないので、人目につかない場所で性別を切り替え、そして服も着替える必要があるらしいが。

 「そうか、一年間クラスメートでいたけれど、僕のこの姿はもしかして誰にも見せたことはなかったかな。 まあ先生に、混乱を招かないように、学校ではどちらかに出来るだけ統一して過ごしなさい、って言われているから、当然ではあるんだけれどね」

 「でも、まつりちゃん、かおるのこと見たことあるよー」

 机の上にシャープペンシルを立てる遊びをしながら、茉莉が言った。

 「おや、それはまた不思議な運命だね、まつりん」

 薫がぐいと茉莉に近づき、机に触れてしまったので、折角立てていたペンはあっさり倒れた。

 「あ。 倒れたー」

 「これはこれは、申し訳ない、まつりん」

 「大丈夫だよー。 えっとー、ほら、かおる、モデルやってるでしょ? 雑誌で見たことあるよ。 名前も一緒だし、泣きぼくろもあったから、かおりが「性別反転」使ってるんだろうなー、って思ってた」

 「これはこれはお恥ずかしい。 でも確かに、何度かモデルとして雑誌に掲載されているから、僕のことを知っているのは、不思議でもないか」

 「そういうことー」

 「え、薫くん、モデルやってるの?」

 麻紀はカバンの中の雑誌を取り出し、パラパラとめくり始めた。

 「そうだよ。 でもほとんどがメンズ雑誌だから、まきまきの持っている雑誌には多分載ってな」

 「載ってた」

 「「「え?!」」」

 三人がのぞき込むと、確かに雑誌の「冬のコーデでチョコをゲット!」というコーナーの最初に、堂々と薫が映っていた。 原宿の竹下通りをバックに、長身がよく映える冬着を三パターンほど着て、立ち姿が撮影されていた。

 「本当ね、確かにかおるんだわ」

 「でしょ! コーナーの最初を飾るなんて、薫くん、すっごい人気なんだねえ」

 「いやいや、それほどでもないよ。 というか、どうしてまきまきがメンズ雑誌を持っていたんだ?」

 「えっと、それは、弟の雑誌を間違えて持ってきちゃって」

 訊かれたくないことを訊かれ、麻紀はしどろもどろになりつつ、無理やりな言い訳をした。

 「まつりちゃん真相を知ってるよー。 バレンタインに向けて、男心の研究をしたいんだよねー」

 「ち、ちがうし!」

 茉莉の指摘が完全に図星であり、顔を赤くしながら麻紀は否定した。

 「へえ、まきまきにも想い人がいるんだね。 ちょっと悲しいなあ」

 「かおるん、節操なく女子を口説くのはどうかと思うわ」

 「いやだな、あかりん、僕には君だけだよ」

 ウインクをしながら投げキッスをする薫。 もし中身が誰であるのか知らなければ、何人かの女子は簡単に堕ちたであろうが、生憎この場にいた三人には効果はまるで無かった。

 「はいはい、ありがとう、かおるん」

 女子であろうと男子であろうと、薫は常にこのノリで亜香里に絡んでいる。 そして、亜香里も薫を、いつものようにテキトウにあしらった。



 「そういえば、かおるん、あなたのその泣きぼくろ、「性別反転」しても残るのね」

 ぐいぐい接近してくる薫をぐいぐい押し返しつつ、亜香里が訊いた。

 「ああ、この泣きぼくろは「発現時変調」で出来たものだから、「性別反転」してもその影響を受けないで残るんだ、ってお医者様に言われたよ。 ……ところで「発現時変調」って何だい?」

 「あなた、授業聞いてなかったのね……」

 「聞いた気はするんだけど、忘れただけさ。 過去はかえりみないんだ、僕は」

 「はいはーい、賢いまつりちゃんが解説しまーす。 「発現時変調」とは、 異能力が発現した時に、容姿に何らかの大きめな変化が起きること、ですよー」

 茉莉が解説してくれたため筆者が口を挟むまでもないが、発現時変調とは、まあ、そういう意味である。 亜香里の場合は瞳の色が青くなったこと、麻紀の場合は髪色が突然明るくなったこと、茉莉の場合は、一見わかりづらいが、表情筋が硬くなり、感情が顔に表れにくくなったこと、がそれにあたる。

 「まつりん、流石、可愛いだけじゃなく、とても賢いなんて」

 「ほめてもらえるのは嬉しいけど、これ、前回のテスト範囲だったよー?」

 「あはは、僕は三歩歩くとだいたいのことは忘れちゃうから。 すごいでしょ? この能力」

 「すごくないし、異能力でも何でもないわよ……」

 「でも不思議と、ゲームの攻略法とか、技のコマンドとかは、一度見れば覚えられるんだよね。 やっぱり僕ってすごいよね」

 「ただのダメ生徒だねえ……」

 麻紀は雑誌をカバンにしまいながら、ふと薫に訊いた。

 「ところで、どうして今になって男になったの? これまで一年間、ずっと女の子だったのに」

 「それはさ、ほら、もうすぐバレンタインだから」

 非常にぼんやりした回答に、亜香里は首をかしげた。

 「首をかしげる姿も可愛いね、あかりん」

 「はいはい。 それで、どうして男なの?」

 「バレンタインは、女の子が男の子にチョコレートを贈る日。 つまりこの時期に男に切り替えて、そのままバレンタインに突入すれば、僕にチョコレートをくれる女の子もいるんじゃないかな、という算段さ」

 「思っていたよりもしょうもない理由だったわ……」

 「何を言っているんだ。 可愛い女の子から美味しいチョコレートをもらう! こんなに幸せなことが他にあろうか!」

 薫が熱弁している横で、何やら麻紀と茉莉はこそこそ相談していた。 薫はようやくそれに気が付いたようで、そちらに視線を向けた。

 「お嬢さん方、どうしたんだい? 何か素敵な相談でもしているのかな?」

 「いやー、優しいまつりちゃんは素敵なプレゼントを思い付いたんだよー」

 「それは嬉しいな。 どんなプレゼントだい?」

 ふふふ、と茉莉は不敵な笑みを浮かべた。

 「かおる、あかりのこと大好きだよねー?」

 「無論さ」

 「そんなかおるの為に、今年は亜香里が手作りチョコレートを作ってくれるみたいだよー?」

 「え? ちょっとまつり、それ私何も聞いてないのだけど」

 「いーじゃん、あかりー、作ってあげなよー」

 よっと、と言いながら身を乗り出し、茉莉は亜香里の眼鏡を一瞬ズラし、自分の考えを視せた。

 《「大好きな子のチョコレートがもしマズかったらどういう反応をするのか?」っていう実験、面白そうじゃないー?》

 チョコレート作りを失敗することが前提となっているのは釈然としないながらも、亜香里はとりあえず茉莉の真意を把握した。

 「……まあいいわ。 かおるん、バレンタイン、楽しみにしていてね」

 「本当かい!? ああ、男で登校してきてよかった! あかりんの手作りチョコレート! 神よ! 僕は感謝します!」



 後日談。 バレンタインの翌日から三日間、薫は高熱を出して学校を休み、再び登校してからも、しばらくは頑なに「性別反転」を使おうとしなかったそうだ。

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