第1部 本気の演技
俺は皆にどこのシーンが気になるかを皆に見せると驚かれた。
『確かに今モミジが言ったシーンは中々重要だね』
『でもこのシーン2つは他と絡むシーンだからなんとかなるけど残り1つが難しいわ』
『とりあえず絡むシーンから勉強しましょう』
ロンドさん・シャロさん・シェリーがそう言う中お母さんは何か考えていた。
それでも気にせずに俺は練習に明け暮れた。
1つ目はロンドさんとの戦闘シーンの中で昔の事を思い出すシーン。
2つ目はシェリーと訓練の中で絶望の中互いに励まし合って訓練していくシーン。
3つ目が自分が友達や家族と闘わされていて死ぬシーン。
1つ目と2つ目は簡単だが、3つ目が難しいのだ。
俺はロンドさんから真剣さの中で動揺するような演技をしてもらった。
それに合わせて口から下しか出してないのでその演技を勉強するだけ勉強した。
驚いた時の口。
幸せそうな口。
悲しい時の口。
色々教えて貰った。
シャロさんからは、体の使い方を教えて貰った。
どうすれば驚いている様に見えるのか。
悲しそうな背中はどうして見えるのか?
嬉しい時はどんな感じ動くのか。
それを自分の役に当てはめて行くとなんだか面白くなってきた。
シェリーからは、身ぶり手振りで表現するのを教えて貰った。
口だけじゃなく、体だけでもなく、指先1本だけでも色んな表現が出来るようになった。
カメラと自分と相手の位置を確認して色んな見せ方があるのだと俺は感謝した。
そして次の日……………
・・・・・・・・※・・・・・・・・
監督さんから見違えたと言われた。
今までより更に洗練されていると。
俺は嬉しくなって、皆に感謝の気持ちを伝えに行った。
「ロンドさんありがとうございます。ロンドさんのお陰で口だけで色んな表現が出来て前より演技がしやすくなりました」
『それは良かった。気になってた点は克服できそうかい?』
「はい。2つは昨日皆で練習してなんとかイメージが出来てましたけど、最後の1つはさっき演技してみて思いつきました」
『それは良かった。それでどうするんだい?』
「その事で監督さんとカメラさんとロンドさんの4人で話したいんですけど後で時間を作ってもらえますか?」
『あぁ。良いよ。どんな風になるか楽しみだ』
そして俺はシャロさんの所に向かった。
「シャロさん。昨日はありがとうございます。シャロさんが教えてくれた体の使い方で新しい演技が見えてきました」
『そう。じゃあ明日の演技期待してるわよ?』
「もちろんです。楽しみにしててください」
俺は自信満々にシャロさんに感謝の気持ちを伝えてシェリーの所に向かった。
「シェリー。ありがとう。君が教えてくれた位置取りの方法で閃いたよ」
『そう。じゃあ明日はカメラの向こうだけじゃなくて私達を含めて全員を演技で魅了してよね』
「わかった。ただ心配しないでくれよ?俺の明日のシーンはそんなシーンが多いから」
『わかったわ』
俺は最後にお母さんを探したが居なかった。
仕方ないので、ロンドさんと監督さんとカメラさんと話をするために部屋に向かった。
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話が終わりロンドさんと歩いていた。
『モミジはよくあんなの考えたね』
「皆さんのお陰ですよ」
『そう言われるとなんだか嬉しいよ。そう言えばなんで仮面の下は見せたくないんだい?』
「まぁそれが俺の芸能人としてのコンセプトでもありますからね。芸能生活をせめて20年続けられたら素顔を見せようと思ってるんです」
『そうなのか。まぁ契約でもそうなってるし大丈夫。上手く行くさ』
俺はロンドさんとそう言う話をしてキャンピングカーに戻った。
すると母さんが
『久美。月夜の素顔を撮ってもいい?』
と電話していた。
俺は思わず
「何言ってんだ!ここで顔を晒すなら俺はこの仕事限りで芸能活動をやめるからな。わかってると思うがお母さん。あんたとも縁を切る。それは神楽の家で最初に決まった事だ」
と叫んでいた。
そして俺はキャンピングカーを出ていった。
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俺は夜のスタジオを歩いて居ると、シャロさんがやって来た。
『何かあったの?』
「ありましたね。俺はお母さんの気持ちもわかるけど自分が決めた事も曲げたく無いんで悩んでます」
『何があったの?』
俺はお母さんとの事を話した。
すると…
『それは月夜は悪くないわ。と言うか契約とも言える事を簡単に覆そうとしてるのも悪いけど、自分の子どもの幸せを考えてない親なんてクズよ』
「そうなんでしょうか?」
『そうよ。月夜は最初、嫌々芸能人になったでしょ?』
「はい。今でもあまり好きにはなれません」
『それなのに頑張ってる。リサの我が儘で苦しめてるのに自分の事しか考えてないから衝突したのよ。それに悩める月夜はとても優しいわ』
「そうでしょうか?まぁ少し前までの俺だったら親でも関係なく殴ってましたからきっと優しくなれたんでしょうね」
『あら?千尋さんに手を出してたの?』
「はい。敵だって思ったら無意識で出してしまったんですよね」
『それは大変だわ。まぁ今は違うのでしょ?』
「そうですね。無理矢理にでも学生生活を送っていて良かったですよ」
『学生生活で変われたの?』
「えぇ。少し前までは誰一人近づいても来なかったですが今では友達も出来ました。この歳になって初めてですよ。友達が出来たのは」
『それは辛い人生だったのね。それなのにそんな事も考えずにこんないい子を悩ませるなんてそこに隠れてる女は最低ね』
シャロさんがそう言うとお母さんが出てきた。
『つっくん。ごめんなさぃ。私は今までつっくんはなんでも出来るから幸せだったと、思ってたけど違ったのね』
「えぇ。今までは見てる世界がモノクロでした。人の顔なんて皆同じように見えて皆が人ではなくてただの猿にしか思えませんでした。だけどこんな俺を変えてくれる人達に出会えたんです。だから俺は俺の信念のまま貫きます。そして芸能生活20年になったその時に俺はこの仮面を捨てます。それまで待っててください」
『わかったわ。と言うか久美にもさっき怒られたわ。つっくんを潰す気?ってね』
「まぁ見ててください。明日の演技で俺は皆を魅了しますよ。その為にロンドさんと監督さんとカメラさんの4人で打ち合わせしたんですから」
『って事はつっくん。昨日悩んでたシーンが出来るイメージがあるの?』
「もちろんです。俺はカメラの向こうだけじゃなくてキャストやスタッフを魅了しますよ。覚悟して見守っててください」
俺がそう言うとお母さんとシャロさんが笑ってくれた。
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そして次の日、最初にロンドさんとの戦闘シーン。
俺は思い出すシーンをしたら皆が心配して駆け寄ってきた。
「大丈夫です。演技です。カメラさん撮れてましたか?」
『OK!バッチリさ』
『モミジ!まさかここまで化けるとは思わなかったよ』
『そうだぞ。モミジ。教えたのは俺達だが本気でヒヤッとしたぞ』
と監督さんとロンドさんに言われた。
『ロンドくんが教えたのかい?』
『俺とシャロとシェリーさ』
『どれぐらいの間教えたんだい?』
『俺は10分くらいさ。モミジの呑み込み早すぎてね』
『それは凄い。じゃあ次のシーンでも期待して見ていよう』
そして俺は次のシーンの為にイメージをしていた。
今度は辛い過去。
殺されるかと思うような訓練。
イメージだけではなく、自分の過去にあった出来事も加えてみよう。
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次のシーンに入った。
俺とシェリーを訓練しているのはシャロさんだ。
そして、過去に殺されそうになった事を思い出しどんどん顔が青くなっていった。
体が震えてそれでも必死に思い出に引っ張られない様に踏ん張る。
そしてシェリーを励ましながら訓練していく…。
撮影が終わり、シャロさんとシェリーと監督さんがやって来た。
『大丈夫?凄い顔が青くなっていったわよ?』
『それに体も震えてたわ。まるで本当に殺されかけてるみたいに』
『モミジは過去にそんな経験があるのかい?』
「えぇ。俺の眼の色が赤いと言う理由と俺の髪が銀ベースの金メッシュって事で悪魔とか魔王って呼ばれて殺されかけた事が何度かありましたから。それを思い出して演技してました」
『それは……。とても辛い人生ね』
『そんな経験をしてるなんてあんまりね』
『あんな演技をして次のシーンは本当にいけるのかい?』
「過去の事はどうやっても変えれないので良いんです。それより最後のシーンだけは絶対に成功させます。だから監督さん!昨日の打ち合わせ通りにお願いしますね」
『わかった。準備するように言ってくる』
俺はそう言って集中する様に座禅を組んでいた。
次のシーンはとても危険なのだ。
それほど俺はこのシーンにかけている。
打ち合わせの時に全員に止められた。
きっと見てるスタッフやキャスト全員が止めるだろう。
ただ。俺はやりとげる。
それだけを思って集中した。
俺は監督さんに呼ばれた。
俺は昔の家族の思い出を思い出してロンドさんを助ける為に命を投げ出すシーン。
俺は最初ガタガタ震えていた。
そして少し間をおいて…仮面に手を取り、涙を流す。
そして、口パクで
「思い出せたよ。お兄ちゃん」
と言い涙を流しながら、鼻から上を腕で隠してそのまま飛び降りた。
仮面が地面に落ちる。
その前に身を隠してダミーの人形が熔けてなくなった。
そこで撮影は終了した。
どんな風に撮れたか確認して鼻より上は写ってなかったので成功だ。
そして、ロンドさん・シャロさん・シェリー・お母さん・監督さん・脚本家さんが近寄ってきた。
『モミジ!ついつい俺は飛び出してしまいそうだったよ』
『あれはヤバいわね。こっちの心臓に悪いわ』
『昨日の自信よく言ってた理由がわかったわ。私の負けね』
『つっくん。これをしようとしてたのに私は昨日邪魔をしてしまってたのね。本当にごめんなさい。そしてとても素晴らしかったわ』
『モミジ~!ヒヤッとしたよ。ほんとに落ちて死ぬかも知れないシーンなのによく頑張ったね』
『モミジ。脚本家として嬉しいよ。曲もそうだけど演技までこんなに真剣に取り組んでくれて』
俺は皆の言葉を聞いて安心した。
「きっともう1回とか言われても出来ませんよ。それより俺はここまで繋げたんです。後の事は任せましたよ?」
俺が笑って言うと皆が笑って返事してくれた。
そして俺の映画の撮影は終わった。
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俺はこれで映画の仕事がないと思っていたら
『つっくん。後は曲のビデオ撮らないとね』
「そうだった。俺って主題歌の為に来たんだった」
『もぉ忘れてたの?』
「演技の事で頭が一杯だったんだ。それに曲は出来てたしね」
『ビデオはこっちのチームが取っ手くれるから期待してね。ちなみに取っ手くれるカメラマンはさっきの人よ』
「わかった。とりあえず昨日は寝ていいかな?昔殺されかけた事を思い出しながら演技してたから疲れちゃって」
『殺されかけてたって?何それ?何の話?』
「あぁ。お母さんは知らないのか。俺って結構何でも出来るでしょ?」
『そうね。誇って良いところだわ』
「それで眼の色が赤いし髪は銀ベースの金メッシュでしょ?」
『えぇ。とても神秘的よね』
「だから昔から迫害されて、酷いときは銃で撃たれかけたり、ナイフで刺されそうになったり色々あったんだよ。その怖かった事を思い出しながら演技してたんだ。あの時の撮影は、あまりにも顔が青くなっていって体が自然に震えていたからシャロさんにもシェリーにも監督さんにも心配かけちゃったよ」
『そんな………出来事があったのね……』
「別に同情なんていらないよ。あの後少し荒れていたからね。片っ端から倒してたし、それでいつの間にか、敵と思ったら無意識で殺すギリギリまでやってたしね」
『だからあのときとても冷たい眼をしてたのね』
俺とお母さんはそれから少し喋っていつの間にか寝ていた。