第2部 引き際
それから数日、俺はとても楽な生活をしていた。
学校・文化祭の用事・執筆活動
この3つだけをすれば良いだけだからだ。
それに無理をしてないからか、曲もガンガン思い付いた。
「流石にこう付いて回られるとめんどくさいな」
『紅葉のマネの人ずっと付け回してるもんね』
「あぁ。しかも尾行されてても気付いてないし、自分が尾行してることを俺が気付いてないと思ってるふしがある」
『逆に悪目立ちしてるのね。漫画かなんかの見すぎじゃないかな?まぁ漫画かなんかなら尾行は複数居るって気付いても良いもんだと思うけどね』
「そろそろ動いても良いんだけどねぇ~。それじゃあ面白味もないし…」
『うわ~月夜が悪い顔してる~』
「まぁ動くなら七瀬にも動いて貰う事になるからな」
『は~い。ちょくちょくご飯を恵んで貰ってる礼はちゃんと返すよ』
「週5で食べに来るのはちょくちょくとは言わないと思うぞ」
『夫婦が一緒にご飯を食べるのは同然よ!』
「じゃあ、たまには七瀬が作ってくれるよ…ね?」
『ごめんなさい』
「よろしい。まぁ1人でご飯食べるよりはずっと楽なんだがな。1人分作るって材料余りまくるし」
『そうなの?』
「あぁ。ありがとう七瀬」
俺がそう言うと、七瀬は顔が赤くなる。
何故、いつも赤くなるんだろう?
そして、七瀬と宿題をしていると、春佳さんから電話があった。
『もしもし、久しぶりね』
「ずっとストーカーされているのに久しぶりは無いと思います。正直、警察に届けようか迷ってる最中ですから」
『あら?自意識過剰じゃない?』
「いえ、春佳さん。普通にカーブミラーやら、車の反射とかで丸見えですからね?と言うかウチの前から電話もやめてくれませんか?本当に気持ち悪いです」
『貴方の家の前じゃないわよ』
「本当にですか?これ、録音してるんです。正直に答えてください」
『本当よ!どうしてそこまで疑うのよ?』
「はぁ…。このマンションは俺が15の時に建てました。つまり所有権は俺です。だから監視カメラ見ながら話してるに決まってるじゃないですか…。今更離れても無駄ですよ。録画はしてます。そして、さっき録音をしてると言ったのに春佳さんは嘘をついたでしょ?つまりこれを持って警察に向かえばどうなるかわかりますか?」
『脅そうっての?』
「いえいえ、大人しくストーカー行為を止めてくれればそれだけで良いですよ」
『わかったわ』
と言われて電話を切られた。
『絶対何かしてくるぜ』
「あぁ。間違いなくな。この家の鍵を増やして良かったよ」
そう。現在俺の部屋は玄関に4つ。トイレと風呂は1つだが、各部屋は2つ鍵を開けないと移動出来ない。
ベランダに至っては3重構造だ。
果たして家には入ってくるのかな?
まぁちゃんと警備会社にも入ってるから来たら警報がなるだろうが…。
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side春佳
クソ!
やはり、紅葉は一筋縄では行かない。
私の尾行を気付くとは…。
ただ尾行にそんな欠点があったなんて知らなかったわ。
それにあのマンション持ってるなんて、どんだけ金があるのよ。
あのマンションまだ築2年よ?
土地代と建設代だけでどれくらいかかったのかしら?
いやいや違うわ。
このままじゃ私の立場が危うくなる。
次の就職にも影響が………。
そんな事を考えてるとタイミング良く電話が鳴った。
「もしもし」
『桐島くん。例の件どうなったんだい?』
「それが…」
『成功したのか失敗したのか聞いてるんだが?』
「すいません」
『そうか。これじゃあ君の定評は落ちるばかりだな』
「本当にすいません。必ず期日までにはやり遂げます」
『あぁ。わかった。期待して待ってる』
と言われて電話を切られた。
全く、これじゃあ本当に私の立場が悪くなる一方だわ。
こうなったら、どんなツテを使ってもやるしかないわね…。
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side月夜
あれから、ストーカーは無くなった。
それは良かったが、玄関の前でカメラを設置されているのを見つけた。
あのフロアは俺しか使ってない事に気付いてないのか?
どこまで頭が悪いんだろう…。
更に最近は近くでドローンを飛ばして観察してくる様にもなった。
夜なのに塗装もしないで飛ばすってバカなのかな?
夜に白い物体が飛んでたら通報されるに決まってるだろ?
ドローンを飛ばして毎日通報され、追いかけ回されているのを見て呆れるしか無かった。
そして、俺は校長室で真里奈さんと久美さんに報告している。
「ねぇ真里奈さん。本当に春佳さんって頭良かったの?」
『えぇ。その筈よ。ねえ?』
『えぇ。テストでも満点しか取らないって自慢気に言ってたもの』
「正直、決められた事だけが得意な職人タイプにしか思えないんだけど」
『確かに…』
『そうね…』
「ストーカーも不自然すぎて学校の近隣の人から後ろ、ずっと着いて回られてますよって言われたの初めてですよ」
『全くあの子は…』
「夜に白いドローン飛ばして通報されて、追いかけ回されてドローンを放置したりしてますし」
『まぁ車の運転しながらは出来ないでしょうね』
「もう1度聞きますけど、春佳さんって頭が良かったんですよね?」
『正直、ここまでとは思わなかったわ』
『私達、甘やかしてたみたいね』
真里奈さんも久美さんも頭を抱えながら答えた。
自分の娘・自分の姪がそんな事をやらかしてるとは思いもしなかったからである。
「そうでしょうね。特に久美さんの経営方針が気に入らなそうでしたね」
『えっ?私の?』
「えぇ。一応俺も売れていたのは実感してます。そして、パープルムーンもね」
『そうね。皆、実力が出てきたからメディア進出してるしね』
「えぇ。だけどウチの会社はその2組。厳密に言うと6名だけですよね?タレントを持ってるのって」
『えぇ。もしかしてそれが嫌だったの?』
「えぇ。そうです。それで俺の素顔を晒して契約破棄させて俺を違う事務所に移そうとしていたらしいですよ。まぁ失敗しても俺が芸能界から消えるんです。ウチには損害があっても相手の会社には損害はありませんからね」
そう。仕事は出来なくても無駄にプライドが高いのだ。
そして、自信過剰だからこそ、事務所が小さいのは久美さんのせいだと思っている。
自分がこんな小規模な事務所に居るべきでは無いと考えているのだ。
『全く!何て事をしてるのよあの子!』
『と言うかそれって職務違反じゃない?』
「グレーな所なんですよ。今は既にウチからも抹消してる…かはわかりませんが、相手の会社にはまだ入社してない様ですし…」
『久美?貴女、あの子の処遇はどうしたの?』
『まだ、ウチの会社の人よ。でもそんな事をしてるとは思いもしなかったわ』
「俺は他人なのでどうするかは任せますが、余りにしつこいと俺でも自分のウチの人間を止めれなくなります。だから決定はお早めにお願いします。このままじゃ会社もこの学校も被害を受ける事になるでしょうから」
それを聞くと、2人が固まった。
そんなことあるはず無いと最初から考えても無かったようだ。
『えっ?』
『学校は関係無いでしょ?』
「確かに学校は関係ない。ただ今回やらかしてるのは誰と誰の子どもかを良く考えてください。例え友だと言ってもあの過保護な父からすればどうなるか、考えただけでわかるでしょ?」
そう。ウチの父は過保護。
しかも俺に対して特に…。
だから信頼出来る、場所に預けたに過ぎないのだ。
信頼出来ないなら友達でも容赦はしない。
それが父、神楽千尋と言う存在なのだ。
それを思い出した、真里奈さんは震え出した。
そして、久美さんも顔が真っ青になっていく。
「俺でも抑えてるのがやっとなんです。しかも父だけではなく、母や両祖父母まで絡んで来たら俺じゃ止められないので、その時は覚悟を決めてください」
『わかったわ…』
『ごめんね月夜くん。無理させちゃって』
「いえいえ。それに七瀬の協力があったからこそ、春佳さんの目論見もわかったんですから」
そこで更に2人は気付いたであろう。
問題はウチの父だけではない。
問題を起こせば七瀬家からも追及される事に………。
「それでは俺はこれで失礼します」
そう言って校長室を出ていった。
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side久美
月夜くんが帰った後、私は姉さんと話した。
「ねぇ、姉さん。春佳を首にしても良いわよね?」
『えぇ。仕方ないわ。これだけやらかしてるし、これ以上手綱を持ってると本当にやられちゃうもの』
「そうよね。幕を引くのも裏方としての責任よね」
私はそう言って、春佳に電話をかけた。
『もしもし』
「春佳。貴女色々やらかしてるようね」
『なんのこと?』
「例えばストーカー」
『あぁ。紅葉から聞いたのね』
これは月夜くんにバレて話が着いてるのね。
「ドローン」
『えっ?』
驚いてる所を見るとバレて無いと思ったのね。
「○○事務所との取引」
『…。』
とうとう反応が無くなったか…。
本当だったのね…。
「私は今まで貴女を信じてきたわ。だけどもう庇えない。ごめんなさい。貴女を解雇するわ」
『ふん!良いわよ。あんな弱小事務所なんて私に相応しくないもの!』
「そう。じゃあ元気でね」
『ふんっ!』
そう言われて電話を切った。
勿論、この会話は録音住み。
「ごめんね姉さん」
『良いのよ。私達が育て間違えただけですもの』
「それは、私もよ…」
それから私は会社に戻り解雇通知を即、春佳に出した。
余罪はいっぱいあったし、不祥事の違約金は払わない。退職金は出す。と言う条件を沿えた。
本当に誰に似たのかわからないが本当にバカな子なんだから…。




