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聖女のコトワリ  作者: 秀月
聖女と祝福
46/63

6-7

「如何でしたか?」


 アルフレートの問いに、クリスは複雑な表情を浮かべた。ソファーに腰を下ろし、良い方に向いたと言うべきかな、と溜息交じりに答える。言ったら嫌われるという確信は、日に日に疑念へ変わっていった。だから正直、本当に生きる意志が無いのなら不味い状態だったのだ。けれど、彼女にその意思はない。それこそ初めから無かった。


「紬喜様は、どうされているのですか?」

「寝かせたよ。魔力が不安定だから、気を失ったと言う方が正しいけれど」

「…………」


 アルフレートは、不安そうに目線を天井へ向けた。あれだけ泣かせたのだ、暫く目を覚まさないだろう。クリスは、自分の手のひらを見詰めた。あんな風に自分を追い詰める前に、口を割らせるべきだったのか。それとも、もっと甘やかして口を滑らせれば良かったのか。紬喜は本来、内に溜めやすい性格なのだろう。でも、これをきっかけに彼女が前を向くならそれでいい。責任取りなど、本当に予想外もいいところだった…………


「アルフレート。紬喜は僕らと共に、界を越える。体制限の指輪をさせているけれど、恐らく物質体でしか存在出来ないこの世界を離れたら、彼女は一気に魔力体に近づくだろう」


 魔力の過剰放出を制限し、物質体を強制的に維持させる魔道具の指輪。気付いていないようだが、自由に外せる代物ではない上、本来は咎人に付けさせる物だった。これは保険だ。万が一彼女が、その姿を維持できなくなった時に真価を発揮する。物質体を解いてしまったら、紬喜は最悪六年は人の姿に戻れない。それが意味する事――――


「今の紬喜は、生まれたての状態だよ。完全に光単一属性だしね…………僕らの先祖が滅ぼした、天の人族と同じだ」

「この件での功労者として遇しても、危ういと?」

「報告もしたし、許可も下りているけれどね…………」


 クリスは口ごもった。そこに付けられた条件に目を疑ったまま、まだ誰にも話せていない事がある。紬喜の説得に成功した今、この件の解決は急務になってしまった。


「国は転化陣の準備を始めている」


 だからクリスは遠回しに話す。その古い魔方陣は、使われる事が永遠に来ないと知られていて、なお、有名なものだった。アルフレートが驚いたように目を見開く。そこへ丁度ラルスがやって来た。


「クリス様、本国から急ぎの荷物が来てますよ」

「え?」


 ラルスの抱える箱に、クリスは嫌な予感を覚えた。祖国との移転陣はこの家の一階にある。しかしそれには、界をまたぐ故に膨大な魔力を要した。常ならば、向こう側とクリスとで魔力の供給を行い起動させる。それをせず一方的に物が送り付けられてくるなんて、今まで一度も無かった事だ。


 そんな事が出来る相手は限られる。


 机に置かれた箱。大きさは然程ないが、そのサイズが中身を否応なく暗示した。身に覚えのあるアルフレートが、戦いた。クリスも酷く渋い顔をする。


「何が入ってるんだ?」


 生涯これに縁の無いラルスは、呑気な声で問う。クリスは声を絞り出した。


「やられた…………」

「まさか、転化陣の…………」

「転化陣?」


 ラルスは海の人族だ。転化陣を知らないのも無理はない。額を抑えてしまったクリスと、白い顔を更に白くしたアルフレートに、ラルスもその荷物が良く無い物だと悟る。彼は申し訳なさそうに肩を落とした。


「…………受け取り拒否は、俺には出来なくってだな」

「うん、それは分かっているよ」


 この箱は開けるしかない。中身がアレでも、確認する必要は確かにあった。左右の留め金を外し、金装飾にビロード張りの蓋を開く。現れた上質紙に浮かび上がる祖国ヴァスカディア帝国、その王家の紋章。下に書かれた伸び伸びとした筆跡を見て、クリスは遂に暴言を吐いた。


「あのクソオヤジ――――」

「エーレンフィート・クリウス・ラ・シュリック=ヴァスカディアって…………皇太子様じゃねぇか?」

「よりにもよって、先頭が既婚者ですか」


 アルフレートの声も幾分低い。これは通常、身分順に並んでいる。クリスは見なくても分かる二番目と三番目を飛ばした。光の元に晒された四番目、アレンルーイ・ラ・ローデンシュヴァルトの文字に、当然、悲鳴を上げたのはその弟だ。


「兄上も既婚者ですよ!!」

「アルフレートの兄?」


 ラルスが興味深そうに手にしたその下には、当たり前のように弟が名を連ねていた。


「…………」


 絶句するアルフレートに、クリスはその下の名前も推測出来てしまった。これは、答えを出し渋るであろう自分に対しての催促だ。条件を飲めと、無言の圧力を感じる。ラルスはローデンシュヴァルト兄弟の姿絵を並べて、似てねぇと楽しそうに言った。だからクリスは、無言で次の紙を彼に差し出す。


「ラルス、勿論、君のもあるんだよ?」

「…………は?」


 まさかと思ったのだろう。正解しかない恋をする彼ら、海の人族には無縁のものだ。


 ――――婚約者選定の釣書など。


「はぁぁぁっ!?」


 金の瞳を見開いて、ラルスはそのまま固まった。


「クリスファルト様、これは…………」

「転化陣の準備を急いでいるんだよ、本国は」

「って、相手は嬢ちゃんか!?」

「他に誰が居るの?」


 クリスの言葉に、ラルスは持っていた釣書を一瞬にして氷に変えた。パキンと音を立てて握り潰し、キラキラと残滓が舞う。


「嫌いじゃねぇが、俺には無理だ」

「分かって送ってきているんだよ」


 一難去ってとはこの事だ。やっと持ち直そうかという紬喜に、こんな話をしなければならないなんて。あまりにも間が悪い。


「この事は、暫く伏せる。紬喜の回復が先だ」

「異存はありませんが…………」


 こんな未来を押し付けたくて、彼女を生かしたのでは無い。部屋に重い沈黙が降りた。


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