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聖女のコトワリ  作者: 秀月
聖女と願い
34/63

5-7

 そろそろ魔法の実践をしてみようと思うんだ。そう言ったクリスは、アルフレートとラルスに正気を疑われた。


 紬喜が魔法の練習を始めて、ひと月。アルフレートとの一件の後、彼女は魔法のコツを掴んだようで目覚ましい上達をみせた。音楽の素養があるのも有利な条件の一つだ。アストレブン公用語には無い音楽用語は、祖国ヴァスカディア共通語で代用した。その事でクリスは、紬喜の言う少々難あり翻訳魔法が何に由来するのかを悟った。


 彼女の召喚に使われた魔導書。


 様々な書き手、その数だけ言語を理解出来ている。彼女を蝕む闇を払った後、その恩恵が残る可能性は低い。自身の記憶への言語焼き付けとなると、魔導書にするしかなく、紬喜に使うなら自力で書かせるしか無い。よって、異世界に来てまで受験生さながらの生活が始まったのだ。


 そこまで根を詰める必要は無かったのだが、何かに打ち込みたい紬喜は聞かなかった。クリスも、もう一度アルフレートをけしかけるほど鬼では無い。ラルスは西域諸国に旅立ち不在で、夜更かしの事実は過保護な青年には隠された。


 表向きは、であるが。


 風の噂でかの地の惨状を聞く頃、ラルスはやっと帰宅した。


「お帰りなさい!!」


 歓迎モードで近寄って来る紬喜に、ラルスは微妙な気持ちになったと言う。人の国を一つ滅ぼして来た自分に懐く少女。その事を知ったら、どうするのだろうか。懐柔も洗脳もしていないのに、クリスファルトの策を支持したのだ。もしかすると、どうも思わないかもしれない。ラルスは末恐ろしいとそんな事を考えていたが、紬喜が彼の帰りを待っていたのにはもっと恐ろしい理由があった。


「私ね、魔法が上手になったんだよ」

「そうか…………」


 余計な事は言うまいとするラルスに、用事のある紬喜は止まらない。


「ねね、練習に付き合って?」

「はぁ!?」


 闇の力と相反する、光の力。お互い食らったらタダでは済まない。どっちの差し金だとラルスは早速、残りの二人を疑った。


「二人とも、付き合ってくれないんだもん」


 当然だ。むしろ、冗談じゃない。自分の不在中はこの話題に苦労したのだろう。光景が目に浮かぶ。タヌキとキツネの間を行ったり来たりする紬喜の姿が。


 苦労ついでに解決してくれれば良いものを、放置したから彼女は例によってラルスの帰りを待っていたのだ。彼は何らかの形で答えをくれる。そう思われていた。


「上達具合が分からないんだよね。的が無いとさ」

「…………的があれば良いのか?」

「あるの?」

「…………」


 そして話は冒頭戻る。光属性魔法の実践。


「酷いな二人とも。誰が的になるって言ったんだい?」


 クリスは苦笑を浮かべていた。紬喜の魔力は非常に高く、被弾したら笑い事では無いが。要は当たらなければ良いのだ。


「的は紬喜だよ。均一展開――――結界はなかなか難しいから、良い練習になると思うんだ」

「お、お待ちください!紬喜様を攻撃すると言うのですかっ!?」


 アルフレートが青筋を立てた。いくら正反対の属性とはいえ、初心者の結界の強度などあって無いようなものだ。しかしそれでも実践に踏み切るのは、彼女のさらなる成長を促す為でもある。何しろ、少し嫌な事があった方が伸びる。アルフレートが頬に口付けて以来、本当に上達した。それを紬喜に話したら、その方向で考えるのは止めて、と言いそうだが。


 クリスが頬へ口付けても、アルフレートのような効果は無かったのだから仕方ない。しかも紬喜は、お返しと言ってあれほど嫌がっていた口付けを返してきた。


 異世界の年齢格差。


 こればかりはクリスも肩を落とすしかない。しかし今日からはラルスが居る。万が一アルフレート拒否しても、その首を縦に振らせる事が出来るのだ。


「本人もやりたがっていたしね」


 クリスはしっかり本人の意思だと伝えつつ、もう粗方の準備を終えている。


「…………クリス様、まさか店の結界は」

「流石に気付いた?全属性八重結界なんて面倒なもの、一日じゃ作れないからね」


 ラルスの言葉にクリスは微笑む。帰宅してからまだ店舗に行っていない筈の彼は、流石に騎士だけあってそういうモノには敏かった。下位属性四つと上位の闇で作った結界の頑丈さは、アルフレートを更に震えあがらせた。


「死にます!紬喜様が死にますっ!!」


 何しろこの結界は、クリス以外に割る事が出来ない。二次体であるアルフレートとラルスは、この中に入る事さえ嫌だろう。油断していると、紬喜は何をやらかすか分からないのだ。保険は厳重にかけておいた。


「最小値しか出ないように、魔導書使えば大丈夫だよ」

「そんな…………」

「アルは心配し過ぎだよ。どの道このままでは実戦・・で使えないからね」


 そう言うと、クリスは三枚のカードを机に並べる。


「と言う訳で、くじ引きといこうか?」

「はっ!?」

「我々も参加するのですか!?」

「当然だよ。因みに、これは使う魔導書を決めるくじ引きだからね」


 全部で九冊、段階を踏んで準備が済んでいた。使用属性は水。万が一当たっても濡れるだけだし、絶対に病気にはならないと宣言している紬喜は頑張るだろう。


「そんな…………」

「全部ハズレじゃねぇか…………」


 夜は更けていく。疲れきって夢さえ見ない紬喜に、明日から更なる試練が待っていた。

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