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聖女のコトワリ  作者: 秀月
聖女と願い
31/63

5-4

 行動を起こすには、まだ準備に時間が掛かる。そう言うクリスの言葉で、毎日は至って穏やかなものだった。変わった事と言えば、店舗の片付けが魔法の練習になった事か。


 吸引される魔力を抑制する練習は、以外と早く実を結んだ。何故かといえば、魔導書の写本でその感覚に馴染みがあったからだ。


「クリス、何で教えてくれなかったの?」

「言っても言わなくても、紬喜はやりたがったでしょう?」


 確信犯のクリスは肩を竦めただけだった。別に責めたい訳ではないけど、一言教えてくれても良かったのに。恨めしげに見つめていると、クリスは悪びれもせずこう言った。


「魔力が抜けて疲れた方が、よく眠れたでしょう?」


 押し黙るしかない。事実だったからだ。魔導書の写本はとても疲れる。魔力が自然と抜けていくので当然だった。今度からはそれを抑制して写本を行うと、大分疲れが減るかもしれない。そう前向きに考えよう。よし、と気合いを入れる紬喜に、クリスは容赦が無い。


「抑制は無理だよ。僕と紬喜の魔力は全く属性が被らないからね。抵抗は必ず起こる」


 あっさり期待を打ち消し、明日から直接魔石に魔力を貯めて貰うから、と微笑んで付け加えてきた。しかも、紬喜の写本は今日でおしまいと宣言される。


「一日中魔石とにらめっこ!?」

「睨みたければ、睨んでもいいよ?」


 クリスは軽く死刑宣告をすると、紬喜に二冊の本を差し出した。本と分かったのは、見た目通りの重さだからだ。


「えーと」

「あと、明日から紬喜は、自分用の魔導書を書い欲しいんだ。文字はもう完璧だし、そろそろ実践しても良いと思う」


 その言葉に舞い上がった紬喜の頭から、魔石に魔力を込めるという作業が追い出される。自分用の魔導書!私も片手でパラパラ出来てしまうのか!!いやちょっと待て、あれ手書きだよね。手書きで3百ページとか書くの、私…………


「紬喜は、忙しくしている方がいいよ。余計な事を考えるからね」

「そんなっ!」


 そう言ったクリスの、スパルタ魔法授業が幕を開けた。


 お子様は、実に容赦が無かった。


 座学として、辞典のような厚さの本が十冊。その横に魔導書作成用の原稿が積まれる。厚さは軽く三十センチ。しかも魔導書を書くインクは自分の魔力を込めなくてはならない。流石に口付けは出来ないので、早くマスターしないと作業が進まず、二重に首を絞める事になる。更にお祈りという名の魔力吸出。実地の名の下、クリスが展開する魔法を浄化する練習。これには自分で魔力を貯めた魔石を使う。ちょっともったいない…………


「さて紬喜、今日はお待ちかねの闇の魔導書を使うよ」

「待ってません!」

「怖かったら、目を瞑っていても良いんだよー?」


 クリスに茶化されているのは、蔦模様を展開紋に持つ闇属性の魔法だった。彼なりに気を使ったのか、それとも上位属性だから最後にしたのか、これを浄化できれば全属性コンプリートとなる。


 私だって、ただこの日を待っていた訳では無い。クリスに召喚された日の話を聞いてもらい、トラウマの赤い蔦が闇魔法の展開紋では無い事が分かっている。似てても違う。これは大きな心の支えになった…………筈だ。


「じゃあ、始めるよ」


 クリスの手の上に現れた紫の魔導書が、パラパラと開き動作を開始した。一気に足元に広がった蔦模様は緻密の一言に尽きる。やっぱり気持ちが悪い。けれど小さな葉の先に花が咲き、実を結ぶ変化を見つける。正角暗唱文字が浮かんでは消え、点滅を繰り返す様子は他の物と同じだ。よく見れば禍々しさは何処にも無かった。


「良かったね紬喜」

「え?」

「怖く無くなったんだ」

「知っている文字があったからかな」


 紬喜は、はにかんだ。ひと山越えた、そんな気がする。ホッとしたのも束の間、闇魔法の結界が完成する。此処からが本番だ。握った魔石を結界に押し当て、中の魔力が浄化の性質を持つように念じる。ぎゅっと握り絞めれば、中の魔力が開放された。魔力を貯めやすい魔石は、中身を出すのも簡単だった。故に威力は少ない。


「あれ?」

「残念だったね紬喜」


 闇属性の結界は割れなかった。


「ど、どうすればいいの?」

「魔石は十二個で一晶という単位を持つんだ。闇は上位属性。ここに三十六個、つまり三晶ある」

「一度に十二個使わないと駄目って事?」

「多分ね」

「たぶん?」

「魔石で割った事ないからな。どうなるか流石に分からないよ」


 魔法の先生が適当な事を言った。もはや行動あるのみ。紬喜もどことなく自棄糞やけくそだ。三晶で割れなかった場合、此処で魔力を魔石に込めろと言われるに違いない。その場合、洩れなく口移しだろう。クリスが明日と言っていたから気を抜いていた。彼は初日からそれを要求してきたと言うのに!


「クリスの鬼っ!!」


 一度目の同時放出は失敗した。まず指が十本しか無い。結界に添って並べた所まではいいとして、残り二個が未放出で強弱の違いか魔力が出切らなかった石もある。考えろ、残り二箱。魔石は魔力を含みやすく出しやすい。しかも私の魔力だから開放前に中の魔力に性質を与える事が出来る。


 つまり魔力に干渉できるという事だ。私が。


 次の十二個を浄化の性質に変換し、紬喜は腕を組んだ。問題は、どうやって十二個の息を合わせるか。掛け声に反応すれば良いのに。声には反応しない。魔力か意思が触れる事で反応する。


「手で足りない分は足でも使う?」

「ここで靴を脱いだりしたら、怒るからね」

「デスヨネー」


 あれ…………一個の時も、そもそも握り締める必要無かったんだよね。出て来いという意思と接触。


「タイムラグを作ればっ!」

「たいむらぐ?」

「ふふふ、クリス、年貢の納め時だよ!!」


 紬喜の様子が変だ。苦笑したクリスは肩を竦めた。三晶で終わらなかったら、此処で石に魔力を込めろと言われると思っているのだろう。まぁ、やる気があるのは良い事だ。どうするかと見ていると、紬喜は魔石を一つづつ丁寧に撫でている。方向性は悪くない。しかし、タイミングを合わせるのは至難。


「わわわぁっ!!」

「惜しかったね」

「くぅー…………」


 タイミングをどうしたら合わせられる?タイムラグは作れた。ここに時計は無い。石には十秒後に開放、という時間設定が可能だった。時間の概念が魔石にあるという不思議。


 私の魔力だから?


 自分の持つ認識が通用するならば、この目も耳も無い魔石達に出来る事。例えば、魔石に二重の発動条件を付ける…………一度目に歌を教える。発動条件は二度目に付ける。絶対音感なんて無いけれど、八年間もピアノを習っていた。自分のメトロノームを信じるしかない。


 紬喜は十二個目の石に、いざや見にゆかん、とゆっくりした短い歌を教えて第一段階を終える。クリスは口を挟まない。本番はここからだ。四拍子を刻みながら、もう一度頭の中で歌う。


 さくら さくら やよいの そらは


 全曲を教えた一つ目に歌い終わったら開放という指示を出す。


 さくら やよいの そらは


 すぐに、次、次と小節が変わるごとに魔石の上で手を動かした。どんどん教えている歌が短くなり、十二個目の後の二小節がひどく長く感じた後、一晶の魔石は一斉に魔力を開放した。


「お見事」


 闇結界が割れ、隔たれた空間が開放される。どっと疲れが押し寄せた。


「二重指示とは考えたね」

「他に…………何があったの?」

「まず、魔石が入っている箱に注目」

「え?」


 クリスはニッコリ微笑んだ。


「まさか、全部出して並べるとは思わなかったよ。箱ごと使えば、一度に十二個使えたのに」


 最初から間違っていた…………言ってよクリス!!

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