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聖女のコトワリ  作者: 秀月
聖女と闇色の涙
27/63

4-7

「言わなくて良かったの?」


 悪戯っ子のような笑みを浮かべたクリスに、アルフレートは苦笑を返した。


「喜ぶと思うけどな」

「まさか」


 彼が言えなかった事。それは、自分のさがが魔豹の魔獣だという事だ。


 紬喜が幾度と無くのそ毛並みを濡らした、黒い猫――――本来の毛並みは白銀で、アルフレートは召喚魔獣に見せかけようと魔導書で黒い色を纏った。いくら魔力体と言えど、定められた色と形からは逃れられない。自身の姿を見え難くする能力のある魔豹といえど、自力でその例外を越えることは出来なかったのだ。


「言える筈、ないでしょう…………」


 今となっては、偽りの色を纏った事が救いだ。紬喜は猫に甘過ぎる。懐かれるなんて予想外。魔獣と人は相容れない存在だという先入観があったのだ。


 そう、彼女に出会うまでは…………アルフレートは、ほんの数ヵ月前の自分を省みた。


 紬喜は不幸な犠牲者であり、早々に死なれては困る存在でしか無かった。


 それを生かせと無茶を言う主の為に、王城の女官を籠絡させて連れ出せないか試みた。しかし聖女の守りは固く、聖女本人も不当な扱いを当然のように受け入れていて埒が明かない。直接本人と接触するしかなくなったアルフレートは、魔獣の姿を選んだ。この姿を見れば、怯えて逃げ出すだろうと思ったのだ。


 この世界の人間、ならば。


 城内の庭で見つけた少女は、幾重にも施された魔封じのドレスを纏い、微かに光を湛えていた。その封じが綻びかけて起こる発光現象。魔力の見えない人々は、気が付いていないのか、隠れた娘の前を素通りしていった。


 明らかに質の違う魔力。


 新たな異界から落ちた、最初の命。それが知性を宿した人間だった、という誤算。


「運命とは残酷だね、人間の…………女の子か」


 氷のような薄い青を宿す瞳。女神の恩恵を受ける淡い金の髪を持つ主は、深い溜息と共に言う。


「だから何だと言うのです?お優しいのは良い事ですが、我らの悲願の為に、彼女には死んでいただきますよ」


 即座に言ったアルフレートは、歓喜に震えていた。これで全てが終わるのだ。だというのに…………その時返した言葉を、アルフレートはもう言えなかった。


「おまえ、どこのこ?」


 余りにも無警戒、無防備。呆れるアルフレート前で、聖女と呼ばれる少女が手を伸ばす。自ら餌になるつもりで無ければ、決してそんな事はしない。少なくとも、この世界の人間ならば悲鳴を上げて逃げる状況なのだ。小型とはいえ、魔獣。普通の剣では傷さえ付かない異界の獣。


「うわぁ~っ!毛並み良いぃ」


 大人しくしていたら、聖女の少女は彼を撫でてきた。あり得ない状況に固まりなが、今日の予定は変更せざるを得ないと嘆息する。


 此処で魔獣が出たと悲鳴を上げてくれれば、護衛の兵が動く。陣形が崩れた隙を突いて、外に連れ出す事も可能だったのに。


「流石、お城の猫!!」


 ――――猫ね。明らかに見た目が違うだろう。それとも異界の猫は、こんな姿なのだろうか。それはそれで、何とも腑に落ちない。


 有り得ない。これが、聖女?


 こんなの、幾ら命が有っても足りない。自分じゃなかったら、食い殺しているところだ。


 これを殺すなと…………あの方にしては、無茶を言う。


 次の手を打つべく、彼女の腕にあった位置特定のブレスレットを噛み切った。それでも恐怖すら浮かべない娘に、深い深い溜息が漏れた。翌日は読めないだろうが召喚関連の書籍があるエリアに誘導し、聖女に不満を募らせるメイドが多い区間に差し向けたりもした。それでも紬喜は逃げ出そうとしない。


「日に日に魔力が強まっています」


 アルフレートが報告すると、クリスは不味いねと眉を寄せた。手に負えないと思われたら、殺されるのは必至。今は何とか幻惑魔法をかけて顔色が悪いように見せかけている。どうにか王城から出そうとしているのに、逃げる気の無い人間を逃がすという事は、思いの外大変な事だった。更に、恐怖を与えない方法となると、手数は減っていくばかり。


「しかもですね…………」

「…………まだ何かあるの?」

「毒物も体内で浄化できるようです」


 何て事だと、二人で頭を抱える。殺さないと危険だ、と言っているようなものだった。既に人の域を出てしまっている。


 紬喜をより病弱に見せかける為に盛った毒。どうも効きが悪いと思い、その日は量を増やしたのだ。効果はあった。その毒が浄化されるという、嬉しくない効果が。


「王城の連中は気付いてる?」

「いいえ…………しかし今日は、耳よりの情報を彼女に聞かせる事が出来ましたので」

「二次召喚の準備?」

「えぇ。流石に堪えた様でしたが…………潮時でしょう、明日王宮を脱出させます」

「…………うん。今度こそ、上手くいくと良いね」


 何度失敗したか分からないアルフレートは、口角を上げて嗤った。ここまで手塩に掛けて生かして来た聖女を、むざむざ殺されてなるものか。


 何も知らない少女。


 アルフレートに、ただただ優しく触れる。それがどんなに珍しく懐かしい事か――――紬喜は知らない。




大きな黒猫はアルフレートさんでした。

次回から、セッション5に入ります。

更新時刻は追い付かれ気味なので18時に。


やっと魔法世界っぽくなりますよー

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