4-5
紬喜が寝静まった深夜。
三人は例の如く居間で溜息を吐いていた。
「…………随分甘く見られましたね」
「か弱い人間に、守るなんて言われたぞ」
片言でハジメテと呟くラルスは、どこか呆然としていた。クリスが戸口で呆れ気味に振り返ると、ソファーに座る二人は、似たような苦笑を浮かべて脱力する。
「吹っ飛ばすって、どうやるんだよ。あれ、攻撃力皆無の聖女様だろう?」
「城の仕掛けを使うか、彼女の世界の技術を使うのでは?」
「守護陣の上の塔に?」
「勝算が無く、あそこまで啖呵を切れるとは思いませんが…………」
「絶対、あれは言っただけだろう」
クリスもやれやれと息を付いた。協力的なのは良い事だが、暴走されては困る上、その計画だと紬喜は確実に死ぬ。こちらが気を使ってきたというのに。本当に彼女は、予想外の申し子のようだ。
どうして魔獣の方なのか。本当に助けて欲しい方を犠牲にしてしまうなんて。
その無自覚さは紬喜らしくもあったが、自分でどうにか出来ると思っている辺りがおかしい。自由に出来る金銭は与えていないし、魔法だって鍛練している素振りもない。大見得を切るにしても、もう少し此方の事を探ればいいものを。
彼女は一度も、僕らの事を聞かない。
臆病だから焦れったくって。不条理を許せないくらいには潔癖なのだ。
「虐げられし、見ず知らずの醜く愛しい我らが同胞の為に――――死ぬ気らしい彼女は、間違いなく聖女だよ」
クリスは溜息混じりに言って、眉間を押さえた。
「召喚の話なんぞするから、こんな事言い出したんだぞ」
「ラルスだって、色々吹き込んだだろう?」
クリスが苦笑して言うと、ラルスはプイっと横を向いた。街で召喚士達の話しを聞かせ、尚且つ魔獣討伐の現場を見せてしまったのは、不慮の事故。しかし、ラルスは真面目だった。多少の責任は感じていたのかもしれないが、魔獣について聞いてきた紬喜に、要所を話してしまったのだ。
もう頃合いだろう。
クリスが思ったように、彼らも思ったようだった。アルフレートは、立ち上がるとクリスの傍に跪く。
「紬喜様を死なせるつもりは、ありません」
「勿論だ。僕の意見を支持してくれて嬉しいよ――――アル」
「結局、焚き付けられたんだろう?」
「ラルス・レイナス、君だってそうだろう?」
ラルスも傍に膝を付いた。命令を待つ二人を見下ろして、クリスは目を細める。さして踊らせるつもりも無かった駒が、自ら舞うと言うのなら利用するまでだ。紬喜はもう止まらないだろう。延命は手探り状態。しかし、彼女にやる気があるのなら、試す方法は幾つかあった。
その方法の過程で、この国どころか世界が歪む、かもしれないが――――
浮かぶのは自嘲の笑み。百五十年に渡って描いてきたシナリオは、復讐とはいえない清さと、相反する残虐さをあわせ持つ。片棒を担ぐのは、この国の聖女様本人だ。
「ラルス・レイナス・レ・ザウシャッヘルに『鏡の魔導書』の基礎となる個体への対処を命じる。西域諸国は滅ぼして来て良いよ。思う存分、暴れておいで」
「承りました」
「アルフレート・ラ・ローデンシュヴァルト、君には王城の魔道具への細工を頼むよ。うっかり紬喜が死なないようにね」
「承知致しました」
「僕は父上に告知をする。さて、仕上げをしよう」
紬喜の投げた采は深夜、最大値を叩き出していた。




