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聖女のコトワリ  作者: 秀月
聖女と働かざる者
10/63

3-1

 王都の暮らしを始めてから、数日が過ぎた。


 生活にも慣れたし、住人達とも幸い、良好な関係を築けている。だが一日は怠惰に満ちていた。


 朝夕に入浴を進められている内に、食事の準備は終わっていて、その片付けは勿論やらせてもらえない。街の事や日本の事を話す午後の一コマはクリスの趣味のような時間で、一住人として参加出来る家事は、何処にも無かったのだ。ニートまっしぐら。ダメ人間になりそうだ、と逆に危機感を覚え始める。


 やらなければならない事があるのに。


 なあなあにしていても、自立と逃亡の問題は片付かない。聖女としてクリスの利益になるなら、それでも良いとは思う。けれど受け身じゃ駄目だ。気が付いた時には、また最悪の選択肢しか残っていませんでした、では学習能力が無さ過ぎる。


 今回みたいな僥倖は、何時も訪れるとは限らない。何もしない事、出来ない事と嘆く事。どちらも自分の為にはならなかった。


 思い出すのは、召喚されて七日が経った頃の事――――


 それくらい経つと、帰還の目途が立たない事に不安を感じ、代り映えのしない生活に焦り始めた。このまま何時まで続くのか。終わりの見えない作業ほど精神的に疲弊する。


 もう帰れないかもしれない、と涙に暮れる夜を過ごし、昼は従順な聖女を演じながら周囲をよく観察して過ごす。現状打破と思って探したのは、一人になれる時間。そんな些細な事だった。


 お祈りと食事だけの生活。


 召喚されて、聖女という猫を被る紬喜にとって、毎日は緊張の連続だった。


 はぁーっ!


 溜息すら心の中でしか吐けないのは、常に傍で佇む二人のせいである。


 聖女付きの女官メイドである彼女達は、シンプルな緑のドレスに白のエプロンという可愛い服装にも関わらず、能面の如き無表情。目線すら合わせない徹底した態度で、フレンドリーな感じが一切しない。お節介だろうが、お互いに仲が悪いのではないかと心配になった。


 聖女様な紬喜は、こんな二人を手懐けるべきか、どうすべきなのか激しく悩んだ。ただ分かるのは、この能面メイド達の前でさえ気が抜けないという事で。


 全人類の中からという確率でハズレを引いて召喚された訳だが、どうも周りの反応には違和感がある。具体的は、有難がられない。たとえば、お祈りの時間に感じる冷たい視線。廊下ですれ違う時、異常に避けられる事。極めつけはこの、能面メイドの二人組だ。


 まず一人にはなれない。寝室に入っても付いて来るし、ベッドに入っても、二人は紬喜が寝付くまで扉の前で直立不動の構えなのだ。本当に息が詰まる。


 ちなみに一度、たぬき寝入りがクリティカルヒットして、遂に二人を追い出すことに成功した。だが彼女らは、戸締まりを確認して部屋を出ると、外側からガチャンと鍵をかけたのだった。


 明らかに異常だ。なんで閉じ込めたんだ、と呆然とした。


 ここの世界に、聖女は一人。


 しかし、彼らは二人目を呼び出せるかもしれない。仮に二人目が呼ばれたとして、そこでお役御免と帰して貰えればいいが、地球にすらない召喚の技術が、馬鹿高い代償を払っている可能性は捨てがたい。


 役に立たない聖女は借金地獄か強制労働、最悪、どんな未来が待っているのすら分からないのだ。


 だから、望まれる聖女を演じるしかない。


 代わり映えのしない聖女の一日だが、変わった事も時々あった。例えば、一通のカード。それは恭しく銀のトレーに乗せられて、水色のメイドが運んできた。


 月待の日、第二十七庭園に午後三の鐘、とのこと。まさか、庭園を一から順に歩かなきゃ着かないなんて言わないよね、と焦りつつ能面メイドを見やると、二人は明らかに狼狽していた。


 二人は、ご同行出来る者を探して参ります、と部屋から飛び出して行く。意図せず一人にはなれた。


 聖女様としての最優先事項はお祈りで。


 朝に昼間に夕方に、夜。決められた聖句を唱えて、ひたすら祈る。特に宗教と言ったものに馴染みがない紬喜には、どれだけ効果があるのか分からなかった。


 神聖なその場所で聖句の斉唱が終わると、もっぱら家族や学校の事を考えて暇を潰した。それなのに、妙に気分が疲れるから嫌になる。それが一日四回もあるというのに、しばらく経つと、屋外での特別なお祈り時間が追加されて更に忙しくなってしまった。


 はっきり言って被害者な私。


 こんなに気疲れな毎日を送るのは、可笑しいと思う。


 当初の目論見通りに衣食住は問題ないが、これは要するにタダ働きだ。タダより安い物は無い!


 そもそも、聖女としてどれだけ功績が上がっているのか、さっぱり分からないのだ。何時終わるのか、帰れるのかも分からない。この辺りで胃痛になれれば可愛げがあるのだが、生憎そんな兆しも表れやしなかった。


 紬喜は若干落ち込んで、丈夫な胃を撫でてやる。褒めて伸ばすのは良い事だ。




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