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《勇者》ト《眷属》ノ物語  作者: 鎌太郎
第四章 学舎ノ才媛
96/125

6/友情とは 其ノ一

遅くなって申し訳ありません、体調を崩していましたので。

では、本編をどうぞ!






 ――夜も更けてきた。

 闇夜というのは不思議なもので、恐怖の対象になる事もあれば、時に人を〝解放〟する良きものへと変化する。

 それもまた恐怖からくるものなのか、それとも単純に見えないが故に、大胆になっているだけなのか。

 それはさておき、今日も今日とて、酒場は大盛り上がり。いくら学術都市とはいえ、そこは変わらない。

 むしろ学術都市だからこそ、日頃教師から厳しい指導を受けている生徒達はストレス解消にやってくる。

 ……なんて言い訳をしたところで、内実はさておき、傍目から見りゃ酔っ払い以外の何者でもないんだけどな!


「トウヤ、本当にお酒、好き。皆も、好き。

 ……変わってる」

「酒場で皿を大量に重ねているお前の方が、オレは不思議だよ」


 騒がしい店の中で、オレ達は向かい合いながら話す。

 オレは適当にエールを注文した。適当と言いつつ、つまみである塩豆を口にしながらだからか、もう三杯目だ。

 対するウーラチカは、酒なんざ一口も飲まずに、この店にある食料を食い尽くす気なのか、様々な料理とスープを頼み、食べ、その空き皿を塔のように重ねている。

 このまま、店の食材を枯渇させようと言わんばかりだ。


「何で皆お酒好きか、おれ(ウー)、分からない」

「まぁ、お前はそうだろうなぁ……」


 自然界にもアルコールが混じったものが生まれる場合もあるだろうが、そんなもんは稀だ。酒なんて飲んだ経験は少ない。

 というか、森の中では、「そんなものよりまず食料」という発想になるだろう。

 いくら樹人族(エント)に守られていたとはいえ、家の一軒もないような場所での生活なら、生活というよりサバイバルだったろう。


「試しに一杯飲んでみるか?」

「いらない。ウー、美味しいものあれば充分」

「贅沢なのか、そうじゃないのか」


 美味い飯が食えない奴もいるんだから、贅沢なんだろうさ。


「――で? 良いの? サシャを一人にして、ウー達こんな所でご飯食べて」


 ウーラチカの言葉に、オレは苦笑する。


「良いんじゃね? 別にサシャだって弱いわけじゃねぇ。戦闘に慣れてないとはいえ、魔術学科の主席殿が一緒なら、心配はないだろう」


 危険がないというのは、はっきり言えば間違いだ。敵がその気になれば周囲の状況など勘定にいれず、サシャとニコラを殺しに来るだろう。


 直接的な戦闘になれば手が出せないサシャ。

 戦闘経験が無いニコラ。


 二人に出来る事は、オレ達が来るまでの時間稼ぎ程度だろう。

 ……だがサシャの推理がその通りであるならば、オレ達の出番はないに等しい。何せ犯人が求めているのは実験の成功と、それによって得られる名声。

 今回の事件のように自分の正体を明かさないならまだしも、明かしちまうような大掛かりな事はしない筈だ。

 まぁここまで話が大きくなった時点で、それはもう御破算のような気もするが、未だに薬が出回っている以上、犯人はどうやらそうは思っていないようだ。

 とにかく、大きな鉄火場はやってこないだろう。


「仮にやってくるとしても、オレらは勿論何とかするし、それだけの力がある事は理解しているつもりだ。

 ……つっても、気を張り続けるってのも体に悪い。時には緩ませるのも大事って話だ」


 そう言いながら、オレは残りのエールを飲み干し、近くを通った店員にもう一杯注文する。


「ウー達、もっとやる事、あるような気がする」

「……へぇ、そりゃあ、どんな事だ?」


 ウーラチカの思わぬ一言に、オレは少々動揺した。

 森から出たコイツは……いっちゃあなんだが、受身だった。

 そりゃあ右も左も分からないような場所で能動的に動けってのは、無理な話だ。全てを聞き、全てを学んでいくしか、コイツにすべき事は無かった。

 まぁ元々リアクションが薄いタイプだったし、てっきり最初からそういう奴なのかとも思ったんだが……驚きだ。

 今、コイツは能動的に動こうとしている。


「ウー、ショーンの悩み、何とかしたい」

「……あぁ、なんか悩んでるっぽかったな」


 オレから言われた言葉が原因なのか、それとも最初からそういう考えがあったのか。どっちにしても、あまり良い考えじゃなさそうだ。

 どう見ても後ろ向きで、暗い考え。

 勿論、断言なんかしちゃいけないんだろうが、どうにもあの悩みに飲まれている顔ってのは、気に入らない。

 ――だが、


「で? それこそオレらの仕事じゃないぜ?」


 オレ達は《勇者》の《眷属》だ。

 そりゃあ困っている人がいれば助けるが、それはあくまで『任務』の内に入っている場合のみ。それ以外での干渉は良い事とは言えない。

 そもそも、ショーンは只の一学生。これからの付き合いも無いような男だ。そんな奴を助ける道義が、《眷属》としては見い出せない。


「でも、ウー達は、」

「正義の味方、善人を守る、ってか?」


 ウーラチカの言葉を遮って、オレは言葉を繰り返す。


「はっきり言うぜ、ウーラチカ。サシャの信念は立派だし、オレも賛同する。だけど、どんなものにだって限度ってもんがあるはずだ」


 全てを救う。

 サシャの描いている理想は尊敬に値する。だからこそオレはアイツの剣になる事を誓ったんだ。

 ――問題は、それをどこまで遵守出来るか。

 オレにとって一番重要なのは『サシャの命を守る事』。そのために切り捨てなければいけない存在がいるのを、忘れる訳にはいけない。

 それが直接的にせよ、結果的にせよ、だ。


 全部を救うの全部に、悪人は入れられないのと同じように。

 全部を救うの全部に、米粒サイズの個人を加えられないように。


 ……酷い言い草だろう? だが、オレはそういう風に考えなければいけない立場に立ってしまったんだ。

 それはオレだけじゃなく、ウーラチカも。


「《眷属》として、ショーンを助けようなんて考えんな。

 それはオレ達には許されない。《勇者》の力は個人の為に振るってはいけないもんなんだ」

「……うん、」


 オレの言葉に、ウーラチカは肩を落とし、どこか悲しそうにスープの器を見つめている。

 ……あぁ、くっそ。どこまで真面目で素直なんだコイツは!


「おい、今の言葉の意味、ちゃんと分かってるか?」

「……ウーが助けるの、良くない」

「そういう意味じゃねぇよ、やっぱり気付いてなかった!」

「?」

「――あぁ~、つまりだな。




 〝友達〟としてならアリって事だよ!」




「――っ!! うん、分かったっ」


 もう一度言いなおされたオレの言葉に、ウーラチカは嬉しそうに、食事を再開する。

 まったく、これじゃあ同僚鍛えてんのか、子供育ててんのか分かんなくなるなぁ……まぁ、祖父さんの家で、そういうのは既に経験済みだけどな。

 新しくやってきたエールを飲みながら、なんとなく苦笑する。

 傭兵だの盗賊崩れなど、他人からは色々言われてきたもんだし、最初はオレもそんな印象だったんだが、蓋を開けてみりゃこの通り。

 どんなもんでも、表面上のものに騙されちゃいけないね。

 そう思いながら、オレはゆっくりと視線を彷徨わせ、


「――ん?」


 路地の中に、ショーンの姿を見た。

 ちょっとばかし遠めだからあれだが、眼鏡をかけている生徒なんて早々いないし、何よりここ最近顔を合わせているのだから、嫌でも分かる。

 噂をすればなんとやら、だな。

 そう思ってウーラチカに声をかけようとして、――止まった。




 路地の中に、あの黒尽くめ野郎がいるんだからな。




 男が、ショーンに何かを手渡している。

 手渡しているものは……いいや、これは説明しなくたって分かるだろう。チャンスというか、何というか。

 ――現場判断になっちまうが、これくらいは許して貰わなきゃな。


「おい、ウーラチカ」

「なに、トウ――あれは、ショーン?」


 すぐに反応したウーラチカが、窓の外を睨み付ける。コイツはオレより目が良い、方向さえ把握できれば、顔くらい一発だ。


「……どうする?」

「当然、折角だし追うしかないだろう。オレが黒尽くめを追うから、お前はショーンと話しをして来い」

「良いの? 身軽さなら、トウヤよりウーの方が良い」

「そりゃあそうだが、文字通り〝消えられたら〟、見えるオレの方が有利だ。

  それに、友達を助けるのは、お前の役割だろう?」

「――んっ」


 力強い頷きを確認してから、適当な量の銀貨を置いて、オレ達は店を飛び出した。







次回の投稿は、一月二十日を予定しております。

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