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《勇者》ト《眷属》ノ物語  作者: 鎌太郎
第四章 学舎ノ才媛
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5/少女二人の捜査 其ノ一






 ――と、ここでオレが仲間を呼び、大捕物なんて事が出来るならそうしていたんだが、生憎そういう事は出来なかった。

 拍子抜けだろう? 吟遊詩人が語るような物語ならそうするべきだったし、オレもそれは考えた。

 だがここで一番重要になってくるのは、捕まえられなかった時の可能性を考える事だ。

 もしここで犯人を捕えられなかったら、十中八九、犯人は雲隠れするだろう。

 いくら世権会議が優秀で、そのなかでも《勇者》なんて存在が強力だったとしても、捕まえるのは無理。

 より確実に捕まえるのは、証拠と犯人の正体をセットにしておいた方が確実だ。顔すら判別しきれていない今では、逃げたとしても捜索は難航するしな。

 だから、その日はそのまま黒尽くめとは別れて、オレは薬を大事にしまいこんで酒場を出た。

 で、その次の日に何をするかと言えば、


「ふぅん、これが魔高薬(エリクシル)ね」


 校舎裏。そこは世界が変わろうと時代が変わろうと、やっぱり人がなかなか来ない場所で、秘密の会合にはうってつけの場所だ。

 普段なら、若い恋人達が逢瀬を重ねているか、あるいはこの学園にも一定数いる柄の悪い生徒がはばを利かせているんだろうが、生憎今日はそういう話じゃない。

 適当に階段に座り込んでいるサシャは、魔高薬が入った小瓶を光に翳しながら、注意深く観察する。


「薄く発光している以外に目立った特徴はないし、それ以外は普通の薬と変わらないように見える。

 まぁ、こういう薬って、見るだけではどうにもならない場合が多いんだけどね」


 そう言いながら、サシャはその小瓶を懐に仕舞い込む。ニコラに調べてもらうんだろう。


「ご苦労様、取り敢えずこれで、貴方の仕事は終了ね。

 しばらくは学生生活を満喫してなさいな。私とニコラが、あとは調べていくしかないしね」

「そいつは有難い話だが……大丈夫なのか? そんな危険な薬を扱っているような奴だ、物騒な話になる可能性もあるぞ?」

「それは……正直、あんまり心配していないのよね」


 オレの心配をよそに、サシャは呑気に肩をすくめる。

 どっちかって言えば、きっちりかっちり慎重にってのはサシャの領分で、マイペースで柔軟で冒険家なのはオレの役割だったと思うんだが、どうやら彼女も成長しているらしい。

 成長というかは、人によるんだけど。

 しかし、オレは一応彼女の剣であり盾。危険に遭わせる可能性がある以上、ここでハイそうですか、と素直に頷くわけにはいかない。


「根拠は? お前がそう言うって事は、ほぼ確信に近いんだろう?」

「まぁ、そう聞かれるわよね……ねぇ、アイツは本当にお金を払わせなかったのよね?」

「ああ、それは確かだな」


 あのあと、黒尽くめは本当に俺の金を受け取らず、そのまま席を離れてしまった。

 魔高薬の効能を考えるに、作るのに相当の労力、時間、そして資金を必要としている筈だ。そんなもんをタダで渡しちまうなんて、普通の神経じゃあり得ない。

 どんなに綺麗事言っても、人間は損得勘定に縛られている。

 信念の為に、民の為、無欲で働いている人間にも、何かしら“得”があるのだ。その得が有形無形、様々な形を持っているだけの話で。

 つまり、あの黒尽くめにも、金銭ではない別の〝得〟が存在する事になる。


「お金儲けが目的じゃないならお手上げ……ってなりがちだけど、物がコレなら、思い当たる節はある。

 トウヤには理解出来ないでしょうけど、こういう薬って完成までに人間で試さなきゃいけない段階があるの。必然的に誰かに頼らなきゃいけない」


「――ああ、なるほど」


 ようは〝治験〟だ。

 前の世界でもあった、薬の効能を確認する為の実験だ。

 出来るだけ多種多様な人間に薬を打って、隠されたデメリットや何かを確認する作業だ。この世界ではあまり聞いた事はないが、一般的ではないだけで、存在はしているらしい。

 オレの納得を確認してから、サシャは話を続ける。


「貴方への会話で、まず彼が駆け引きが苦手……つまり、こういう悪い事に慣れていない人間だと感じたの。

 そんな人間がわざわざ薬をばら撒いているって事は、どこかの犯罪組織を経由しているって事も恐らくない。

 考え得る可能性は?」




「……作っている研究者、つまり魔術師の単独犯か、研究色に近い魔術師集団が犯人の可能性が高い」




「うん、正解。つまり、犯罪に慣れていない集団。

 って事は学校内にいる魔術師を狙った方が早いし、簡単に接触出来るのは私とニコラだけ。研究職中心なら、鉄火場には慣れていない。私とニコラで十分」

「むしろ人数が多ければ、情報漏れや相手に察知される可能性も上がる、と」


 ……今日はどうやら、サシャの言葉が正しいらしい。

 実際、この世界の魔術師って人種は面と向かっての戦闘に慣れていない。どっちかって言えば、後方で大型魔術を放つ、戦場での“兵器”役だ。

 むしろ、【エント・ウッズ】で出会った呪師や、サシャの存在が異常と言っても良い。

 サシャにはもしもの時の切り札があるし、ニコラも一定の実力を持った人物だ。捜査するだけなら、そう危ない事にはならない、か。


「了解、大人しく待っておくよ。何かあれば、直ぐにオレらに連絡取れるようにしておいてくれ」

「ええ、そのつもりよ」


 そう言って、会話が終わった。

 ……のだが、オレもサシャも、どちらもこの場から離れようとはしない。オレはこの話し合いがバレないように時間差で出ようとしているだけ。

 つまり、サシャにはまだ話があるようだ。


「他に何かあるのか?」

「ああ、うん、えっとね……」


 オレがそう言うと、サシャが少し言い澱みながら俯く。


「……もし、ニコラを仲間にしたい、って言ったら、怒るかしら?」


 ――ここでの仲間ってのは、ようはニコラを《眷属》にしたいって話だ。


「……理由を聞いても良いか? 直接話すようになってたった三日か四日……ああ、いや、時間的にはもっとか。

 ウーラチカの時はそれなりに納得出来たが、ニコラに関してはどうにもなぁ」


 今の段階で、あのニコラを気にいる理由がない。

 ウーラチカの場合は、あいつの生い立ちやら性格が、案外短期間で理解出来た、言わば“例外”みたいなもんだ。今回もそうだとは、オレはどうしたって思えない。

 そりゃあ、一晩中飲み明かした仲だが、だからって気を許している訳じゃない。

 むしろニコラの方がオレらに自主的な壁を作り、出来るだけ深い関わりを作らないようにしている。

 あれじゃあ、流石のオレだって二つ返事で良いよーとは言いづらい。

 だから、理由があるなら聞いておこうと思ったんだ。


「えっと、どう言って良いか、分からないけど、




 勘?」




「……あぁ?」


 思わず声を上げる。

 ……だんだん柔軟になってきたとは言え、彼女は頑固な堅物の部類だ。

 基本的に真面目で、予測で動く事はあってもそれは確固たる理論の元で立つ予測であって、決して気分に流される事はない。

 まぁ、それが《勇者》ってもんだからな。

 そんなサシャが、言葉を選ばなくて良いなら『なんとなく』で《眷属》候補を推したのだ。


「……頭でも打ってんのか、もしくは酔ってんのか? 昼間っからお酒とは、《勇者》様にしては珍しい。オレも混ぜろよ」


「もう、やっぱり馬鹿にする! 私も自分でイマイチ分かってないんだから!

 なんか、こう……あの子は、悪い子じゃないような気がするのよ。何となくとしか答えられないほど、曖昧かもしれないけど。

 だから今回の捜査を二人でやれば、」


「もっと、あいつの性格やなんかを理解出来ると……なるほどねぇ」


 オレがニヤついているのが気に食わないんだろう、サシャはオレに鋭い視線を向けてくれるが、全然気にしないね。

 だって、あのサシャがそんな感情論で動くなんて、滅多にないもんな、楽しくってしょうがない。


「もう、からかわないでよ。私だって何が何だか、」

「ああ、別に馬鹿にしている訳じゃないって。からかってはいるが、馬鹿にはしてない」

「からかってくるのは否定しないのね……」


 だって楽しいもん。大事な事だからな。

 オレは不貞腐れているサシャの隣に座りながら、自分の思ってる事をそのまま言ってみる。多分、怒られるような言葉を。


「――良いじゃねぇか、勘だろうと何だろうと、さ」

「良くないわよ! 私は中立中庸を守る《勇者》よ、自分の感覚だけで、そんな決断を下してはいけないわ」

「そりゃあそうかもしれないけど……あのなぁ、勘ってのは結構重要なんだぞ?」


 勘、と聞くと人間は理論が伴っていない当てずっぽうだと考えるが、それは違う。戦いの中や、危険な状況、それに人に関して言えば、勘ってのは大事だ。

 別に人間、何かを決める時に何も考えていない訳じゃない。どころか、どんなに小さな事でも頭は回転し続けている。

 『何となく』で選んだそれは、どこかに理由があるはずなんだ。


「特にお前は普段、勘や自分の考えだけで動く人間じゃない。って事は逆に、裏には大きな理由があるかもしれないんだ」

「………………」


 分かるような分からないような。

 そう言いたげにサシャは眉間に皺を寄せちゃいるが、まぁこればっかりはオレが説明してどうにかなる話じゃない。

 自分の中で湧いた疑問は、自分で答えを出さないとな。


「どっちにしろ、オレに訊いたって事は、まだお前の中で結論にはなってないんだろう?

 良い機会じゃないか、ゆっくりニコラを品定めすりゃ良い」

「言い方が悪いけど……まぁ、そうするわ。ありがとうね」


 そう言って、サシャはほんの少し晴れた表情で立ち上がり、オレに振り返る事もなくそのまま校舎裏を後にする。

 ――まぁ、オレも何となくではあるが、分からない話じゃないんだ。


 サンシャイン・ロマネス。

 ニコラッティエ・リヒティン。


 この二人を並べてみれば、共通点はいくつ見出せるかもしれない。勿論、ニコラの事をオレも多くは知らないから、これだって確証はない。

 でも、あれはなぁ。




「……似たもん同士ってのは、やっぱ引き寄せ合うのかねぇ」




 青天井を見上げながら、オレはしみじみと呟いた。






次回の投稿は、一月七日を予定しております。

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