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《勇者》ト《眷属》ノ物語  作者: 鎌太郎
第四章 学舎ノ才媛
84/125

其ノ三






 ――訓練場の中で、二人の青年が向かい合っていた。


 片方は、《眷属》であるトウヤ・ツクヨミ。


 いつもとは違う、使い込まれた赤茶色の革鎧を着込み、腰には一本だけ、剣というには少し短い片手剣を帯びて、正面にいる敵をまっすぐに見つめている。


 片方は、騎士学科所属、ゴウマ・タクァービシャ。


 こちらは、トウヤと違って重武装だった。兜こそ被っていないものの金属特有の煌めきを持ったフルプレートメイルを着込み、大きなカイトシールドと片手剣を持っている。

 ……装備差は歴然。

 事前に了承した事だ、と分からない野次馬達は、その段階で既に戦いの結果を決めつけていた。

 重武装の人間の方が強いに決まっている。

 戦いに疎い生徒達にも、また聡い生徒ですらそう考えていた。

 だからだろう、ゴウマの表情も、実に余裕綽々だ。


「ハッ、俺に本気の装備を許可するとは、実に愚か! そのような貧相な革鎧と剣だけで、何が出来ると言うのか!」

「………………」


 ゴウマの挑発にも、トウヤは何も答えない。ただゆっくりと息を整え、目の前の敵に集中している。

 その不気味なほどの静けさに、ゴウマはチッと舌打ちをしながらも、さらに言葉を続ける事はしなかった。


「――改めて、取り決めを確認します」


 中央に立ったサシャが、凛とした声を訓練場に響かせる。


「制限時間なし、『参った』と相手に言わせるか、審判である私の判定により、勝敗が決定いたします。一本ではどちらかに文句が出るでしょうから、三本勝負。二本先取で、勝利が確定します。

 武器を途中でどこかから持ってくる、故意な急所への攻撃、殺傷に至る怪我を負わせようとする、これ以外は自由。

 両者、構いませんね?」


 ルールとは言えないほど、実に単純なもの。だが、魔法を使う事もしない、あくまで剣勝負の決闘であれば、ルールなどあってないようなものだ。そもそも、出来る事がないのだから。

 サシャの言葉に、


「ああ、そうでもしないと、こいつは勝てないだろうからな……良かろう」


 一言も二言も余計に答える。

 対するトウヤは、


「――ああ」


 たった一言、そう返事をするだけに留めた。

 スイッチが入っているのか、それともこれ以上話す事はないだけなのか、普段は意外とお喋りなトウヤにしては、珍しい。

 それを意図的に無視しながら、サシャは右手を上げる。

 まるで、手刀で空を切ろうとするような仕草で。




「では、両者――はじめ!」




 構え、とすら言わない単純な合図と同時に、両者は動いた。

 まずはゴウマだ。いくら他者を侮り、傲慢な態度を崩さないとはいえ、彼も騎士学科で学ぶ生徒の一人。その動きは迅速だ。

 片手剣を抜き、即座に盾を正眼に構え、相手の出方を伺う。

 馬に乗らない場合の対人戦において、盾持ち騎士のポピュラーな動きだと言えるだろう。重武装の人間では速さは期待出来ないのだ、相手の攻撃を伺うのは当然。

 ――だが、すぐに衝撃が盾を襲う。


「ぐっ!?」


 それは、ゴウマが想定していたものよりもずっと重く、体が浮き、重力に従って倒れそうになる体を、なんとか支える事しか出来なかった。

 目の前でそれが行われても、何が起こったか、すぐには理解が追いつかない。

 それは、ゴウマだけではない。その戦いの行く末を見守っている生徒達も、見届け人として立っている教師二人も、審判を行なっているサシャも、あんぐりと口を開けていた。




 トウヤは、剣を抜く事もせず。

 ドロップキックを放ったのだから。







 盾持ちの、金属鎧を纏った騎士。

 こういう奴を相手に、まともに正面から戦うのは、果たして利口だと言えるだろうか?

 ――答えはNOだ、あり得ない。

 んなの、甲羅に篭っちまった亀を叩き続けるようなもん。向こうにダメージはない上に、こっちが疲れていくばっかで、意味なんざない

 硬い相手に使える戦法は、主に二つ。

 防御力以上の攻撃を繰り出すか、防御を無効化するか。

 普段、サシャから大我(マナ)を供給して貰って、ギフト使っているオレは前者を使う。ギフトなら、大概の物は斬れるしな。

 だけど、今回はそれが使えない。ギフトは問題なく使えるが、そんなもん使ったら目立つし、何より使ったら、相手間違いなく致命傷を与えてしまう。

 なら二つ目……防御を無効化する。

 この場合、向こうはするのは盾だ。盾さえ払いのけちまえば、いくら金属鎧とはいえ、隙間に攻撃出来る場所が沢山ある。そこを剣で軽く突いてやりゃ、バランスは崩れっぱなしだろう。

 ……まぁ、今回はもっと大きな弱点(﹅﹅)を、向こうが晒してくれている。


「ぐっ、貴様卑怯な!」


 ゴウマが体勢を崩し、苦悶の表情を浮かべながら叫ぶ。


「戦場に卑怯もクソもねぇよバァーカ!!」


 オレは思いっきり罵倒しておいた。

 こういう挑発も、戦いの場では結構あるあるだ。

 なんたって、


「貴様っ!!」


 敵が勝手に怒ってくれるからだ。

 体制は立て直せたものの、その怒りで盾の防御は疎かになり、片手剣での攻勢に出る。

 せっかく防御力を上げているのに、これじゃあ下策だ。


「よっと、」


 片手剣を、軽くスライドで回避し、


「オラァ!!」




 顔面を殴った。




 真正面から顔面を殴るっていうのは、結構効果が高い。

 こっちは籠手とまでは言わないが、硬い革鎧で拳を保護しているから痛まないし、ダメージが上がる。

 何より、正面から殴ったら、慣れていない人間は目を瞑ってしまう。それじゃあ避けられない、当て放題だ。

 普通、1番大事な頭やら顔やらは兜でガッチガチに守るもんだんだが……こいつは何を思ったのか、つけてこなかった。

 そこに攻撃を加えない訳がない。


「ガッ!?」


 殴られた所為で、ゴウマがまた体制を崩す。

 その隙を見逃さずに、剣を抜いて、鎧の上から思いっきりぶっ叩いてやる。


「グハッ!?」


 金属がぶつかり合う大きな音が、訓練常に響く。その派手さに比べれば、ダメージは微々たるものだ。直接攻撃出来ないんだから、そこはどうしようもない。

 だが、衝撃はそのまま相手に伝わる。

 多少弱まっていようがなんだろうが、それに慣れていない人間にとって、近くで響く大きな音と衝撃は、混乱させる事においては実に有効だ。

 数歩下がって間合いを取るゴウマを、オレは黙って見逃した。


「ハァ、ハァ……貴様! 何をしているのだ!!」


 一分にも満たない攻防だが、ゴウマの息は荒い。

 短い間に盾に蹴りを入れられ、顔面殴られ、おまけに鎧ぶっ叩かれてるんだから、まぁしょうがないが。それでも喋ろうとするのはもはや意地だろう。

 殴った顔は、鼻が少々赤くなったくらいで、血も出ていない……ちょっと弱めに殴ったからな。


「決闘で剣も抜かず、このような、これでは酒場の喧嘩も同義ではないか!」

「そりゃあ、酒場の喧嘩だって決闘だって、大きな意味じゃ変わんねぇからな」


 ゴウマの批判にも、オレは冷静に答える。

 いやだって、大した違いじゃないからな。いや、殺傷なしの決闘なんて、下手をすれば酒場の喧嘩以下だ。


「ふざけるな! 貴様、誇りはないのか!?」

「……はぁ、マジで言ってんのかお前」


 ゴウマの言葉に、オレは溜息を吐き、




「ないに決まってんだろ、そんなの」




 断言する。


「なっ……」


 絶句するゴウマに、オレは言葉を続けた。


「ルール上、『殴っちゃいけない』なんてどこにも言われてないし、こんなの勝ちゃ良いんだから」


 ――勝てば官軍。

 前の世界の知識として、頭の中に残っていた格言だが、この世界に来て妙に実感させられる。

 勝てなければ、意味がないのだ。

 戦場でも、隊商の護衛でも、魔獣討伐でも。価値の種類がどれも違うが、しかし勝たなければ意味がない事実は変わらない。

 勝てなかったら無報酬どころか、命を落とす。そんな場所でクソの役にも立たない誇りやらプライドやらを持っていた所で、意味はないのだ。

 それは、普通の生活だって変わらない。どんなに頑張った所で、実りが悪けりゃ農民は死ぬ、物が売れなきゃ商売人は貧しくなる。

 結果が伴わないプライドほど、余計なものはない。


「そもそも――誇りとやらを持って戦ってるお前が息を切らせて、んなもん持ち合わせてないオレが涼しい顔で立ってる時点で、既にお察しだろう?

 なぁ、ザコ巻貝(﹅﹅﹅﹅)

「――っ、きっさまぁぁあああぁあぁああ!!」


 剣が翻る。

 最初の冷静さは、もはや欠片も残っちゃいない、盾も意味を成さない大ぶりの攻撃。

 軽く避けると、そのまま軸足を払う。


「あ、――ガハッ!!」


 間の抜けた声のすぐ後に、地面に押し付けられた声が響く。フルプレートメイルの所為で、バランスを立て直す事が出来なかったのだ。

 だから金属製の全身鎧って嫌いなんだよな。馬に乗ってランス使うなら良いんだが、地上戦なら向かない装備だ。

 それすら分かっていないんだな、と思うと、呆れを通り越して悲しくなる。こういう奴らに使われて、傭兵や兵士が無駄死にする事を考えると。


「……立てよ」


 敢えて追撃をせずに、オレは出来るだけ冷たく聞こえるように話す。


「くっ……調子に、乗るな!!」


 立ち上がると同時に、下から切り上げるように剣が振るわれる。

 それを回避し、そのままもう一度横っ面をぶん殴る。

 勢いで顔が逸れ、口から血の混じった唾液が飛ぶ。恐らく、口の中を切ったのだろう。

 気にせず、そのまま盾を持った腕に、模造剣を思いっきり叩きつける。


「ギッ!?」


 嫌な叫びと共に、堪り兼ねて盾を取り落とした。本当なら、意地でも落としてはいけないものだったのに。

 そのまま足を引っ掛けるような位置に置き、また模造剣で鎧を叩く。

 その衝撃でゴウマは一歩後ろに下がろうとして……オレの足に引っかかり、またも地面に倒れる。俯せだった先ほどとは違い、仰向けに。


「……立てよ、」


 口の端から血を流しながら、苦悶の表情を浮かべているゴウマに、もう一度同じ抑揚で話す。

 ……我ながら、性格が悪いとは思う。

 こんな、相手を弄ぶように戦うのは、趣味じゃない。本当はやりたくない。戦いを楽しむ趣味はないが、それにしたってコレは嫌だ。

 卑怯を通り越して、これじゃあ残酷ってもんだろう。

 でも、今回の〝勝ち〟は、コイツをぶっ飛ばすのが条件って訳じゃない。

 見せてやるんだ。練兵学科の連中に、ショーンに。




「立てよ――まだやれるんだろう?」




 『お前らのビビってる連中は、大した事がないぞ』ってな。







 観客になっている生徒達の大半が、この決闘をどこか引き気味に見つめていた。

 重装備の騎士をコケにしながら戦う姿は、お世辞にも美しいとは言えない。むしろ、大半の人間は嫌悪感を示す戦い方だろう。

 遊んでいるに等しいそれは、もはや戦いとは言えないようなものに成り下がっていた。

 だが、練兵学科の教官をはじめ、数人の人間にはなんとなく分かっていた。これが正しい意味での戦場なのではないか、と。


 卑怯上等、勝ちゃあ良いんだ。


 トウヤとゴウマの会話が聞こえない位置にいても、トウヤが何を言いたいかは何となく分かる。

 何より、彼の戦い方はそう悪いものではない。

 金属で作られた全身鎧の騎士への対応としては、間違いなく“正解”なのだ。教練書に載っているような用例よりも、役に立つ点は多いだろう。

 それは、ウーラチカと一緒に、この戦いを見守っているショーンにも、理解出来る部分だった。


「――上手いね、トウヤは」


 売店に売られていた炙り玉蜀黍(ポップコーン)を貪りながら、呑気に観戦しているウーラチカに向かって、ショーンは口を開いた。

 トウヤの戦い方は、“上手い”の一言だった。

 分からない人間には卑怯なだけ、遊んでいるだけにしか見えないだろう。

 だが一つ一つを見てみれば、感想は大きく変わってくるはずだ。

 敵と自分との位置取りは、遊んでいるように見えてもしっかりと考えられている。万が一予想外の動きをされた時に、対応出来るように。

 剣の一条を避けるのにも、挑発にも、ゴウマに攻撃を加える時も、ちゃんと考えながら戦っているのが分かる。

 何より、彼は意図しているのか、それとも訓練の賜物なのか、目を逸らすどころか、瞬きすら必要最低限にしているように見える。

 どんなに優位に立っていようとも、油断も慢心もせず、相手の一挙手一投足に集中しているのだ。

 だから、観客の困惑するような騒めきも、恐らくゴウマと一緒にいた騎士学科の生徒達が上げている、非難するような怒号も無視出来るのだ。

 ショーンだったら、気にしないなんて到底無理……どころか、そもそも、このように一方的に戦いを進める事が出来ないのだ。

 まだまだ訓練では発揮出来ていないが、授業を真面目に受けて来たからこそ、ショーンはそれを何とか察する事が出来ていた。


 派手さはないが、彼はきっと強いんだろう。

 そう察する事が出来る程度には。


「――トウヤは、強いよ」


 口の中の食べ物を全て飲み込むと、ウーラチカは静かに答える。


「トウヤは、強い。おれ(ウー)より、慣れてる(﹅﹅﹅﹅)


 ウーラチカの戦い方は、そもそも戦いになる前に終わらせる事を念頭に置いている。

 遠方から、弓での狙撃。相手が気付く前に殺してしまう、という方法。戦術としては正解だが、暮らしていた場所で戦いが少なかった事も相まって、ウーラチカは未だに実戦経験が乏しい。

 そういう意味では、立場はショーンと同じだ。


「……そっか、そうなんだね」


 ショーンの返事は、どこか寂しげなものだった。

 ……ショーンは、この学園の練兵学科に入って一年が過ぎている。通常三年から四年で卒業するこの学校では、ようやく訓練などに慣れて来た、程度だろう。

 これでも、努力したつもりだった。

 訓練は辛いけど頑張っているし、何より座学は他の人間より適性があったのか、自分でも優秀なのではないか、と言えるくらいには、成長していたつもりだった。

 ……それでも、彼の域に届ける自信はない。

 トウヤのように、堂々と戦える“才能”はないんだ……最初から分かっていた事を、もう一度噛みしめるような、苦々しい気分。


「……僕は、ここでも(﹅﹅﹅﹅)ダメなのかな……」


 ウーラチカに聞こえないように、ショーンの言葉は雑踏の中に消えていく。

 そこに、ほんの小さな、焦燥の芽を生み出しながら。




(――これは好都合ですねぇ)


 群衆の中に紛れている、ダレカが零した。

 この環境は、そのダレカにとっては、非常に好都合と言って良いだろう。

 薬を手渡しても、使わない人間は多い。当然だ、怪しい薬を使うのに抵抗感を感じるのは否めない。


(……でも、ここで使ってくれればなぁ)


 彼がアレを使ってくれるならば、きっと我も我もと続く人間は現れるだろう。そうしてくれれば、自分の目的も捗るというものだ。




(サンプルは、多ければ多いほど良いですから)


 ダレカは静かに、群衆の中で嗤った。







いつも読んでいただいてありがとうございます。ここでお知らせを1つ。

ご存知の方もいらっしゃるでしょうが、最近、新しい連載を始めたので、ここで読んでくださる方にも宣伝を、と思いまして。

タイトルは『鬼火遊戯戦記』といい、VRMMORPG物です。

無理に、とは言いませんが、出来れば覗いていっていただいて、気に入っていただければ良いなと思っております。


https://ncode.syosetu.com/n9481ei/


こちらがURLです。よろしくお願い致します。




次回の投稿は11月12日の0時に行います。

感想・ブックマーク・評価など、どうかよろしくお願い致します。

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