表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《勇者》ト《眷属》ノ物語  作者: 鎌太郎
第三章 秘密ノ姫君
72/125

8/宣言

一話目です!

二話目は夕方六時~夜九時頃を予定しております、どうかお楽しみに。






 ……既に二日の時間が経過し、城下町は普段以上の活気に満ちていた。

 城の窓から見ても、その喧騒は一目瞭然だろう。皆が笑顔で、どこか浮き足立っている空気が、こちらにも流れ込んできている。


 新しい王が決まる。


 それは国情が良くないこの国にとっては新たに変わる兆しのように思えるのだろう。結果そうではなかったとしても、今この時は希望に思えるものだ。

 そしてその希望が〝本物〟であったら良いなと、サシャ自身思っていた。

 子供のような願望だが、そうであってほしい。

 ――これから起こる事が、どうか良い方向に向いてくれる事を祈りながら。

 何時も着ている実用的なものではない、質素でしかし清楚さをかもし出すローブの裾を翻しながら振り返る。


 自室には、男が二人。

 一本の片手剣と一本の両手剣を持つ、黒い鎧を着た男。

 まるで一本の枝のような弓を持つ、肌の黒い男。


 サシャが自ら選んだ《眷属》――ではない。


「えっと、《勇者》様、本当に上手くいくんですかい? オレら似てるとはあんまり言えないような気がするんですが……」


 トウヤに扮した『七節擬(スティック)』がどこか不安げに零す。


「後で私が幻術をかけて誤魔化せば、まぁ見えなくもないわ。もっとも、貴方達はフードでも被って、黙って私についてくれば良いだけ。心配ないわ」


 その不安を何とか解消するために、サシャも無理に笑みを浮かべた。

 何せ大衆の面前、この国にとって非常に重要な式典でハッタリをかますのだから、当然だ。しかも、一つばかりではないのだから、もはや笑い声を上げても乾いたそれしか上がらないだろう。

 ――まったく、なに考えてんのアイツ。

 この作戦を立案した《眷属》を頭に思い浮かべて、悪態をつく。

 確かに、これくらいの事をしないと失敗する。正攻法で行けば、あちらは簡単にそれを利用して新しい策略を練るに違いない。


『頭が良いと思っている人間を騙すなら、こっちは馬鹿だと思えるくらいの方法じゃなきゃな』


 昨日したり顔でそう言ったトウヤの顔が浮かんで腹が立つ。正直、胃が痛んでしょうがない。

 しかしそれ以上の良い作戦が思い浮かばないのも、事実だった。

 ……このくらい派手でないと、この国は変わらないのかもしれないし、とも考えながら。


「さっ、二人とも準備して。暗殺者(アサシン)がこんな大舞台に立てること滅多にないんだから、気合を入れなさい」


 二人にそう言い渡しながら、自分の心にも気合を入れる。

 自分の役割はハッタリと最後の詰め。特に最後の詰めは、自分の《勇者》としての立場があるからこそ出来る事だ。それをもう一度自分に言い聞かせながら、目を閉じる。

 体の中を経由して、大きな力が二つ(﹅﹅)通っているのを感じる。

 この力が途切れない限り、まだ大丈夫。

 きっと自分の《眷属》達は、大丈夫だ。







 ……エリザベス姫とその護衛に就いている謎の傭兵を見失ってから、既に二日。今日はもう、戴冠式当日だった。

 〝同志〟にとって、その事実余り良いものではない。

 戴冠式前に姫を確保すれば、自分の計画はもっと確実であったはずだ。いや、それ以前にあのリチャードという間抜けがしっかりと役目を果たしきっていたならば、姫すらも利用する事が可能だったはずだ。

 ――まぁ、出来ない以上どうしようもない。ここで過去の事を考えていても、利益になる事は一つもないのだから。

 現在の状況で利用出来るものを考えるしかないのだ。

 それもこの二日でしっかりと出来上がっている。今にして思えば、これならば政敵を追い落としながら自分の思う通りの方向に舵を切る事も可能だろう。

 上手くいけば、一気にこの国の頂点へ上れる。

勿論、このまま姫が無事に戻ってきてしまう事も考えてはいるのだが、おおむねその心配はないだろう。


「失礼いたします」


 すぐ近くのカーテンの影に、新たな影が生まれる。


「……お前が私の命令をやぶって昼間に顔を出しているんだ。大事な用事なのだろうな?」


 最高級の鏡の前でタイを直しながら言う。


「勿論でございます。今しがた、例の傭兵と姫君が王都に入りました。

 現在、王都に配備している我が『群体蟻(アンツ)』の構成員は百にも届かん勢い……壇上に上がる前に、姫を八つ裂きにする事は、造作もありません」


 暗殺者の男の言葉に、〝同志〟は満足げに頷いた。


 『群体蟻』は、非常に弱い。


 戦闘においても、諜報活動においても、様々な点において他の暗殺者集団である(バン)には一つ二つ下がる。その特性を、長年雇っている〝同志〟は理解していた。

 彼らの持ち味はその数だと。

 百近い数の私兵を町の中に潜伏させられる人間が他にいるだろうか? 話に聞いている限り、確かに姫の護衛を務めている男は腕が立つのだろう。

 道中でも簡単に『群体蟻』の一組を倒したと聞いている。きっと、十人や二十人程度であればそれほど苦労もしないだろう。


 だが、それが三十人、四十人だったら?

 それでも足りなければ、五十人、六十人がいっせいに襲いかかってきたら?

 当然、気楽に倒せる存在ではなくなるだろう。


 しかも場所はこの王都。大きな通りは戴冠式を見に来た国民で埋め尽くされ、小道を使って迂回していくしか進む方法はない。そんな狭い場所でその集団に前や後ろ、さらに上から襲われれば反撃も難しい。

 何より、彼の手元には姫がいる。

 隠されていたとはいえ、否、隠されていたからこそ、そんな厳しい状況でまともに足が動くとも思えない。下手をすれば恐怖でその場に蹲る事すらありえるのだ。

 それは傭兵にとって、とてつもなく大きな足枷になるに違いない。

 〝同志〟は既に確信していた。




 もはや、彼らに勝利はない、と。




「では、壇上に上げない事を念頭に置き、殺せ。出来るだけ騒ぎは起こすなよ。せっかく私がこの国を変える日だというのに、そこら辺の路地で刀傷事件など、起こったら不味いからな」


 その言葉は、本音の半分といったところだ。

 もしその事件の所為で戴冠式が中止になろうものなら、自分が行う事も有耶無耶になりかねないからだ。


「承知しております――一応、舞台にも構成員を配備させましょうか?」


 影の言葉に、〝同志〟はほんの少し考える素振りを見せてから、


「……いいや、不要だ」


 自分が追い込まれる事などないだろうと判断し、首を振ってそれを断った。

 長年使っているとはいえ、『群体蟻』は暗殺者といういわば犯罪者集団。もし仮に使うとしても、衆目の場では見栄えが悪いだろう。

 ――その判断が、その後吉と出るか、あるいは凶と出るのか。

 そこまでは、頭の回る〝同志〟であっても、答えが出せないものだった。







 ――オレと姫様が逃げ出し、既に二日。

 王都は最初に旅立った時以上に盛り上がっていた。

 そりゃそうだ。何せ庶民一般ってのは、祭りが大好き。呑んで騒いで喜びを分かち合える。しかもこのくらい国が変わるってんだから、浮かれるのも無理はない。

 ……そして、そういう場だからこそ、オレとコイツが街に入り込むには絶好のタイミングだったと言えるだろう。

 国中の人間が集まってくれば、都市に入る人間を管理する兵士たちの目も誤魔化し易いし、大勢いれば一々チェックしている余裕はない。

 本来は戴冠式だからこそ厳重になる街の警戒も、オレ達を安全に街に入れたいフレグレント院長の計らいと『群体蟻』どもを紛れ込ませたい〝同志〟の思惑からか緩い。

 入ること自体は容易く、問題は戴冠式が行われる王城前の広場までどう行くか。

 大通りは簡単には進めず、人の視線が入りにくい小道に入ると、ソレ見たことかと敵が襲ってくるだろう。


 ――そこら辺も、キッチリ考えている。


 そう思いながら、オレは普段より軽くなった体を確認するように、上下に振る。

 《竜尾》も《顎》も昨日の段階でサシャに預けた。いつも持っている荷物さえないオレには革鎧と《飛鱗》がいくつも収まっているベルトと、あの篭手くらいなものだ。

 こうやって主武器(メインウェポン)が外れてみると、最初は無駄に思えてしまっていた篭手の機能も、頼りになる。


(――帰ったら、アレクセイに何か奢らないと。蜂蜜酒あたりが良いかもな)


 蒸留酒などの強く独特な酒精を好む錬鉄族(ドワーフ)でありながら、甘いお酒が大好きな技術屋を思い出す。

 そんな風に頭の中で考え事をしながら歩いていると、繋がれている手に不意に力がこめられた。

 振り返ると、フードの中から豊かな金髪を零している女が、まるでこちらに『他の事を考えず集中しろ』と言わんばかりの雰囲気で見ているのが分かる。

 ……フードで目元が隠れていても、意外と視線は突き刺さるもんだ。


「悪い悪い、ついな。まぁ、そこまで気負わなくても大丈夫。上手くいくさ」


 緊張は大事だが、行き過ぎも禁物。柔らか過ぎる筋肉では剣は威力を発揮せず、逆に硬過ぎる筋肉は険の振りを鈍らせる。

 だから、程ほどだ。

 例え、今この国の運命を背負っているって状況だろうとも、程ほどが一番だ。


「………………」


 オレの言葉に納得したのか、それとも呆れてものも言えないのか。口を開くこともなく、視線はオレよりさらに前に逸れた。

 もしかしたら、コイツも緊張しているのかもしれない。柄にもないというか、なんというか。


「――うっし、気合入れるか」


 何週間か振りに感じる大我(マナ)の力を体の底から感じながら、オレもようやく前を向いた。

 さぁ、ここからだ。




 皆、上手くやってくれよ。









 ――エリザベスが事の真相を知り、トウヤと王都に向かって二日。

 もう既にトウヤが提案したあの計画(﹅﹅﹅﹅)が始まる時間になっていた。

 ……ここまで来てこんな事を言うのは、おかしいのかもしれないが、




 これで本当に良かったのだろうか。




 エリザベスの頭の中には、未だにそんな思いが残っていた。

 今まで、ずっと考えてきた。自分がどうするべきなのか、どうしたいのかを、考え続けてきた。今までないくらいに、今まで生きてきて真剣に考えた時間を優に超える時間を思考に使った。

 そもそも、私は何がしたかったんだろう、と。

 王族だと知る前の自分だったら、もっと簡単だった。

 あの安全だと思っていた屋敷の中で母と父、二人と仲良く暮らしたい。リチャードと添い遂げたい。甘いお菓子が食べたい。もっと本を読みたい。

 大事なものから、どうでもいい事まで。願望は幾つもあって、それは自分が何もしなくても叶って、そんな優しい世界の中に笑顔で居続ける事が出来た。


 でも、今は違う。

 この国の困窮を知った。

 真実の愛は偽物だと知った。

 現実はあの屋敷の中よりもずっと厳しくて、求めたから得られる、なんて簡単な話ではない事も。

 自分が湯水のように使っていた金貨の価値も。

 そう簡単に人は自分の味方になってくれない事も。

 ――だけど味方は、確かにいるんだという事も。




『オレがいる』




 たった一言、子供だって言える簡単な台詞。

 物語に出てくる英雄であれば、もっと格好が良い事を言ってくれるだろうに、彼はたったその一言を言う為に行動し、荒っぽいながらも言葉を尽くした。

 馬鹿なんじゃないかな、とも思う。

 こんな人間にいつまでも付き合い、助けるなんて。

 正体が分かり、彼の雇い主が分かった今でもそう思う。だってこんな小娘を助けるよりも切り捨ててしまった方が簡単な事だってあったはずなのに。


 きっと、どうしようもないお人好しなのだ。


 あんな優しい理屈を言えるような人達がいるなら、きっと自分の考えだって、誰かが受け止めてくれるはずだ。

 そう、心の中の自分がもう一度、エリザベス・ショコラディエ・シルヴァリアに言い聞かせる。

 好きな事をしろ、と言われた。

 なら、好きな事を言ってやる。

 例え国民が受け入れてくれなくても、貴族に笑われようとも、愛が冷め切っていても、現実に拒まれようと、それで何も変わらなかったとしても。

 全部、思いっきり、自分らしく言ってやろうと。


「――負けるもんか」


 もうそこに、箱入りの姫はいなかった。

 王族よりも荒々しく、王女よりもなお凛々しく、言ってしまえば、これから戦いに赴く戦士の風格すら感じさせる彼女を、もはや止める者はいない。

 ただ前を向き、進み始めた。








 様々な思惑、様々な願望、様々な信念。

 歴史が動く瞬間とは、常にそのような複雑怪奇な絡み合いによって生まれる。

 シルヴァリア王国、新女王の誕生。

 のちに語り継がれるであろうこの一日、いや数刻の出来事もまた、例に漏れる事はない。




 故にこの日、シルヴァリア王国の歴史は確かに動いたのだ。







感想・ブックマーク登録・評価などお待ちしております。

なろう勝手にランキング、アルファポリスのバナークリックもよろしければ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ