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ハイハイから始まるチート無双!  作者: 空乃智春
第1章 VS神殿編
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08 エレメントには色んな色があるようです

 思っていたよりもあっさりと倒せたな。

 拍子抜けする俺の目の前には、黒いエレメントが転がっている。

 見るからに禍々しく、あまり触れたくはなかった。


 けど……キラを元の姿にするためには、回収しなくちゃいけないしな。

 拾い上げようとしゃがんで、触れて。

 瞬間、強烈なめまいに襲われた。


「ぐっ……あ……!」

 俺のものじゃない、知らない黒い感情が、濁流のように頭に流れ込んでくる。

 まずいと本能的が告げる。


 必死に抵抗を試みたが、頭の中がかき回されるようで、気持ちが悪い。

 わけがわからなくなって、俺はその場に倒れ込んだ。



 ◆◇◆


「失われたエレメントを探して、私はシスカと旅に出ます。後のことは任せましたよ」

「もちろんです、お任せ下さい。ソニア様」

 目の前のソニア様に答えて、深々と頭を下げる。


 この国は遠い昔に、ソニア様が作り上げた国だ。

 だから誰もが彼女を崇拝し、頭を下げる。

 この国の人々にとって唯一無二の存在であり、敬われる対象だ。


 そして俺――いや、私はソニア様の神殿を守る神子だった。

 神官よりも上にいるソニア様の側近であり、彼女から不死の力を授かった特別な存在。

 ソニア様がシスカを連れて出ていったということは、この神殿で今一番偉いのは私だ。


 なのに、どうして人間共ときたら、私のいうことを聞かないのか。

 女神・ソニアが不在の今、お前達が頭を下げるべきは私だろう。


 あぁ――苛々とする。



「私達神官は、ソニア様に仕えているのです。決してあなたを崇めているわけじゃない」

「あなたは権力を手にして変わってしまわれた。今のあなたについていく気はありません」

 私に対して生意気な口を聞いた神官共は、神に背いたということで処刑してやった。


 ――どいつもこいつも、ソニア様、ソニア様って。

 今この場所に私がいるのに、何が不満なんだ。



 その日は、ソニア様の聖誕祭だった。

 なのに神官共ときたら結託して、私を聖誕祭の会場から追い出したのだ。


 部屋に帰って、ベッドの縁に腰掛け、灯りも付けずに酒を飲む。

 窓が開いていて、そこから風が吹き込んでくる。

 満月の夜だからわりと明るかった。


「本当、皆あなたの素晴らしさをわかっていないのよね!」

 幻聴が聞こえたかと思えば、窓際に少女が立っていた。

 シルエットしか見えないが、頭につけた大きな子供っぽいリボンと声から察するに、10歳前後といったところだろう。


「誰だ、お前」

「私はね、元人間の神様だよ。あなた、神様になりたいんじゃない?」

 少女は、私の横に座ってくる。


「人が――神になれるのか?」

 ずっとあの立場がねたましかった。

 ただ神様であるというだけで、ちやほやされ、崇めてもらえる。

 そこにいるだけで大切にされる。


 私が――神様だったなら。

 それはソニア様の側で、何度も思ったことだった。



「もちろんよ。神様になりたい?」

 沈黙を肯定と取ったのか、少女は――にぃっと口元を吊り上げる。


「なら、あなたにはこのエレメントをあげる。この力があれば、あなたの味方になってくれる人はいっぱいいるわ!」

 私の口元に、彼女がエレメントを押しつけた。


「待て、エレメントを食わせる気か!」

 ぐいっと彼女の肩を押し、その体を突き放す。


 エレメントは奇跡の力だ。

 私達神子は、ときおり神様からその力を借り受け、人間のために使う。

 

 しかし、エレメントは同時に危険なものでもあった。

 その力に飲み込まれれば、エレメントの持つ『願い』や『執念』を叶えるだけの人形と化してしまうのだ。

 だから神子は『真透球しんとうきゅう』という特別な球の中にエレメントを閉じ込め、その力を制御して使っていた。


 そのエレメントの色が青なら、力に飲み込まれることはない。

 意識を乗っ取られる可能性が高くなると黄色に、そして完全に乗っ取られてしまうと赤色になる。

 『真透球しんとうきゅう』を使っていても、その色には常に気を払う必要があった。


「相性がよければエレメントを体内に取り込んでも問題ないんだよ? 神子なら知ってるでしょう? このエレメントはあなたを主に選んでいるから、意識を乗っ取られる恐れもないよ」


 怯える私に、少女はクスクスと笑う。

 無用の心配をするのがおかしいというように。


 彼女が私の手のひらに、エレメントを置く。

 そのエレメントは薄闇の中、ほんのりとした光を放っていた。


 その色は赤でも黄色でも、青でもない。

 闇色の輝きとでもいうのだろうか……怪しげなその色に、とても惹きつけられた。



「黒のエレメント……」

 思わず呟けば、彼女がそうだよと肯定する。


 一度人の魂を食らったエレメントは黒く染まり、魂を食べるようになる。

 人や動物、あらゆるものに宿り、魂を食らい続けるのだ。

 そのエレメントは黒のエレメントと呼ばれ、忌み嫌われ、恐れられていた。


 黒いエレメントは見つけたら即、神様に頼んで《エレメント分解》をし、消去してもらうことになっていた。

 それが出来なければ、速やかに《刻印》を施し封印するのがルールだ。

 そうでなければ、世の中に混乱をもたらす。


「なぜ……こんなものを私に渡す」

「これは神様達が隠していることなんだけどね。魂を食べ続けたエレメントは、いずれ神の力を持つの。あなたがこのエレメントの主になって、たくさんの魂を集めれば――すぐに神様になれるわ」

 

 彼女の告白は、衝撃的だった。

 まさかと否定する気持ちと、本当に私でも神になれるのかという期待。

 それを見透かすように、彼女は笑う。


「……そんな話、聞いたこともない」

「神様達は必死に隠しているからね。魂を食らって神になったってことを知られたくないし、皆が自分でも神になれるって知ったら、世の中が混乱するでしょう? 神様達は新しい神様の誕生をあまり喜ばないのよ」


 秘密を打ち明けるように、彼女が私の耳元に口をよせる。

 その言い分は、筋が通っている気がした。


「神様も、元々は私達と同じだった。その証拠に、神様の額には必ず紫色の星の石がある。神星って呼ばれているこれも、エレメントの一種なの」

 ダメ押しというように、彼女は自分の額に埋まる紫の石を指しながら言う。


 けれど、それが真実だったとして。

 自分が神になんて――なれるのだろうか。



「このエレメントがあなたを主に迎えたいと望んだから、導きにきたのよ。私も同じように神様になったんだから、大丈夫。あなたは神様になるべき存在だよ」

「私が神になって……お前に何の得があるんだ」


 賢い私は、この少女が怪しいと感づいていた。

 しかし、少女は私が特別だということを知っていて、認めている。

 他のバカ共とはどこか違うようだ。


 それだけで、十分に話しを聞く価値はある気がした。



「私ね、お友達がほしいの。お友達がいっぱいほしい! ハンナには神様になってもらって、私のためにエレメントを集めてほしいの。私はそのエレメントを使って、もっとお友達を増やすのよ。もちろん私も、ハンナが神様になれるように協力する!」


 まるで子供のように、無邪気な声で彼女は言う。

 かなり興奮した様子だった。


 物事には裏がある。

 大人の世界は利用するかされるかだ。

 だが、ソニア様も含め、神様という生き物はどこかズレている奴が多い。


 この少女は、精神が子供のまま神様になってしまったんだろう。

 暗い中で、澄みきっている彼女の瞳だけが見えて――そこに狂気を感じた。

 無邪気さの中には、確かな残酷さが潜んでいる。


「私と友達になってくれるよね、ハンナ?」

 おねだりをするように、彼女は言う。


 これを食べて、魂を集めれば神様になれる。

 私が望んだものがそこにある。

 馬鹿にした奴らを見返すことができる。


 私は選ばれた。

 神になるべき者だ。

 そのお迎えが、今来ただけというだけの話しだ。


 黒いエレメントを、自らの口へと放り込む。

 咀嚼して飲み込めば、にぃっと嬉しそうに彼女は笑った。


「これでハンナも、お友達――だね?」



 ◆◇◆


「だぁっ!」

 後頭部にごつんとキラの頭が当たり、我に返る。


 なんだ、今のは……。

 ハンナという女神官になって、この神殿で働く夢を見ていた。


 白昼夢っていう奴だろうか。

 どこまでも満たされない苦しさと、胸の中に渦巻く嫉妬心。

 第三者の視点じゃなくて、自分が体験したことのように鮮明で。

 夢から覚めたような今でも……心臓がドクドクと早い音を刻んでいた。


 多分今のは、このエレメントに宿った記憶だよな。

 こんな感覚、前にも覚えがある。


 あれは確か前世の記憶を思い出した……というか、幼い頃に仁太の記憶を読み込んだときだ。

 どうやらエレメントに触れたことで、俺の《同調チューニング》スキルが発動してしまったらしい。


 迷惑な話だ。

 でも、おかげでどうしてこんな事態になっていたのかがわかった。


 少女の話がどこまで本当なのかも少し気になるが、今大切なのはこの黒いエレメントの対処法だな。

 《エレメント分解》してみて、できなかったら《刻印》のスキルを使うって言ってたような気がする。


 さっそく、スキル《エレメント分解》を黒いエレメントに使ってみることにした。

★8/21 誤字修正しました! 報告ありがとうございます。助かります!

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