表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイハイから始まるチート無双!  作者: 空乃智春
第1章 VS神殿編
6/16

06 ステータス鑑定と隠された墓場

「すみません、私達に次の指示をくださいませんか? 上司のアーノルドさんが見当たらなくて」

 神殿内を歩いていたら、前方からやってきた18歳くらいの女性神官2人に呼び止められた。


 彼女達は、昨日から入った新入りらしい。

 俺の服には上の衣に銀色の縁取りが2本あるが、2人のものにはない。

 この縁取りが、階級を表していることに気づく。


 声をかけてきた方は、金髪を頭の上で団子にしていて眼鏡をかけている。

 清楚で厳かなデザインの神官服を、大きな胸が押し上げていて、若干窮屈そうだ。

 女性特有の柔らかそうな体のラインと、太めの眉が優しげな印象だった。


 名前はこの国の女神様と同じで、ソニアというらしい。

 女神にあやかってと、この国では一番多い女の子の名前だった。


 もう1人は背筋をピンと伸ばし、静かに後ろに控えていた。

 涼やかな瞳にポニーテールにした茶の髪。

 ただ佇んでいるように見えるけれど、隙がない。


 名前はシスカというらしい。

 何てことの無い顔をして、俺に注意を払っているのがわかった。

 

「俺は……ダカスコスだ。最近ここに配属になった。何をするとか、事前に聞いてないのか」

「儀式の準備をすると聞いています」


 偽名を名乗り、ソニアに尋ねる。

 その口から出てきた、儀式という言葉に思わず嫌悪感がこみ上げた。

 神殿は、また誰かを――生け贄に捧げるつもりでいるらしい。


「もしかして……ダカスコス様は、神殿の方針に反対なのですか?」

 ソニアに言われてハッとする。

 つい顔に出してしまったようだ。


「……神殿は選ばれし者を集め、女神ソニアに祈りを捧げさせていると聞きました。ですが、選ばれし方々の姿を私はまだ見ていません。世界を守ってくださっている選ばれし皆様に、是非ご挨拶をと思っているのですが……どこにいらっしゃるのですか?」


 その一瞬を逃してたまるかというように、ソニアの瞳が俺を質問攻めにする。

 おっとりとしているように見えたから、突っ込んでくるとは思わなかった。

 彼女は神殿に対し、不信感を抱いているみたいだ。


「街では彼らが神への生け贄として捧げられているという話しです――本当なのですか?」

「ソニア様、直球すぎます!」

「黙りなさい、シスカ。ダカスコス様は、今のこの状況を……憂いていらっしゃるのでしょう?」


 シスカが咎めたが、ソニアは引き続き俺に問いかける。

 彼女達はどうやら、神殿に探りを入れるために神官として潜りこんだようだ。



「答えてください、ダカスコス様」

 不思議な色の瞳で、ソニアが俺の瞳を覗き込んでくる。

 ……なんだ、この妙な感覚。

 ソニアに見つめられると、心の内側がざわつく。


 視線を介して、体の深いところ……内側を見えない手で探られているような。

 何とも言えない、もやもやとした感じだ。



『ステータス鑑定を実施されました。開示しますか? なお神の守護者は特別処置により、ステータス開示を拒否、または偽の情報を開示することも可能です』


 機械音声ナビが、俺にお知らせをしてくる。

 どうやらソニアが、俺にステータス鑑定をかけているみたいだ。


 ステータス鑑定は、神様固有のスキル。

 つまりソニアは……神様だということになる。


 ――なんで神様が、こんな神殿で下っ端の神官をやってるんだ?

 しかも、正体を隠して。


「あれ……? 変ですね……?」

 ソニアが首を傾げる。

 ステータスが中々表示されないのが、不思議でしかたないんだろう。


 急いで心の中で偽の情報開示を選択する。

 了解しましたと音声が聞こえた後、ステータス画面が俺の目の前に表示された。



 ★ダカスコス・ダモン

  種族:人間(20)

  立場:神官

  状態:良好 


 HPなどの数値も、全てデタラメで抑えめのようだ。

 ソニアのところにも、俺に見えているこの偽ステータスが表示されたんだろう。

 その瞳が鋭く細められた。


「……あんた達は、神殿の悪事を知ってどうする気だ?」

「決まってるじゃないですか。ぶっ潰します」

 尋ねれば、ソニアはにっこりと笑う。

 虫も殺さないような優しげな顔をしている彼女の言葉は、かなり破壊力がある。


「ははっ……潔いな!」

 ここまで正直だと、好感がもてる。

 ソニアの目的は、俺と同じのようだ。


「ソニア様! どこでそんな下品な言葉を覚えてしまったんですか!」

 シスカが嘆かわしいというように、ソニアを叱る。

 2人は友人というより、自由奔放な主人と苦労性の従者といった関係に見えた。


 女神ソニアと、同じ名前を名乗る神様の女性。

 もしかすると彼女が……本物の女神ソニアで。

 俺が出会った化け物は……偽物ということなんだろうか。


 ステータス鑑定を使えば……確かめられるか?

 だが、俺がステータス鑑定を使えば、俺のウインドウに通知がきたように、彼女のウィンドウにも通知が行く可能性がある。


 それだと、俺が神の守護者ガーディアンだとバレるかもしれないな。

 手の内を晒すことになるのは、少し悩む。

 完全にソニアが敵ではないと、決まったわけじゃなかった。


 悩んで、ステータス鑑定を使うことにする。

 何となく、信じていい気がした。

 つまりはただの勘だ。


 シスカと言い合いをしていたソニアが、バッと振り返って俺を見る。

 やっぱり、ステータス鑑定の通知がきたようだ。


「……」

「ソニア様?」

 ソニアが目を見開いて俺を見つめ、シスカが戸惑った顔をしていた。



 ★ソニア(レベル21/ランク:6)

  詳細:慈愛の女神。



「私より高位の同族でしたか……それは失礼なことをしました」

 自分のステータスを開示すると、ソニアは片足を一歩さげた。

 手でふわりと円を描き、俺に対して深々と特殊な礼をしてくる。


 どうやらソニアは、俺を自分より格上の神様だと思っているようだった。

 なんでそんな勘違いを?

 不思議に思ったが、一度偽のステータスを出したことが原因だと気づく。



  ★ステータス鑑定

  種類:神様固有のスキル

  効果:相手の情報を見ることができる。

     生き物だけでなく、ものにも使える。

     相手のレベルが高いと見抜けないことも。


 ステータス鑑定は、相手のレベルが高いと見抜けない。

 うちの神様はレベル0だが、俺には神の守護者としての特別処置が存在する。


 ステータスを偽造し、ただの人間だと表示させたことで、見抜けなかったソニアは俺が格上だと勘違いしたようだ。



「私、自分の家を取り戻したいんです。留守にしている間に、私になりすましている者がいるようでして。お力を貸していただけませんか?」

 ソニアが頼み込んでくる。

 予想どおり、俺の会った女神様は偽物だったらしい。


「……この本を図書室に返してきてほしい。入り口から右奥、壁側の上から5段目、右から5番目に本が入っているはずだから、それを1番下の段の右から2番目に置いて、開いているところにでも入れておいてくれ」


 あえて誤解は解かないことにして、持っていた月刊少年雑誌を手渡す。

 今の手順で本を動かせば、図書館から地下への扉が開く仕組みになっていた。


「これは……魔道書!」

「普通の本だよ。もし裸で縄に縛られてる変態がいたら、これで殴って気絶させてやれ」

 驚きに目を見開くソニアにおどけながら、そんなことを言ってみる。


「えっ……縄? 変態って……?」

「いけばわかる。それと1つお願いがあるんだが」

 俺の声のトーンが変わったのがわかったのか、ソニア達も真剣な顔になった。


「図書館で隠れて寝ている奴らを見つけたら、外に連れ出してやってくれ……全員、ちゃんと家に帰してやってほしい」

 キラが助けてくれなければ、俺も今頃まだ彼らと一緒に棺桶の中だ。


 きっと彼らには、帰りを待っている家族がいる。

 たとえもの言わぬ姿になってしまったとしても……家に帰してやってほしかった。


「……わかりました。お約束しましょう」

 今のやりとりでそこに何があるのか、察したんだろう。

 ソニアはしっかりと約束してくれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ