表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイハイから始まるチート無双!  作者: 空乃智春
第1章 VS神殿編
5/16

05 自由と居場所と

 今度はアイテム画面を開いてみることにした。



 ★神様のアイテムぶくろ(並)

  詳細:神様の力で作られた、荷物置き用の空間。

     アイテム画面で出し入れができる。

  状態:95%使用中

     (うち90%は少年マンガ雑誌)


 なるほど、このアイテム袋があれば、荷の持ち運びが楽にできるってわけか。

 しかし、その容量のほとんどが少年マンガ雑誌って……どういうことだ。



 ★少年マンガ雑誌(15年分)

  詳細:辞書のような分厚い月刊少年漫画雑誌。

     キラの宝物。心のバイブル。

     仁太が古紙回収に出したもの。

  状態:色んな意味で、よく燃えそう。


 ★ビニール紐

  詳細:少年マンガ雑誌を縛るのに使われていた。

     雑誌が厚いため、わりと長め。

     色とりどりでキラのお気に入り。

  状態:良好


 15年分って……そりゃ容量も食うな。

 ビニール紐まで取ってあるのかよ。



 ★神印のネズミのおもちゃ

  詳細:その精巧さは本物と間違えるほど。

     附属の指輪で自由に操作できる。

     鳴き声もあげられる。

     マタタビの香り付きで、猫まっしぐら。

  状態:良好


 ★焼き魚(ほぼ骨)

  詳細:ボス猫みゃー太と戦って得た戦利品。

  状態:出汁くらいは取れそうだ。


 ★赤ちゃん育成セット(神の守護者への支給品)

  詳細:3日分のおむつ。

     3日分の着替え。

     おんぶ紐とほ乳瓶まで入ったセット。


 ★エレメント図鑑

  詳細:エレメントを見つけるとページ追加。

     自動で書き込まれる図鑑。

  状態:ほぼ真っ白。



 結論。

 キラの持ち物にろくなものはなかった。

 神様なのに、どんな生活をしていたんだアイツは。

 

 使えそうなのは、エレメント図鑑と赤ちゃん育成セットくらいか。

 移動の前に、おしめを換えよう。

 さっきからずっとぐずってるんだよな……。

 キラの泣き声で誰かがきても厄介だし。

 

 アイテム画面から、『赤ちゃん育成セット』をクリックする。

 目の前に光の球が降ってきた。

 それに触れれば、大きめの手提げバッグが姿を現した。


 棺桶の上にキラを寝かせ、おむつを換えることにする。

 これさっきまで、女神だったんだよな……いや今もそうなんだが。

 なんというか、気恥ずかしさがある。


 ……よし、考えない。

 これ、ただの赤ん坊だ。


 おむつをはずして、中のガーゼみたいな布を換えればいいんだよな……?

 それとも、この外のカバーごと換えたほうがいいんだろうか?


 どうにかこうにかおむつを換える。

 初めてだし、こんなもんだろ。


 おんぶ紐で、キラを背中にくくりつける。

 抱っこよりはおんぶの方が楽だ。

 けど、姿が見えないと……少し不安だな。

 前抱きも可能みたいだし、そこは使い分けるか。


『育児レベルが2に上がりました。称号《パパ1年生》を獲得しました』


 頭の中でファンファーレと共に、がそう告げる。

 そんな称号、あまりほしくなかった。

 そもそも彼女すらいたことがないのに、子持ちって……。



 ちなみにものをアイテム袋へしまうときは、入れたいものに触れながらウィンドウを開き、アイテム袋へというボタンを押す必要があるようだ。

 手提げ鞄をしまい、それから武器代わりに少年マンガ雑誌を1冊取り出した。


 この厚みなら、敵を殴らせて気絶させるくらいはできるだろう。

 念のため『防具が壊れにくくなるような気がする』強化魔法を使っておくかな。


 俺が使える4つの生活魔法のうちの1つなのだが、心持ち硬度を上げることができる。

 守備力アップというやつだ。

 まぁ、気休め程度なんだがな。


「《コルディガン》」

 呪文を唱え、それから手で硬度を確かめてみる。

 俺の力だと、ページが少し破けにくくなる程度の効果しか得られないだろう。

 そう思っていたのだが、見た目はそのままに、雑誌はまるで石のように硬くなっていた。


 魔法の力が上がっている気がする。

 もしかすると、これが加護の力なんだろうか。

 これなら武器として十分使えそうだ。



 ◆◇◆


 ろうそくを1つ拝借し、ゆったりとした作りになっている階段を上がっていく。

 遺体を運ぶために通路が広めなのかなと思えば、妙な気分になる。


 階段を上がりきって、扉を開けようとしたが……外から鍵がかかっていた。

 この場所はろうそくが灯されているし、埃っぽくもない。

 きっと毎日誰かが掃除をして、火を絶やさないようにしてるんだろう。


 しばらく待ってみることにする。

 そう時間の経たないうちに、扉が開いて神官が入ってきた。


 神官は祈りを捧げながら、ろうそくを新しいものに変えていく。

 その背後にそっと近づき、頭部を殴って気絶させた。

 服をはぎ取り、アイテム袋からビニール紐を取り出して、その体を拘束しておく。


 起きて助けを呼ばれても厄介だな。

 ビニール紐を広げて、口に巻き付けて……と。

 こうすれば起きたとしても助けを呼べないから、時間稼ぎになるな。


 俺が入っていた棺桶の中に神官をしまおうか考えたが、それはやめておく。

 いざというときのテレポート先に神官がいたら、スキルが発動しない可能性があるからだ。


 神官の着ていた服を着てみたが、裾が余った。

 丈の合わない部分はビニール紐で縛り、上から着るローブで背中のキラを隠す。


 背後が妙に膨らんでいるが、細かいことは気にしない。

 フードがついているのはありがたいな。

 顔を隠せるし。


 いらないかなと思いながら、先ほどまで着ていた儀式用の死に装束をアイテム袋へしまう。

 ビニール紐のように、何が役に立つかわからない。

 ……裂けば、おむつの予備くらいにはなりそうだ。



 扉から出れば図書室で、扉は本棚の裏に繋がっていた。

 神殿はあの墓場を隠しておきたいらしい。


 棺桶に入れず、火葬して証拠隠滅すればいいのに。

 そう思った俺だが、この国では棺桶に入れて土葬が当たり前だ。

 ろうそくの火を絶やさず、花で飾り立てているところからすると、生け贄として死んだ者達を敬う気持ちは辛うじてあるらしい。


 だからといって――神殿の奴らを許す気はこれっぽっちもないんだがな。



「おい」

「は、はいっ!」

 いきなり声をかけられて、心臓が跳ねた。

 振り返ればそこに――見覚えのある神官長がいた。


 蓄えた白髭に、笑っていない目。

 骨と皮でできたような50歳半ばの髭の神官は、品定めをするように俺を見ていた。


「私の前だ。ローブを外せ」

「……はい」


 今の俺はクリフの外見じゃなくて、仁太の外見だ。

 だから顔を見られたところで、侵入者だとバレなければ問題ない。

 失礼しましたと、ローブを外した。


「階級は銀の2つ星か。黒髪とは珍しいうえに、大分若いな……」

「童顔なものでよく若く見られますが、20歳です。つい最近ここに配属されました!」


 制服を見ただけで、階級がわかるらしい。

 神官の服なんてまじまじと見たことがなかったが、微妙な違いがあるようだ。


 秘密の場所に入れるくらいだから、俺が服を借りた神官はそれなりに高い地位の者だったんだろう。

 16歳の仁太だと、怪しまれてしまうのも当然かもしれない。


「20でも十分若いだろう。私の時代は銀の2つ星になるまで、30年はかかった。こんな若造をよこしてくるなんて、地方の方も人手不足か。最近は離反が多くて困る」

 緊張していた俺だったが、神官長は勝手に納得してくれたようだ。


「選ばれし者の供養も、大事な神官の仕事だからな。わかっているとは思うが、このことは……誰にも言うんじゃないぞ?」

 声を低くして、神官長が俺に念を押す。


 言うも何も、街ではかなり前からその噂が出回っている。

 真実さえ明るみに出なければ、言い逃れできると思っているんだろう。


 お前らの都合で、生け贄にされた奴の気持ちになってみろよ。

 物凄く――このおっさんを殴ってやりたい。


 相手は、俺が武器を持っていることに気づいていない。

 図書館で本を持っているのは、あまりにも自然なことだ。

 俺は無意識に、少年マンガ雑誌を強くにぎりしめていた。



 ◆◇◆


 神官長を衝動のままに殴らなかった俺は、とても偉いと思う。

 あそこであいつを殴ったところで、何の解決にもならない。


 神殿が神とあがめている、あの化け物を始末する。

 そう俺は決めていた。


 この格好をしていれば、怪しまれることもないようだ。

 まともな武器を探して手に入れて、さくっと化け物を退治して、この神殿から離れよう。


 キラは俺の背中で寝息を立てていて、ありがたいことに今は大人しい。

 眠ると赤ちゃんって少し重くなるんだな。

 俺がそう感じるだけかもしれないが。


 無防備なこの重みと温かさは、まぁわりと悪くない。

 神殿を出た後は……キラを連れて、世界を旅でもしてみようか。


 世界に散らばったエレメントを集めながら、キラを育てて。

 ゆっくりとのんびりと、色んな場所をまわってみよう。

 それを思えばわくわくしてくる。


 自由だな。

 そう、強く感じた。


 開放感を覚えるということは、知らないうちに……自分をこの場所に縛り付けていたということなんだろう。


 大抵の人は、生まれた場所で人生をすごす。

 そこに自分の居場所があるからだ。

 俺は、ここに自分の居場所があるんだと――思いたかった。


 自分の居場所を作るために、俺は必死だった。

 誰かに必要とされたかったのかもしれない。


 ここに居場所を作れなければ、どこにも居場所なんてない。

 無意識に――そう考えていた気がする。


 世界は広い。

 だから、ここじゃなければもっと別の場所に……居場所があるのだと、どうしてそう思えなかったんだろう。

 しがみついて必死になっていた自分が、ちっぽけに思えた。



★物語のテーマやいろいろな兼ね合いから、「転生」にするともやっとするので「転移」タグを付けて、これから先の展開や設定を大幅変更することにしました。

 ほのぼのチート路線なのは変わらないので、楽しんでいただければいいなと思います。


★8/20 おむつに布なのですが、うっかり紙とつけてたので取りました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ