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14 ようやく街に着きました

「ようやく……ついた」

「ふふん! ジャスト1時間です! 凄いでしょう!」


 誇らしげなサティアだが、現在俺の背中でぐったりとしている。

 エレメントスキル《空の賛美歌》を15分間使って飛び跳ねた後、サティアはまた動けなくなった。


 サティアをおぶり、前側にはキラを抱き、マロを引き連れて。

 どうにか俺は、ここまで辿り付くことができた。

 この集団……怪しいにもほどがある。


 目の前に広がる街は、クレフだった頃の俺が過ごした街とそう変わらない。

 レンガ造りの家々が建ち並ぶ、ごく一般的な風景だ。


 仁太風にいうならば、中世ヨーロッパの町並みとでも言うんだろうか。

 桜が降ってきたから、和風な街があるのかと想像していたが、そうでもないらしい。


 背中からサティアを下ろし、杖を持たせる。

 それを支えに立つサティアは、生まれたての子鹿……もしくは老人のようだ。

 こけたサティアに手を差し伸べながら、ついでにスカートからのぞく太ももへと視線をやる。


 別に……嫌らしい意味でみたわけじゃない。

 サティアのエレメントのスキル鑑定をするためだ。

 ステータス鑑定が顔を見ないとできないように、エレメントスキルもまた、本体を直接目で確認する必要があるみたいだった。

 


 ★空の賛美歌エアリア

  種類:サティア所有のエレメントスキル

  効果:使用時、跳躍力が跳ね上がる。

     興奮状態になる。

  詳細:連続稼働時間は15分。

     1日3回まで使用可。

     使用後、空腹と筋肉痛に襲われる。

     


 俺のエレメントと違い、サティアのエレメントは同化していない。

 『真透球クリスタル』という透明な球の中にエレメントを封じ、制御しながらスキルを使っているようだった。


 俺が思うに、サティアのエレメントスキルは使い勝手が悪すぎるんだよな。

 何より、使用後はしばらく動けないとか、無防備にもほどがある。

 

 あとサティアのステータスも見たんだが、HPや素早さが低いわりに、力だけが飛び抜けて高いんだよな。

 それは予想どおりだからいいんだが。

 魔法が使えないわりには、魔法を使うために必要なポイント……MPの値が高すぎるし、何だか妙だ。


 サティアのMPの最大値は350。

 そのゲージは0で、枠が妙な色に点滅していた。


 少し調べてみたが、俺がファルガルを倒すのに使った初歩魔法・《リプカ》は、通常MPを3くらい使うようだ。

 それを思えば、日頃の生活で350ポイントも消費することはないだろうし、彼女はそもそも魔法を使えない。


 クレフの世界には魔法があった。

 だから、MPが休めば回復するということを、俺は何となく知っていた。

 魔法を使いすぎると気分が悪くなったりするが、ご飯を食べたり休んだりすると、回復してまた使えるようになる。


 もしかして、彼女の持つ《空の賛美歌》は、大量に魔力を消費するエレメントスキルなんだろうか?


 その可能性に気づいて、振り返る。

 歩みの遅いサティアは、遙か後方にいた。

 誰かと歩くことなんてなかったから、歩幅を合わせてやるのを忘れていた。


「大丈夫か? やっぱり俺がおんぶしたほうがいいんじゃないか?」

「い、いいですっ! 人目もありますからっ!」


 恥ずかしいとサティアはそれを拒否し、両手を顔の前で振った。

 持ってた杖が地面に落ち、それを立ったまま拾おうと無茶な体勢になって、思いっきりバランスを崩してこける。


「いたた……」

 助け起こしながら、サティアのふとももが丸見えになっていたので、ついでにもう一度スキル鑑定をつかってみた。

 やっぱり《空の賛美歌》が、魔力を大量に消費するという情報は一切ない。


「うぅ……すみません」

「気にするな」


 今度はゆっくりとサティアにあわせて歩く。

 すでに空は暗いが、街には灯りが灯っていた。

 丁度夕食時といったところだろうか。


 それにしても、神様の世界というだけあって、色んなのがいる。

 下半身が馬で上半身が人間だったり、翼が生えていたり。

 魔物と見た目変わらない神様も……失礼ながらいる。


「なぁ、どうやって神様とか神子とか見分けるんだ?」

「神様は必ず、額に紫の星があるのです。ただ別の生き物に化けられたり、前髪とか帽子で隠されちゃうと、見分けが付かないことが多いんですけどね」

 質問すれば、サティアが答えてくれた。


 なるほど、確かにキラの額にも紫の星があった。

 今その星は額になく、俺の体の中だが。



「もう遅いですし、今日は宿を取りましょう。その前に夕食ですね! あっ、1つ注意しておきたいことがあったんでした!」

 妙な気分になっていたら、はっと気づいたようにサティアが声をあげた。


「なんだ?」

 立ち止まって訪ねれば、耳を貸すよう手招きされ、顔を近づける。


神の守護者ガーディアンだってことは、隠したほうがいいと思います。キラちゃんが神様だってこともです」

 サティアが真剣な声で言う。


「どうしてだ?」 

「理由は主に2つあります。まず仕える神様が弱いということは、神様の世界――ユグドラシルにおいて大変不利なのです。守護者が必要なほどの赤子化は、神としての能力を疑われ、バカにされます」

 なるほど、筋の通った理由だ。


「ちなみに、ユグドラシルには神様と神様の眷属、そして神子が住んでいます。中央には聖域があり、私達がいるのはそこから外れた田舎ですね」


 ユグドラシルに、普通の人間は入れない。

 神様の関係者以外は立ち入り禁止なのだと、サティアは言う。

 そのわりに、ファルガルのようなモンスターや動物は、自然のまま野放しになっているとのことだ。



「それは置いといて、神様にも色々いるんですよ。弱体化した神様を取り込もうとする、悪い神様もいるんです。ですから、ジータさんもキラちゃんも神子ってことで押し通したほうがいいと思います」

 脅すように、サティアは全く迫力のない怖い顔をした。


 神様は慈悲深く、信じる人間に愛情を注いでくれる。

 クレフだった頃の世界というか、俺の国ではそう信じられていた。

 そのわりには生け贄とかエグいことをしていたわけだが、それとこれとは別の話なんだろう。


 一方、日本じゃ八百万の神がいるなんて聞いたことがあったし、性格も様々だった気がする。

 こちらを利用しようとしてくる神様がいても、不思議ではなかった。


「気をつけるよ。ありがとな、サティア」

「いえ。それとウィンドウ画面を操作するときも、注意してください。人に見られると、ジータさん自身が神様だと思われてしまいますよ。まぁジータさんが神様のふりをして、キラちゃんの弱体化を隠すという手もありますが」


 たしかに、このウィンドウ画面は神様しか持っていない。

 操作する動作でバレる可能性があるというのは、盲点だった。


 とりあえず隠しておいたほうがよさそうだな。

 脳内で念じるだけで開け閉めできる鑑定画面はともかく、道具の出し入れには気をつかったほうがいい。


 あっ、でもまてよ?

 神スマホで操作すれば、ウィンドウ画面を操作しなくていいんじゃないのか?

 神の守護者だとバレたくないっていう声から生まれた商品って、書かれてあったしな。

 いや、そもそもこんなファンタジーな世界じゃ、スマホは浮きすぎる……!


「どうしたんですか?」

 心の中でセルフツッコミを入れていたら、サティアが首を傾げた。


「いや、なんでもない」

 苦笑いで答えながら、人目がない今のうちにアイテム袋から財布を取り出そうと考える。

 ウィンドウを操作しようとして、そもそも財布どころか金もないことに気づいた。


「俺、金なんて持ってなかったな……」

 よくよく考えると無一文だ。

 宿なんて泊まれるわけもなかった。



「さきほど《煉獄れんごくの狼》を浄化したので、神様ポイントが入ったはずですよ! ユグドラシルでは、神様ポイントがお金代わりなんです」

 落ち込んでいたら、サティアが安心してくださいと笑う。


「よかった。それならどうにかなりそうだ。でもこれ……どうやって支払うんだ? 画面上でしか金額を確認できないんだが」

 周りに人がいないのを確認してから、ウィンドウを開く。

 残金を見れば、神様ポイントは11万あった。

 

「神様の場合は、ウィンドウ画面でポイントの受け渡しができます」

「それじゃあ、支払いをするたびにウィンドウを開かないといけないってことか……」

 躊躇ためらった俺に、大丈夫ですとサティアが請け負う。


「今日は私が支払います。ピンチを助けてもらいましたしね。ちなみに、私達のような神子や眷属は、聖域でパスと呼ばれる魔法の石版でできた身分証を発行してもらい、その身分証の中にポイントをためて使うんです。宿も身分証の提示が必要なので、私に任せてください!」


「……何から何まで悪いな。宿に着いたら払うから」

「気にしないでください! お腹が空きましたし、宿へ行く前に夕食を食べましょう! 私のオススメの店に案内しますね。安くてボリュームがあるんですよ!」


 力を使ったのでお腹ぺこぺこですと、サティアが先を歩いていく。

 ご飯が食べられるからか、サティアの足取りは先ほどよりもだいぶ軽かった。

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