13 デッドオアアライブ
本日は早起きできたのでこの時間に投稿しました。
「今更で恐縮なのですが、助けてくれてありがとうございます。私はサティア・カークス・レディバードと申します」
深々とサティアが頭を下げてくる。
「俺はジータだ。ところで、森から抜ける道を知ってるか? 近くの街まで案内してくれると嬉しいんだが」
「勿論ですよ! 方角はばっちり覚えていますのでおまかせください!」
薄い胸を張って、サティアが請け負う。
「それにしても、神の守護者の話しは聞いたことがあるのですが、実際に見るのは初めてです。というか、どういった事情でこの森に? やっぱりジータさんも、《煉獄の狼》の話を聞いて討伐にきたのですか?」
「いや、俺の場合は……」
少し悩んだが、サティアに今までのいきさつを説明する。
悪い子には見えなかったし、神様の国へきたものの、これからどうすればいいのかアドバイスがほしかった。
幼児化した神様や、神の守護者について詳しく知りたいと相談すれば、サティアが力になってくれるという。
「助けてもらった恩もありますし、お任せください! まずは街へ行った後、私の知り合いの神様を訪ねましょう。彼女なら力になってくれると思います!」
相談して正解だったな。
そう思ったとき、盛大に腹の音が鳴り響いた。
「……っ!!」
サティアの顔がみるみる真っ赤になり、涙目でこっちを見た。
そういえば……お腹が空いてるんだったな。
ウィンドウ画面を操作して、キアカの実を出してやる。
「食べるか?」
「あ……ありがたくいただきます……」
キアカの実を振る舞えば、サティアはぺろりと平らげてしまった。
ごちそうさまでしたと言いながら、まだ物足りなさそうな顔だ。
「……もっと食べるか?」
「いいんですか? ジータさん……いい人ですっ!」
ゲームなら好感度が上がった音が聞こえてきそうなほど、嬉しそうにサティアが食いついてくる。
結局、サティアはストックしていたキアカの実を、10個全部食べてしまった。
細いのにとんでもない食欲だった。
◆◇◆
「ごちそうさまなのです。ジータさん」
「どういたしまして。味がないのによくあんなに食べられるな」
「病院食と思えば余裕なのです。さて、お腹もいっぱいになったことですし、行きましょうか!」
サティアは立ち上がって、おもむろにスカートをめくった。
「ちょ……いきなりなんでスカートをめくってるんだ!」
「太もものほうに、エレメントを付けているのです。発動するときは、こうやって触れないといけないのですよ」
スカートからのぞく細い足の太ももを、サティアがなぞってみせる。
その太ももには、首に巻くチョーカーのようなリングがあった。
サイコロ大の透明な球に入った、青いエレメントがあった。
「それに、私は走り回るので、短いスパッツをはいています。だから……見られても大丈夫です!」
それでも恥ずかしいのか、真っ赤になりながらサティアは言う。
黒くてつやつやした短いスパッツ。
たしかにこれなら見えても大丈夫だろうが、丈が短すぎて黒いパンツにも見えるな。
そんなしようも無いことを考えていたら、俺の前でサティアがエレメントに触れる。
「エレメント発動っ!」
その声に反応するように、サティアのエレメントが青い輝きを放つ。
サティアの体全体が青白い光に覆われて、その表情が弱々しいものから、強気なものへと変わっていく。
「さぁ、掴まってください! 今から森を駆け抜けます!」
体勢を低くし、サティアが親指を立てて背中に乗れというような動作をしてくる。
「……おぶされってことか?」
「そうです!」
自分より年下の女の子に背負われるのは、かなり抵抗がある。
跳躍スキルを使うとか言ってたが、俺を背負って跳ぶのはムリがあるんじゃないだろうか。
「俺、かなり重いぞ?」
「余裕なのですよ。私、かなりの怪力なんです。スキルを使わない状態でも、この杖を軽く振り回せるくらいなんですよ!」
手持ちの杖を、サティアはぶんぶんと振りまわしてみせた。
「私のエレメントスキル《空の賛美歌》は、跳躍の力を跳ね上げるスキルです。連続発動時間は15分で、飛び跳ねることしかできませんが、移動の際にはかなり役に立つのです!」
この先は道が険しく、強い魔物も出てくるらしい。
歩けば4時間ほどかかるということだ。
しかし、このスキルを使って途中まで行けば、敵に遭遇することなく、1時間ほどで森を抜けられるのだという。
「まぁ、楽なほうがいいよな……それにもうすぐ夜だし、宿屋で寝たい」
今日は色々ありすぎた。
できることなら、ゆっくりと疲れをとりたい。
俺のアイテム袋へサティアの杖をしまい、キラをおんぶ紐でくくりつける。
覚悟を決めたところで、マロが俺の足下に顔をすり寄せてきた。
「わぅ! わぅ!」
他のファルガル達は立ち去ってしまったのに、こいつだけは去らなかった。
その様子は、俺も連れていけと主張するかのようだ。
大分懐かれてしまったみたいだな。
サティアが食事をしている最中、撫でろと催促してくるので、ずっともふもふしていた。
つぶらな瞳で見つめられてしまえば、あらがうことができない。
「……マロもつれていきたいんだが」
「ジータさん、捨てられた動物とか見捨てられない人ですか……? まぁいいのです」
仕方ないですねと、マロをサティアが抱きかかえる。
俺はそのサティアに……おんぶされて、準備は完了だ。
「なぁ、やっぱりこれ……超恥ずかしい。普通に歩いて行こう」
「却下です。振り落とされないよう、しっかりと掴まっててください……ねっ!」
最後の「ねっ!」と同時に、サティアが地面を蹴る。
その小さな足に押された地面が抉れたかと思えば、頬の肉が後ろへひかれるほどの重力が俺を襲う。
「……っ!!」
耳にうるさい風の音。
夕焼けの綺麗な空が目に入った。
下をみれば、森が広がっている。
そして……落ちていく。
「ちょっと待て、待てっ! これ、地面にぶつかるだろっ!! 木にささるっ!!」
「そんなヘマしませんよ! 喋ってると舌噛みますよ!」
叫ぶ俺に、サティアが自信満々に答える。
緑の森へと俺達は沈んでいき、地面と接触する瞬間、目を閉じる。
下に押しつけられるような衝撃の後、すぐに上へと引っ張られるような感覚がやってくる。
恥ずかしいとかもう関係なかった。
デッドオアアライブだ。
振り落とされたら――死んでしまう。
全身でサティアにしがみつく。
跳ねては落下の繰り返しが、幾度となく続き。
叫んで喉が枯れ、疲れ果てた頃に……ようやく街へとたどり着いた。