表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/16

10 獣の世界も世知辛い

本日2回目の投稿です。

 リプカの魔法のおかげで見晴らしがよくなって、気づいたことがある。

 空を見上げれば、薄らと向こう側に逆さになった世界が見えるのだ。

 鏡張りになったような薄い膜があって、それが幻想的だった。


 空を見上げていたら、桜の花びらのようなものが降ってきた。

 周りの木が桜というわけじゃない。

 この花びら、青い空からふわりと舞ってきていた。

 何かにふれると、シャボン玉のように弾けて消えるので、とても綺麗だ。


 桜ってだけで、日本を思い出すな。

 神様の国って和風なんだろうか。

 建造物も何も見当たらないから、まだどんな場所なのかよくわからない。

 しばらくすれば、桜の雨は止んでいた。



「……っと、見とれてる場合じゃなかったな」

 現在俺の背中では、キラがお腹空いたと主張して大泣きしていた。

 木陰に移動して座り、キラを膝にのせる。

 それからキアカの実の欠片を与えた。


 キアカの実は、食感は林檎よりやわらかいが、妙な歯ごたえがある。

 水分をたっぷり含んでいて、洋なしっぽい。


 ただ、味がない。

 びっくりするほどに。

 炙れたら、美味しかったんだろうけどな……。


 キラは大人しくなったが、まだ歯が生えたてなのかうまく食べれないようだった。

 すり下ろして与えたほうがいいんだろうが、すりおろし鉢なんてものはない。

 硬化させた少年雑誌でさらに細かく砕いて、キラには与えた。


 というか、『赤ちゃん育成セット』の中にほ乳瓶があるくせに、ミルク自体は入ってないんだよな。

 ミルクくらいサービスしてくれてもいいのに。


 そんなことを思ってから、気づく。

 もしかして、神様アイテムの購入画面で買えるんじゃないか?

 さっきは『神様の世界へのチケット』に目がいって、他はあんまり見てないしな。


 ウィンドウを開くより、手元の神スマホで操作したほうが楽だな。

 食べながら片手でできるし、何より慣れがある。


 ウィンドウは便利なんだが、別の画面にいくときとかタッチしなきゃいけないのが面倒なんだよな。

 スマホなら指先の動き一つだが、ウィンドウ画面だと腕ごと移動させるし。

 まぁ、こんな少しの違いを面倒臭がるなって話なんだが。


「だぁ、だ! だぁ、だっ!」

 ポケットからスマホを取り出して、昼休みの高校生のごとく食べながら操作しようと思っていたら、大人しく実をしゃぶっていたキラが騒ぎ出す。


 なんだろう、またおしっこだろうか。

 出して寝て、食べて出すって……恐ろしくシンプルだな。



 ★キラ

  詳細:人が近づいてきているのが、気になるようだ。


 ステータスを鑑定すれば、情報が表示される。

 どうやらおしっこではなかったみたいだ。


 周りを見たが、誰かがいる感じはしない。

 キラは神様だし、気配に聡いのかもな。


 火柱が二度もあがったから、誰かがここに様子を見に来てもおかしくはない。

 どんな奴がくるのかわからないし、警戒しておこう。


 採取したキアカの実10個をしまい、キラを背負う。

 偽神を倒したときに使っていた剣は、アイテム袋にしまい忘れたせいでここにはない。

 持ってこなかったのは、大きなミスだ。


 しかたないので、硬化の魔法をかけた少年雑誌を手ににぎる。

 もしも敵に投げつけたとしても、すぐに取り出せるように10冊くらいにあらかじめ硬化の魔法をかけ、アイテム袋にしまい直した。



 ◆◇◆


 火柱をあげた場所から少し離れ、木の陰に隠れて様子を見る。

 しばらくすると、何かが地面に勢いよく降ってきた。

 土が剥き出しになった地面をえぐり、派手な土埃を上げる。


 な、なんだ……?

 思わず目を見開く。


 収まった土煙の向こう側には、小柄で華奢な少女がいた。

 金色の長い髪に、青の瞳。

 透き通るほどに白い肌に、整った顔立ち。

 フリルやリボンで飾り付けられた服を着ていることもあって、可憐なお人形みたいだ。


 歳は10歳前後といったところだろうか。

 身長よりも大きな杖を持っていて、その存在がこの森の中で浮いていた。


「さぁ、我が前に出てくるのです! 《煉獄れんごくの狼》!」

 杖をびしっとあさっての方向へ向け、少女が言う。

 

「ふっ……出てこないということは、この私サティアを恐れているのですね! ふふっ、ははっ。あーはっはっは! ごほっ、ごほっ……げふっ!」


 少女の名前はサティアというらしい。

 腰に手を当て、いきなり高笑いしはじめたかと思えば、その場で咳き込んで倒れた。

 

「おい、大丈夫か!?」

 あまりのことについ駆け寄り、上半身を抱き起こした。

 

「へ、平気……です。お腹が空いただけ……ですから」

「いやどう見ても平気じゃないだろ! 棺桶に入っててもおかしくない感じだぞ!?」


 さっきまでの威勢のよさは、そこにない。

 死を待つばかりの患者のように、サティアはお腹を押さえてぷるぷると震えていた。


「あっ……殿方の腕の中なんて、はじめて……」

 俺の顔を見上げて、サティアはぽっと頬を染め、鼻を押さえる。

 

 もしかすると、鼻血が出そうになっているのかもしれない。

 最初空から降ってきたときの印象とは、大分違う子のようだ。

 色々と残念な感じがする。



「だぁ! だだぁ!」

 キラに頭を叩かれ、振り返る。


「どうした。またお腹が空い……」

 顔をあげて、囲まれていることに気づいた。



「ぐるるるる……」

 うなり声をあげるのは、狼型の魔物が10匹前後。

 こちらを警戒しているようだ。

 もしかして、キラの感じていた気配はこいつらなんだろうか。


「おい、逃げられそうか?」

「いえ無理です……無敵時間が切れました。私を置いて逃げてください」

 サティアが首を横に振る。


「そんなの、できるわけないだろ!」

 叫びながら、目の前の狼達のステータスを確認する。

 そもそもこいつらを呼び寄せたのは俺だし、誰かを見捨てなくていいよう力を願った。

 ここで置いて逃げるなんていう選択肢はない。



 ★ファルガル(オス)

  種類:炎属性。狼型の魔物。

  詳細:別名『森焼き』

     群れで行動し、繁殖期になると凶暴に。

     時期になると、群れで火柱を上げる。

     火柱を上げるのが上手いほどモテる。

     群れ同士で、火柱合戦を繰り広げることも。


 ステータスを確認してみたが、この狼達ファルガルというらしい。

 俺が火柱をあげたから、他の群れがいると思ってやってきたんだろう。


 しかし、群れで火柱をあげてメスからモテても、オスは複数匹いるのにどうするんだろうか。

 その後は、群れのオス同士で取り合うんだろうか。



 ★ファルガル(オス)

  詳細:上下関係が激しい。

     メスは全てボスのものに。

     他のオスは、子を育てる係となる。

  状態:メスにアピール中。

     興奮状態。


 疑問に思ったら、詳細が追加された。

 そして、わりとどうでもいいことを知ってしまった……ファルガルの世界も世知辛いな。


 よくみると、火柱を上げないファルガルが数匹いる。

 火柱を上げてないほうは、赤紫色の毛色をしていた。



 ★ファルガル(メス)

  状態:この群れが強いかを見定めている。


 なるほど、こいつらがメスなのか。

 メスがいる限り、オスはアピールを止めないかもしれない。

 考えていたら、ファルガル達が襲いかかってきた。


「くそっ! リプカっ!」

 サティアを抱いたままで身動きがとれず、とっさに魔法で火柱をあげる。

 炎属性の魔物だけあって体勢があるのか、ファルガルはキアカの実や少年誌のように、消し炭にはならなかった。


「あの火柱、お兄さんの魔法だったんですね! さぞかし名のある魔法使いとお見受けします!」

 サティアが、興奮気味な声をあげる。

 尊敬の視線が、痛いほどに突き刺さった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ