なんて素敵なお部屋……
「ついに来たね」
さくらさんが小さくつぶやく。
私たちがバルコニーから見上げていると、ブルームーンは急に移動を始めた。
まるで海上レールのような速さで海の彼方へむかっていく。
見失わないように追いかけないと。
私は飛行するための光る翼を出した。
「私、行ってくる!」
バルコニーから一気に飛び立ち、ブルームーンを追う。
この翼を使って飛んだことはほとんどないけど、できてしまうもんだね。
かなり怖いけど、可能な限りスピードを上げていく。
そのおかげで何とか見失わずにいられた。
「かなでさ~ん!」
後ろからいろはちゃんの声が聞こえた。
少し振り返ると、いろはちゃんも翼を使って追いかけてきていた。
さらにその後ろにお姉ちゃんの姿もあった。
お姉ちゃんは翼を使わない魔法で飛んでいるようだった。
ふたりが来てくれたのは心強い。
目の前にはどこまでも続く海。
いったいあの石はどこまで行くつもりなんだろう。
この先になにがあるっていうの?
そう思いながら飛び続けていた。
すると、急に石が目の前から姿を消した。
「え?」
急すぎて何の反応もできず、そのまま飛んでいるといきなり光に包まれた。
もしかして今のは結界か何か?
光は、ほんの少しの間だけだった。
次の瞬間には、目の前に別の景色が広がっていた。
それは見覚えのある場所。
お姉ちゃんが私の夢に出てきた時の世界だ。
空にいるので全体を見下ろすことができる。
そんなに大きな空間ではない。
海に囲まれた、自然豊かな小さな島。
その中に大きな建物がひとつ存在した。
神聖な雰囲気のする朱色の建物。
「とりあえず、あそこに行ってみる?」
「そ、そうね……」
「どうしたのお姉ちゃん、大丈夫?」
「大丈夫よ、ありがとう」
明らかに様子がおかしい。
もしかして、何かを知ってて隠してる?
まぁ、行けばわかるか。
建物の前に降り立つと、改めてその大きさに圧倒される。
上から見てた時よりもはるかに威圧感がある。
気持ちを落ち着けるために一度深呼吸。
開いたままの門をくぐった。
建物の中は日本のお城のような造りになっている。
あの石はこの中にいるのだろうか。
人の姿をとることができるなら可能性は高い。
実際ステラという前例があるし。
「よし、突撃~!」
「どこまでもついていきます、かなでさん!」
「あなたたち、何か楽しんでない?」
私の合図で一気に廊下を突っ切っていく。
しかし大きい。
まるで小人にでもなった気分だ。
こんなところにひとりでいたらさぞさみしいことだろう。
しばらく進んだところで、扉が開いたままの部屋を見つけた。
明かりもついているし、まずはここをのぞいてみようか。
全員で部屋の中に突入する。
「ひぃ!?」
そこで見たおぞましい光景に、私は思わず悲鳴をあげてしまった。
壁や天井に大量の写真やポスターが張り付けられている。
そのすべてが私だった。
どこかのアイドルか、私は!
しかも人形やフィギュアまでケースの中に飾られている。
自分で作ったのか、この部屋の主は……。
「なんて素敵なお部屋……」
「ちょっと大丈夫かい、いろはちゃん」
部屋中を見回して、うっとりしている。
その気持ちはうれしいが、この部屋は気持ち悪い。
好かれているのはいいことなんだけどね。
勝手にこんなの作られたらさすがに引くよ~。
「お姉ちゃん~」
助けを求めるようにお姉ちゃんを呼ぶ。
「はぁ……、これ新作グッズ、クオリティ高いわ……」
お姉さまは私の抱き枕でエンジョイしていた。
ちょっと待て、新作ってなんだ。
そしてさらに怖いものを見つけてしまった。
部屋の端に設置されたベッド。
それがもっこりしてるじゃありませんか。
もしかして誰かいるのか。
それとも……。
ユウキ、私に勇気を!
私は勇気を振り絞り、その布団をめくる。
「キャアアアアア!!」
そこに寝ていたのは私。
私の等身大全裸ドールである。
ああ、なんだかおまたがスース―してくるよ……。
「あ~あ、見ちゃった……」
「ひぃっ!」
しまった、あまりにもひどい部屋のせいで警戒心がどこかへ行ってしまっていた。
私は後ろから抱きつかれて身動きが取れないようにされてしまった。




