もしかするとモカさんは……
「時間が止まってるね」
すっかり色を失った世界を見て、さくらさんはそうつぶやいた。
「あの石がやったんですか?」
「どうだろうね……」
さすがのさくらさんも、何が起きてるか把握できていないみたいだ。
もう一度空を見ると、あの石も同じように色を失っている。
ということは別の誰かが時間を止めているのか。
その時、空に浮かぶ石が強烈な光を放った。
そして光がおさまるとともに姿を消した。
「どっか行っちゃった……」
突然の超常現象の連続で何が何だか。
「むこうの世界に行ったのかもしれないね」
「え、それってまずいんじゃ……」
今度はむこうの世界が攻撃されてしまうってことだよね。
「いくら結界があるといっても、本気でぶつかれば破れてしまうわ」
お姉ちゃんの言葉でみんなに緊張が走る。
「急いで追いかけよう」
私たちは急いでお風呂場の鏡から異世界へとむかった。
こんな時、モカさんなら転移魔法で一瞬なんだろうなぁ。
鏡をくぐるといつものように洞窟の中にでる。
色は失われていない。
こちらの時間は止まってはいないようだ。
「ここからならいけるはず……」
私はみんなまとめてお姉ちゃんの家まで転移した。
そこからバルコニーに出て空を見上げた。
「いないね……」
「とりあえずこの後のことを話し合おっか」
「そうだね」
私はお姉ちゃんの後ろについて部屋の中に入った。
「時が止まってるだけなら、一応みんなは大丈夫なんだよね?」
まず一番心配なことを確認したくて、お姉ちゃんに問う。
「そのはずだよ、本人たちは気付きもしないだろうから」
「よかった……、でもなんで私たちは無事だったんだろう」
私たちが無事ならチョコやバニラも無事そうなものだけど。
その答えはさくらさんから返ってきた。
「必要最低限の人数だけ残したみたいだよ」
「え?」
「連絡がついたんだけど、セツナちゃんがやってくれたみたいだね」
セツナさんが?
世界の時間を止めてしまうなんて、私には想像できない魔法だよ。
「じゃあ、むこうは任せてしまっても大丈夫そうですね」
「そうだね、ただずっとは持たないだろうから早めに解決しないと」
ということは、あとは結界の修復か。
「私たちは何をすればいいんですか?」
「結界の修復はハノちゃんならできるはずだよ」
みんなの視線がハノちゃんに集まる。
「確かに私なら可能です、それが巫女ですから」
「ハノちゃんすごい!」
「でも、そのために必要な魔力が足りません」
魔力不足?
何これ、この世界詰んだの?
「ど、どうにかならないの?」
私はお姉ちゃんにすがるような視線を送る。
「結界のための魔力はブルームーンから供給されるものなんだよね」
「ええ!? あれ行方不明だよ?」
「あはは~、そうだね~」
「なんで笑ってるのお姉ちゃん!?」
「まぁ、そのうち出てくるよ、嫌でもね」
それもそうか。
でもあの石の目的は何なんだろう。
結界を維持するための魔力を送っておきながら、その世界を壊そうとしている?
そんな面倒なことしなくても、魔力供給をやめれば勝手に世界は滅びる。
ということはそれが目的ではないんじゃないかな。
少なくともこの世界のことは守ろうとしているように思う。
だとしたら、狙いは私たちの世界の方か。
いや、それも違いそうだ。
私たちが魔法を少しだけでも使えるのは、むこうにも魔力が供給されてるからだ。
そうでなければモカさんが倒した敵だけでも滅んでいたかもしれない。
モカさんか……。
そういえば、さくらさんもセツナさんも魔力の制限を受けているように見えた。
私は直接魔力を供給されてるから別として、モカさんは?
あの様子だと制限なしで魔法を使っている気がする。
それにモカさんだけが、世界間を転移できる。
お姉ちゃんとは仲がいいみたいだけど、さくらさんは正体を知らないようだった。
マロンちゃんという妹の存在がこの世界の人間だと思わせてきた。
でも私という存在があるように、姉妹の在り方もひとつではない。
モカさんはいつも私を見守っていると言っていた。
実際にピンチの時はいつも助けてくれた。
でも今はそばにいない。
海で私とさくらさんを助けてくれた時。
偶然といえばそれまでだし、時間もかなりの空きがあったけど。
モカさんとブルームーンは入れ替わるように現れた。
もしかすると……。
もしかするとモカさんは……。
その時、外から雷のような音が聞こえた。




