母親の前で堂々と……、でもかわいいわぁ
その後、しばらくの間さくらさんのぬくもりに包まれていた。
でも私が普段起きてるような時間になっていたので眠ることができず。
結局ふたりでリビングに戻って来ていた。
そこでさくらさん自慢の画像アルバムを見せてもらっていると、上からドアの開く音がする。
誰かが起きてきたみたいだ。
ちょっと騒ぎすぎたかな?
階段を降りてきたのはいろはちゃんだった。
神田家親子の対面だ。
「いろはちゃんだ~」
さくらさんがうれしそうに手を振っている。
しかし、いろはちゃんは寝ぼけているようでその隣を素通りした。
「あら~?」
さくらさん、かわいそう……。
いろはちゃんの目はほとんど開いていなかった。
よく無事にここまで来れたものだ。
「いろはちゃん、大丈夫?」
私は椅子から立ち上がって、いろはちゃんのそばまで近づいた。
「うにゅ~……、お姉ちゃん……」
お、お姉ちゃんだって!
寝ぼけてるときは、こう呼んでくれるんだよね。
「うにゅ~」
いろはちゃんがいきなり私に巻き付いてくる。
「うひょ~! いろはちゃんがかわいすぎるよ~!」
「母親の前で堂々と……、でもかわいいわぁ」
さくらさんの表情は母の顔そのものだった。
やっぱり親子なんだよね、心が温まるよ。
でも体は冷たくなってきたよ?
また私締め上げられてるよ。
「助けてさくらさん……」
「そんなこと言って、うれしいんでしょ?」
「そうじゃなくて……、苦しい……」
そこでようやく事態を理解したらしい。
慣れた手つきでいろはちゃんを引き離してくれた。
危ないところだったよ……。
とりあえず私の膝の上に乗せて抱いておく。
「昔から、大好きなものは寝てる間ずっと離さない子だったわ」
「そうだったんですか」
大好きなものか。
私もってことだよね?
なんだかくすぐったいじゃないですか。
その後、いろはちゃんがまた寝てしまったのをいいことにかわいい昔話をしてもらった。
幸せな、家族としての話。
いろはちゃんのような特殊な存在だとしても、普通の人と変わらず幸せになれる。
それは私にとっても希望となる。
ごく普通の女の子として生きる。
それはもう叶わないことかもしれない。
でも普通の女の子と同じ幸せをつかむことはできるかもしれない。
私はその可能性をあきらめたくはない。
いや、もしかすると普通の幸せにこだわる必要はないのかもしれない。
私には私の求める幸せがある。
私だからこそ得られる幸せもある。
例えばそれはハノちゃんとの出会いだったり。
異世界の女の子との出会いなんて普通だったらできない。
もしそれが運命の相手となったら?
それこそ私だからこそ得られた幸せだ。
それに私たちが特殊な存在だからこその絆もある。
私とユウキといろはちゃんは元々血のつながりはない。
でも家族同然で育ってきた。
そのおかげで私はお姉ちゃんを失ったとき、ひとりぼっちにならずに済んだ。
私たちは普通の家族よりも強い絆で結ばれている。
そんな自信がある。
私たちだけじゃない。
今まで出会ってきた人ほぼ全員が異世界とかかわっている。
そしてみんながそれぞれの立場から私たちを助けてくれていた。
みんな家族のようなものだ。
ああ、そうだ。
私はすごく幸せだったんだ。
確かに全部が全部いいことばかりではなかったけど。
私がこんな存在だったおかげで得られた幸せはそれ以上だ。
だから守らないと、絶対に。
誰一人欠けることなく、平穏な日常を送れるように。
私たちだけの幸せな時間を過ごせるように。
もうすぐみんなが起きてくるだろう。
そしたらさくらさんが、今起きてることを説明してくれる。
それがどんなものだったとしても、私は乗り越えてみせる。
ううん。
きっと私たちなら乗り超えられる。
そう信じている。




