あのっ、お姉ちゃんが冷たくなって……
「わ、私のぼせちゃったみたい、先にあがるね!」
逃げるように立ち上がり、お姉ちゃんに背をむける。
お姉ちゃんも私に続いて立ち上がった。
そして私の背中に思いっきり倒れ込んでくる。
「ちょっ、お姉ちゃん!?」
ダメだって、この先はまだ早いよ……。
「きゃっ」
2人で湯船に倒れ込む。
すぐに顔を出してお姉ちゃんを救出する。
「お、お姉ちゃん、こういうのまだ早いからダメ!」
……あれ?
「お姉ちゃん?」
なにこれ……。
のぼせちゃったのかと思ったけど、これはおかしい。
顔が赤くなるどころか真っ白だ。
そしてお湯に浸かってたのに、体がとても冷たい。
「え、ど、どうしよう、どうすれば……」
落ち着け、私。
とりあえずここから出して、モカさんを呼びに行こう。
そう思った時だった。
「かなでさんっ!」
モカさんがどこからか現れ、お姉ちゃんを抱きかかえる。
「とりあえず脱衣所まで出ましょう」
「あのっ、お姉ちゃんが冷たくなって……」
私は慌てながら状況を説明しようとする。
それをモカさんが遮って、そしてやさしく微笑みかけてくれた。
「大丈夫」
「え?」
「大丈夫、私にまかせて」
とても、とても頼もしかった。
私は涙を流しながらモカさんに付いて行った。
お姉ちゃんを床に寝かせてバスタオルをかける。
そのタイミングでいろはちゃんとハノちゃんが飛び込んでくる。
「だ、大丈夫ですか!?」
「ええ、なんとかなるわ、2人とも手伝ってくれる?」
「はい」
なぜだかいろはちゃんたちは状況を理解しているらしい。
手際よく3人でお姉ちゃんに何か魔法をかけている。
治癒魔法だろうか。
「かなり消耗してますね」
ハノちゃんが険しい表情で状況を確認する。
「かなでさん、あなたの力も貸して欲しい」
モカさんが魔法をかけながら私の方に振りむいて言った。
「私、何をすれば……」
お姉ちゃんのためならなんだってするよ。
でも何をすればいいのか、悔しいけどわからない。
「いろはさんの手を握っていてくれればいいわ」
「いろはちゃんの手を?」
それで一体何が……。
「かなでさんの魔力を使わせていただきますね」
いろはちゃんが私の手を握り返す。
するといろはちゃんの背中に光る翼が現れた。
「なっ」
私にも出てきたことのある、あの翼だ。
そして私の中から何か流れ出ていくのを感じる。
私といろはちゃん、そしてお姉ちゃんの体が光り始める。
それから10分くらいその状態を続ける。
「……もう大丈夫みたいね」
モカさんがお姉ちゃんの様子を確認する。
それを聞いていろはちゃんも魔法を止める。
光る翼は消え、私たちを包んでいた光も収まる。
「うぅ……」
お姉ちゃんが苦しそうにしながら、ゆっくりと目を開く。
「お姉ちゃ~ん!」
私はまた泣きながらお姉ちゃんを強く抱きしめた。
「かなで……、ごめんね」
お姉ちゃんはゆっくりやさしく私の頭をなでてくれた。
「みんなもありがとう」
いろはちゃんとハノちゃんがそれぞれニコッと笑う。
しかしモカさんは無表情のまま。
そしてゆっくりと近づいてきて、いきなりデコピンをかました。
「いった~い!!」
それを見てようやくモカさんは「フフッ」と笑った。
「ちゃんと説明しておくように」
そう言って脱衣所を出ていった。
お姉ちゃんはそれを見送った後、深呼吸してから私たちを見た。
「みんなに話しておきたいことがあるの」
お姉ちゃんの目は珍しく真剣なものだった。




