だ~れだ?
私たちは遊園地内のプライズコーナーにやってきている。
みんなクレーンゲームの景品を眺めたり、実際にプレイしたりしている。
そんな中、私とチョコはARの射的ゲームの前にいた。
まるでボーリングのレーンみたいなものの先に、ちょこんと景品の映像が映し出されている。
遠すぎでしょ……。
ここからあれに当てろと?
手元にはスナイパーライフル型コントローラーが固定されている。
スコープを覗き込むと、気持ち程度拡大されて見えた。
わざとだと思うけど、ぼやけて見える様になってる。
「チョコ、いけるかな?」
「難しいなぁ、やれるだけやってみるけどさ」
ちょっとだけカッコつけてみる。
チョコに狙ってもらっている景品は、ペンギンの着ぐるみパジャマだ。
誰に着せようかな、グフフ……。
そこにステラが通りかかる。
お、ステラが着てるところみたいなぁ。
かわいいだろうなぁ……。
「ステラ~」
「あ、お姉様」
私に気付いたステラが小走りで近づいてくる。
「なにしてるんですか?」
「射的だよ~」
私が指差した方をステラがチラッと見る。
「遠いですね」
「だよね!」
「まぁ、ポインターはあってますし当たるんじゃないですか」
ポインター?
そんなの出てるの?
見えない……。
そういえばステラって目がいいんだったね。
「フォイヤー!!」
いきなりチョコが叫びながらトリガーを引いた。
しかし思いっきり的を外したらしい。
「これ、撃った時の衝撃強すぎだろう!?」
弾はARだからそういう仕様になってるんだろう。
簡単そうに見えたけど、そんなところで難易度を上げてるのか。
「なんとかなりそう?」
「むずいかも……」
そうか……。
チョコが無理ならちょっと厳しいね。
「なら仕方ないね」
「え~……」
私が諦めようとしたら、ステラがものすごく残念そうな顔をする。
これはいかん!
私はチョコを後ろからかぶさるようにして押さえつける。
「ひゃう! な、なんだマスター、いきなり……」
「ふたりならいけないかな」
「さ、さぁ? どうだろうな」
とりあえず一度撃ってみよう。
「シュート!!」
さっきよりはマシなもののやっぱり当たらない。
本体がブレるんじゃどうしようもない気がするな……。
いや、何かあるんじゃないか?
神田家の遊園地に景品の取れないゲームを置くだろうか。
……。
置くかもしれないな、遊びで。
困り果てる私たちの手に、誰かの手が重なる。
「私を信じて、もう一度撃ってみて」
その声に振りむくと、そこにいたのはなんと。
「モカさ~ん!?」
なんでここに……。
いや、それよりもモカさんを信じてやってみよう。
「ってー!!」
頑張っておさえながらトリガーを引く。
しかし先程と同じくブレた気がする。
そのはずなのになぜか今回は命中したらしい。
「あれ?」
なんで?
不思議に思い、モカさんの方を見る。
モカさんは「ふふ」と笑いながら言った。
「当たり判定の方をいじってみたわ」
いいのかそれ……。
ともあれ、景品を無事ゲットできたからよしとしよう。
「ありがとう、モカさん!」
「どういたしまして」
モカさんにお礼を言ってから、ステラの元へ。
「これ欲しかったんだよね?」
「はい、ありがとうございます! すごくうれしいです」
ステラに着ぐるみパジャマを手渡すと、それを大事そうに抱える。
それからにっこりと笑ってこう言った。
「お姉様、今夜着てみてくださいね」
「……あれ?」
私が着るの?
やだよ。
人が着てるのを見るのがいいのに。
自分が着てるのを自分で見たって嬉しくなんか……。
嬉しくなんか……。
嬉しくなんかないんだからね!
「そういえばモカさんはどうしてここに?」
「言ったでしょ? 用事が終わったら合流するって」
本当に来てくれたんだ。
じゃあさっきのは全部片付いたんだ。
よかった。
「あのモカさん、お姉ちゃんは……」
もう一人、一緒に来るはずの人物。
それを確認すると、モカさんがやさしく微笑む。
そして私の目を後ろから誰かが塞いだ。
「だ~れだ?」
本日二回目のこれ。
間違いない。
この胸の感触はお姉ちゃんのものだ。
「お姉ちゃん……、こっちに来れたんだね」
私はお姉ちゃんの手を振りほどき、そしてその胸に抱きついた。
「来ちゃったよ、かなで」
お姉ちゃんが私の頭をやさしくなでてくれる。
むこうの世界で何度も会ってたけど、それとは少し違う気がした。
こっちの世界で会えたことがやっぱり嬉しかった。
やっと本当に再開できた気がしたから。
おかえり、お姉ちゃん。




