かなでさんを傷つける存在はすべて私が排除しますから
ダメだ、避けられない。
こちらに飛んでくる剣に思わず目を閉じる。
その瞬間、私の体がふわっと宙に浮き、すぐに着地した。
突然のことに驚いて目を開ける。
私はモカさんの腕の中にいた。
「も、モカさん……?」
「大丈夫?」
「は、はい……」
モカさん……、なんでここに?
用事があって来られなかったんじゃ……。
それでもいつも助けてくれるんだから。
「ちょっと待っててね」
そう言うと、にっこりと笑って私から離れていく。
それから2枚のカードを取り出し魔法を発動させる。
空中に黒い槍が無数に出現し、一気に敵モンスターに襲いかかる。
何か叫んでいるような動きをするが何も聞こえない。
でも相当ダメージがあったようだ。
さらにモカさんが前に手をかざす。
そこに死神の鎌のようなものが現れる。
黒のローブに赤い目、そして大きな鎌。
まるで死神みたいな姿だ。
それでも恐怖を感じないのは、モカさんのことをよく知っているからだろうか。
モカさんは一瞬で相手の足元まで飛び込んで、一気に鎌を振り切った。
敵モンスターは霧となって散っていく。
これで終わりかと思ったら、モカさんはさらにもう一枚カードを取り出す。
そのカードにむかって霧が吸い寄せられて消えていった。
そして鎌も霧になって消えた。
私はモカさんに声をかけようとした。
しかし「もう一体いる……」とつぶやき、転移魔法でどこかへ行ってしまった。
しばらく放心状態になっていると、セツナさんが駆け寄ってくる。
「かなでちゃん! 大丈夫?」
「え、はい……」
さっき血が流れていたところは、既になんともなくなっていた。
何かの演出だったのかと思ったけど、私の服には少し血が残っている。
ただ傷がふさがっただけのようだ。
「セツナさん、あれはゲームじゃないんですか?」
「えっと……、それは……」
セツナさんは何か言いづらそうな表情をする。
さっきの、最後のは明らかに様子がおかしかった。
だからモカさんが駆けつけたんだろうし。
「モカちゃんが落ち着いたら一緒に話すから、少しだけ待ってほしいの……」
「……わかりました」
「それまではいつも通りにしていてほしい」
「はい」
ああ、ついに何かが始まってしまったんだな……。
ずっと前から感じていた不安が現実のものになってしまった。
私の平穏はついに終わってしまうのかな。
もしかしたら今回が最後になってしまうのかもしれない。
ならせめて今日は楽しんでおこう。
その時が来ないことを祈って……。
「かなで、大丈夫か? なんか最後の変だったけど……」
ユウキが心配そうにそばに寄ってくる。
もしかしてユウキは気づいていないのか。
だったら今はそのほうがいい。
「うん、なんともないよ」
「そ、そうか? 何かあったら呼んでくれよ?」
「ありがとう」
ユウキが離れていくと、かわりにいろはちゃんが近づいてくる。
「かなでさん、なにも心配しなくてもいいですよ」
「いろはちゃん……?」
「かなでさんを傷つける存在はすべて私が排除しますから」
いろはちゃんがにっこりと笑う。
なのに私の背筋が凍りつくように冷たく感じた。
私たちは建物の外に出て、ゲームに参加しなかったみんなと合流した。
何事もなかったように笑顔を作り、楽しい日常に戻っていく。
周りで何かが起こるたびに繰り返してきたことだ。
これもいつまで続けられるだろうか。
今回のは今までのものとは違う気がする。
なんだろう。
実際に傷を負ったからだろうか。
それがこちらの世界で起きてしまったからだろうか。
「かなでさん、次行くみたいですよ?」
ボーッと考え事をしていたら、ハノちゃんが私の服の裾を引っ張ってきた。
そうだ、今日はせっかくハノちゃんもいるんだ。
まだみんなも事件に気づいていないし、今を楽しまないと。
「よ~し、行こっか!」
「はい、後はモカさんにまかせておけば大丈夫ですよ」
……え?




