ああ……、かなでちゃんがキズモノに……
私たちは今、セツナさんに連れられてARゲームのスペースの中にいる。
ここは前にMRのゲームがあった場所だ。
現在は新しいARゲームに変わっている。
ユウキのお目当てのゲームがこれだ。
セツナさんに薄いゴーグルを手渡され装着。
私とユウキの他、マロンちゃんとミントさんがゲームに参加する。
「じゃあ始めるよ~」
セツナさんののんびりとした声とともにゲームスタート。
私たちの服装がファンタジーっぽいものに変わる。
セツナさんは魔女みたいな服になっていた。
「クックック……」
中二病かな、セツナさん……。
「お母さん、かっこいい~!」
「本当に? ありがと~」
ユウキがセツナさんのコスチュームを絶賛する。
この子、お母さん大好きだね。
「このカードをあげるね~」
「ありがとうございます」
手渡されたカードはMRの時に使ってたものと同じ種類だった。
ということはあの時のカードも使えるということかな。
「これをね、シュってやるの」
「シュってやるんですか」
「そうなの~」
先にセツナさんがお手本を見せてくれる。
すると手に持っていたカードが魔法の杖に変わった。
「おお~」
「面白そうだな!」
私が驚きの声をあげ、ユウキが目を輝かせる。
さっそく私たちも同じようにカードをシュッとやってみる。
ユウキのカードは剣になり、私のはセツナさんと同じ魔法の杖に。
ミントさんが弓矢で、マロンちゃんは……猫パンチ?
「なにこれ~!?」
「マロンちゃんすっごくかわいいよ!」
私はものすごい速さでマロンちゃんに近づき、頬をスリスリする。
マロンちゃんは「にゃ~!」と叫びながらも特に抵抗しなかった。
「あの~、始めちゃってもいいかな~」
セツナさんがこちらにむかって声をかけてくる。
「あ、すみません、始めちゃってください」
「は~い、それじゃあ適当に戦ってみようか~」
そう言って杖を構えるセツナさん。
それを見てミントさんが手を挙げる。
「あのさ、チーム分けとかしないの?」
「いいよ~、1対4で」
「後悔しても知らないよ」
「多分しないから大丈夫だよ~」
なんだろう。
ふたりの視線がぶつかって怖い。
そういえば知り合いなんだっけ?
もしかして仲悪いのかな……。
「そこまで言うのなら、私が勝ったらその胸を揉んでやんよ」
「いいよ~、勝てたらね」
マジか!
そのご褒美は私ももらえますか?
「それで、私が勝ったらミントの胸を揉ませてくれるの?」
「セツナが勝ったら、かなでちゃんを好きにすればいいわ」
「なんで私!?」
ミントさん、何言ってるの?
あなたノーリスクじゃないですか!
「これは負けられなくなったわね~」
ちょっとあの人やる気出しちゃったよ?
「うぅ……、これは負けられないよ」
「大丈夫だ、かなではボクが守ってみせる」
「ユウキ!」
ユウキが何やら自信満々にかっこいいこと言っている。
これはいけるかもしれないよ。
『ゲームスタート!!』
いきなりゲームが始まった。
「とうっ!」
ミントさんが素早く弓矢を放つ。
どんな反射神経してるんだ……。
対してセツナさんは持っていた杖を一振りする。
すると突然強い風が吹き始める。
なんだこれ、ARの範囲超えてるよね?
セツナさんはさらにもう一枚カードを取り出して使用した。
その後すぐに桜の花びらが現れ、風に乗ってこちらに飛んでくる。
視界が……、前が見づらい。
あれ? まばたきしたその間にセツナさんを見失ってしまった。
と、次の瞬間、後ろから誰かに抱きつかれる。
「囚われのお姫様~」
「ひゃ~!?」
私はセツナさんに囚われてしまった。
頭にやわらかいメロンが……。
少しこの膨らみを堪能しようと思ったけど、そうはさせてくれなかった。
「かなでちゃんはお胸がないね~」
「にゃ~!?」
セツナさんが私のない胸をおさわりし始めたのである。
それを見てマロンちゃんが悲鳴のような声を上げる。
「かなでぇ~!!」
「ま、マロンちゃん……、助け……」
「ああ……、かなでちゃんがキズモノに……」
「なってないから~!」
ミントさんもじっと見てないで助けて欲しいなぁ。
というか、何ニヤニヤしてるの?
もしかして楽しんでるの?
「ユウキー! 助け……て、ええ!?」
ユウキに助けを求めてみたけど、なぜか天を仰いでいた。
「ボクが……、不甲斐ないばかりに……、かなでがキズモノに……」
「なってないってば~!」
ダメだ、ユウキとミントさんは戦意消失している。
あとはマロンちゃんに託すしかない。
「ユウキってあんな子だったかしら……」
ふと、セツナさんの注意がユウキの方にむいた。
チャンス! 何かできないか?
その時、マロンちゃんがセツナさんの背後に回り込んで行くのが見えた。
さすがだよ!
私は、すこし緩んでいた腕の中で半回転して、セツナさんに抱きついた。
「ひゃっ」
セツナさんがかわいらしい声をあげた。
いや、まったくの偶然なのですが、顔が胸の谷間に挟まりましてね。
そしてその間にマロンちゃんが背後に回り込んで攻撃を入れた。
「にゃ~!」
「にゃ~!?」
セツナさんの猫みたいな悲鳴があがる。
これが猫パンチの効果『メロメロタッチ』だ。
触れた相手をメロメロ状態にする。
AR関係ない。
「か……」
「あれ? どうしたんですか?」
セツナさんが小刻みにふるえている。
まるで何かを我慢しているかのようだ。
「かなでちゃん~! 私と結婚して~!!」
「ええ!? なんで私!?」
マロンちゃんのメロメロ効果がなぜ私にむいているんだ。
「というか、あなたこどもいるでしょうが~!!」
「かなでちゃ~ん!!」
「これ勝負どうなったの?」
「さぁ……」
誰か助けて~!




