クジラ大好き~
お花のカフェでゆっくりしているうちにすっかり調子も戻ってきた。
ついでにサンドイッチも頼んで、早いけど軽めの昼食も済ませた。
……朝もサンドイッチだったよね。
さて、次はどのアトラクションに行こうか。
そう思ってマップを開くと、このカフェの近くにクジラのコースターがあるのを発見した。
実際に辺りを見回すと、確かに大きなクジラの建物のようなものがある。
まさかあれが動くのだろうか?
私たちのシェアハウスくらいの大きさがあるんだけど。
「ねぇねぇ、あれ行ってみない?」
私はクジラを指さしながらみんなに声をかけた。
みんながその先のクジラとマップを見比べながら頷く。
「いいんじゃないか? ちょうど行き先がボクの行きたいARゲームの建物の近くだし」
ユウキがそう言って賛成した。
みんなも異論なしのようだ。
ということでクジラコースターへむかって歩き出す。
それにしてもユウキのいうゲームってマップに載ってないんだよね。
また非公開の試作ゲームなのかな?
新作って言ってたのにね。
クジラコースター前に来るとその大きさに圧倒される。
これが動いちゃうのか~。
なんというか高さが怖い。
あと、誰も並んでないのが怖い。
おかしいよね、他のアトラクションは30分待ちとかあるのに。
人が寄り付かないのはなにか理由があるんじゃないだろうか。
だってこれ移動手段として使えそうだもん。
この遊園地の反対側までいけるし、無料だし。
しかも外周を海沿いに進むから景色もいいはず。
なのに誰もいない。
怪しい……。
そういえば動いてる所見たことないなぁ……。
少々不安を感じつつも、かわいいナビキャラに誘われ中に入る。
中はただの大きいフロアで、海をイメージしているのか青系統の色で統一されている。
海側の柵のところまで行くと、少し高いところから海を眺めることができる。
風も気持ちいいし、たとえ動かなくてもいい場所だと思うけどなぁ。
『それじゃあ出発しま~す!』
ナビキャラのかわいい声が響く。
そして建物がゆっくりと動き始める。
おぉ~。
なんかクジラって感じのスピードだね。
実際のクジラがどんなのかは知らないけど。
ただ、歩いたほうが早く移動できるとは思うけども。
でもいいんじゃないですか。
こうやって景色を眺めてるうちに勝手に進んでくれるなんて。
もっと人気が出そうなものだけどね。
気になるのは私の隣りにある赤いボタンだよね。
うん、きっと押さなければ大丈夫なんだよ。
「お姉ちゃん、ここに楽しそうなボタンがありますよ」
バニラに発見されてしまった。
「押しちゃダメですよ、絶対に押しちゃダメですよ」
「え~……」
バニラが押したくてしょうがないといった顔をしている。
なんでこういう時はチョコよりもこどもっぽいんだろう。
「絶対に押すなよ、なんか『注意!』ってでっかい赤文字で書いてあるぞ?」
チョコがバニラの説得を始める。
そうなんだよ、あきらかに煽ってるんだよね。
「えへっ、押しちゃいました!」
「バニラさ~ん!?」
何が起きるのかと身構える。
しかししばらくしても何も起こらない。
ただのボタンだったのだろうか。
ちょうど警戒を緩めたその時、ナビキャラの声が響いた。
『君たち! クジラがどんなスピードで泳いでるか体験してみたいよね!』
「どんなスピードか知らないけど、体験したくなんかないです!」
嫌な予感しかしないので断る!
『よ~し、いい返事だ~! それじゃあレッツ・ゴー!!』
「人の話を聞けよ!」
私のかわりにユウキが叫ぶ。
まったくそのとおりである。
徐々にスピードをあげていくクジラの建物。
いや、一応乗り物か。
レールが切り替わり、海の方へむかっていく。
しばらくして海の上に出ると一気に加速する。
ぎゃ~!!
……?
別に怖くなかった。
むしろ風が気持ちいい。
これなら海上レールのほうが断然早い。
どのクジラのスピードか知らないけど素晴らしい。
クジラ大好き~。
『そしてこれがヌーディストビーチを見ようとして転覆した船の体験~!』
「いらねぇよ!」
またもユウキが叫ぶ。
まったくそのとおりだ。
「それなら裸のお姉さんたちを用意してほしいものだね」
「そこかよ! 違うだろ、このままじゃ海に落ちるぞ!」
少しずつ乗り物が遊園地側に倒れていく。
何も掴まずに立っていた私は、だんだん海の方に滑っていっていた。
それをユウキがつかんで引っ張ってくれている。
『あ、ボワワンなお姉さんがいるぞ~!』
「ヒャッホ~イ!!」
「お前はバカか~!」
ナビキャラの言葉に私は遊園地側に走っていく。
そして何かにつまづいて乗り物から飛んでいってしまった。
その直後に、なんと乗り物が高速で一回転した。
「わお……」
なぜか私の体は海に落ちず、宙に浮いている。
魔法の気配がする。
これなら中のみんなも無事だろう。
私の体は乗り物の中に戻されていった。
その後は特にイベントもなく目的地にたどり着いた。
「なんというアトラクションなんだ……」
ユウキがまたも疲れたような表情をして外に出る。
そこにある人物が待ち構えていた。
「みんなどうだった~? 私の作ったクジラコースターは~」
あれ、この声はさっきナビキャラの声だ。
というか、この人は……。
「お、お母さん!?」
「やっほ~、ひさしぶりだね~、元気だった~?」
ユウキが、突然現れた人物の姿に驚きの声をあげる。
そう、この人はユウキのお母さん、寺町雪菜さん。
昔の異世界を旅していた人だ。




