人は恋をするといくらでもバカになれるのです
ついにむかえた遊園地に遊びに行く日。
私は朝早くにハノちゃんの家にやってきた。
ユウキたちにはもうひとり連れてくると説明してある。
ハノちゃんが出かける準備をしている間、私はココアを飲んでいた。
あ~、落ち着くなぁ……。
そしてハノちゃんが後ろで着替えを始める。
私はそれを見ないように気をつける。
あえてスマートフォンの画面の反射を利用してこっそり覗くという技を使った。
私がいる部屋で着替え始めるなんて、ガードが硬いようでゆるい。
これって私は見てもいいということではないだろうか。
「お待たせしました~」
その声に振り向くと、いつの間にか着替え終えていたハノちゃん。
まるで妖精のようなワンピースがとてもかわいい。
と言っても、普段からこんな感じの服をよく着てるけどね。
「それじゃ行こっか」
「はいっ」
私はココアを飲んでいた湯呑みを片付け、ハノちゃんとともに部屋を出る。
露天風呂を通り、鏡のある洞窟に入る。
ここも見慣れたもんだね。
そして鏡の前にたどり着く。
一応念のために、ハノちゃんの手が通るかどうかだけ確認する。
もし通らなくても転移魔法で連れて行くことはできるけどね。
でもここを通ることができれば、自由に行き来できるようになる。
私がいなくても、ハノちゃんが来たい時に来れるようにできる。
「それじゃあハノちゃん、手を通してみて」
「はい」
恐る恐る手を鏡のむこう側へ伸ばす。
すると無事に指先がすり抜けてくれた。
「大丈夫みたいだね」
「よかったです」
私たちは手を繋いで鏡の門を通り抜けた。
「こっちもお風呂につながってるんですね」
「そうなんだよ」
ハノちゃんが転ばないように体を支える。
お風呂場だからね。
転けたりしたらせっかくの服が濡れちゃうよ。
そんな言い訳を心のなかで展開する。
そしてさりげなくハノちゃんの体をおさわりする。
えへ、やわらかい。
「あ~!」
その時、お風呂場に大きな声が響く。
心臓が破裂しそうなくらいびっくりした。
おさわりバレたか?
その声の主はなんとマロンちゃん。
朝風呂かな?
全裸であります! ふぉ~!
「ハノちゃんだ~!」
「マ、マロンちゃん!?」
え、何?
知り合い?
「ひさしぶりだね~!」
「ですね~!」
マロンちゃんはこちらにむかって手を振りながら駆け寄ってくる。
一応転けたりしないように注意してるみたいだ。
しかし、丸見えです。
そちらの方も気を付けていただきたいが……。
ハノちゃんもちょっと目のやり場に困ってるよ。
「ふたりは知り合いなんだね」
「はい、幼馴染なんですよ」
「そうなの!?」
幼馴染か~。
あれ、友達いないって言ってなかったっけ?
「モカさんとは知り合いじゃなかったよね」
「モカお姉ちゃんですか? はい、そうですね」
マロンちゃんとは幼馴染で、モカさんのことは知らなかったのか……。
「ハノちゃんとお姉ちゃんは一回も会ったことないよ」
マロンちゃんがそう答えてくれる。
そういう関係もあるのか。
今じゃハノちゃんのほうがモカさんの妹みたいになってるけど。
「モカお姉ちゃんが言ってたのって、やっぱりマロンちゃんのことなんですね」
ハノちゃんが私の方を見てそう言った。
モカさんもこのこと知らなかったんだろうなぁ。
そして全裸のマロンちゃんが何かに気付く。
「あ、もしかしてハノちゃんがメールに書いてた好きな人って、かな……っんぐ~!」
マロンちゃんが誰かの名前を出そうとした瞬間。
ハノちゃんがすごい勢いでマロンちゃんの口を手で塞いだ。
楽しそう? に話すハノちゃんとマロンちゃん。
一方の私は、異常な湯気や光線などを駆使しマロンちゃんの上と下を隠していた。
こうでもしないと年齢制限が上がってしまいかねない映像だからね。
「あの、とりあえずここから出ない?」
頑張って隠すのも疲れてきたのでそうしたい。
「あ、そうだね」
「お話は服を着てからにしましょう」
ハノちゃんが冷静に言った。
やっぱりね、全裸はいけないよね。
個人的にはね、ずっと見てたいんだけどね!
「みんなリビングに居ると思うよ、ハノちゃんのこと紹介しないとね」
そう言った後、マロンちゃんは脱衣所の方に駆けていった。
「ふぅ、相変わらずですねマロンちゃんは」
「相変わらずなんだ……」
昔から露出魔だったのか……。
でも、元気もらえるんだよね、あの子は。
「さ、みんなの所に行こう」
「はい」
私たちは手を繋いでお風呂場をでた。
「あ、手繋いでる~」
出たところでマロンちゃんに見つかりました。
当たり前だよね~。
人は恋をするといくらでもバカになれるのです。




