偽物じゃありません!!
鏡の門から元の世界に戻って来た。
最後のブラジャーの件で暗い雰囲気はなくなっていた。
ナイス! 私の胸。
指輪ちゃんが鏡に鍵の魔法をかけ、バニラが本殿の魔法をはり直した。
これで元通りだね。
今ならあそこがどれだけ大事なところなのかが分かる。
コアに何かあれば、あの異世界は消えてなくなってしまうだろう。
女の子だけの世界。
私が夢見た世界。
そして、神田さくらが夢見た世界でもあった。
世界の誕生か……。
大きな話なのに、関わってる人間が身近な人ばかりだ。
私もだが。
「あ~あ、山降りるの面倒ですね~……」
バニラがそう言ってその場にしゃがみこんでしまう。
しかし、その点に関しては問題ない。
「大丈夫だよ、私、入り口の鳥居を目印にして転移できるよ」
「本当ですかお姉ちゃん!」
「うん、そういうの分かるようになったんだ~」
ブルームーンストーンから流れ込んできたものの中にはたくさんの知識もあった。
それらを使えば、そのくらいはできる。
「じゃあみんな、つかまっててね」
私の前に指輪ちゃん。
両側にチョコとバニラがつかまる。
「じゃあ、行きまーす!」
はい、転移完了。
「おお」
「これが転移魔法ですか~!」
ふたりとも初めてだったのか。
やっぱりできる人少ないんだなぁ。
モカさんってすごい。
「ここまで来れれば家までは近いな」
チョコがそう言って家の方向に歩き出す。
それを見て私は慌ててチョコを引き止める。
「待って待って、チョコ」
「うん? どうしたんだマスター」
そんな当然のように帰らなくても……。
今日のもともとの目的を忘れてるよね。
「まだ時間もあるし、遊びに行こうよ」
私なりに喜んでもらえると思った提案だったのに、チョコは呆れたような表情をした。
「お姉ちゃん、今日は帰って休んだほうがいいんじゃないですか?」
チョコの代わりにバニラが答えた。
心配してくれるのはありがたいんだけどね……。
でも、今家に帰っても時間が余ってしまう。
そうしたらきっといろんなことを考えてしまうから。
それよりは、今日を目一杯楽しんですっきりしたいな。
だからこれは私のわがままだ。
「私は大丈夫だから、ね?」
「マスター、今は大丈夫でも、突然何かあるかもしれないだろ?」
「そうですよ、部屋でおとなしくしてたほうが……」
ふたりが不安げな顔をしている。
心配かけてるのはわかってる。
それでも私はひかなかった。
「お願いだから遊びに行こうよ~!」
私はまるでお姉ちゃんにするようにチョコの腕を掴んで駄々をこねる。
「こどもか!」
チョコが私の手を振りほどきながらツッコむ。
「まったく、これじゃ立場が逆じゃないか……」
チョコがため息をついて腕を組む。
「しょうがない、何かあったらすぐに帰るぞ?」
「わかったよ」
チョコの許可もおりたところで、さてどこに行こうか。
そこでさっきからずっと黙り込んでいる指輪ちゃんに声をかける。
「指輪ちゃんはどこか行きたい所ある?」
「私はお姉様に従います」
うっ、参考にできない……。
「そういえば指輪ちゃんって呼んじゃってるけど、本当の名前聞いてなかったね」
「私には名前なんてありません」
私が言うと、そんな答えが返ってきた。
名前ないんだ……。
「好きなようにお呼びください、指輪ちゃんでも構いません」
「う~ん」
すでに指輪ちゃんと呼びまくってるけど、ちゃんと名前をつけてあげたいよね。
「指輪についてた宝石ってブルームーンストーンだよね?」
多分そうだと思うけど、一応指輪ちゃんに確認する。
あの大きなブルームーンストーンに似てたし、合ってるよね?
「どちらもブルームーンストーンと呼ばれていますが、違う石です」
あれ、違った。
難しいものだね。
「泉の方はムーンストーンです」
「本物ですね!」
指輪ちゃんが言うと、バニラが理解したようにはしゃぐ。
本物? 偽物とかあるの?
「指輪の方はムーンストーンじゃないってこと?」
「ペリステライトという、そっくりさんですね」
ペリステライト?
聞いたことない宝石だ。
「つまり偽物?」
「偽物じゃありません!!」
「ごめんなさ~い!」
指輪ちゃんが急に声を上げるから、反射的に謝ってしまった。
ほそぼそ喋ってるのに、あんな声出るんだ……。
「あ、すみません、私、つい……」
指輪ちゃんが赤くなりながら視線をそらす。
「どっちも女性性を象徴する月のエネルギーを持っていると言われてるんですよ」
指輪ちゃんに代わり、バニラがちょっとした説明をしてくれる。
「へぇ、違う石なのにそっくりで同じような力があるんだ」
「目に見えない力ってそんなものですよ」
世の中の不思議だね。
「多くの人があると信じるから、そこに力が宿るんです」
指輪ちゃんの言葉はすごくしっくりとくる説明だった。
それなら確かにそっくりさんが同じ力を持つのもわかる。
よし、決めた!
「指輪ちゃんの名前はペリステライトから取って、ステラにします!」
突然の命名に、誰も反応しない。
「取るとこ変じゃないか?」
「真ん中がいいかなって」
「あいかわらず適当に名前つけますね……」
チョコにツッコまれ、バニラがジト目をむけてくる。
あれ、そんなに変かな?
「ありがとうございます、お姉様……」
指輪ちゃんの小さな声がして、そちらをむく。
お辞儀をしていた指輪ちゃんが顔をあげ、そしてにっこりと笑った。
「ただいまから、ステラとお呼びください、お姉様」
その笑顔がまぶしすぎて、私たち三人は顔を赤くしながら見惚れていた。




