初めまして、お姉様
いつまでも崖の下を覗いていても仕方ないので道の方に戻る。
その先にある泉。
とりあえずそこまで行ってみることにした。
「う~ん、なんだか不思議な感じがする」
なんだろう、空が広いというか。
周りに高いものがないからかもしれないけど。
ああでも、それだけじゃないなぁ。
やっぱり空間が違う。
異世界とか、空の上とかそういうのじゃない。
私たちがいていい場所ではない気がする。
しばらく歩くと泉のそばまでたどり着いた。
「うへ~、綺麗な水ですね~」
バニラが言うように、泉の水はまったく濁りのない透明。
底が透けて見える。
かなり冷たそうだ。
と思って、ゆっくりと手を入れてみたら、ほとんど温度を感じなかった。
「うひゃっ、冷たいですね~」
「ん? けっこう温かいぞ?」
「あれ? 私は常温だと思うけど」
バニラには冷たくて、チョコは温かい。
私は常温。
「人によって変わるタイプかな」
味が変わる水もあったし、まぁないことはないだろう。
「私の心は温かいということかな」
「……じゃあチョコは私の心が冷たいと言いたいんですね」
「うわ、違う違う! そんなつもりじゃ……」
チョコ、やらかしたな……。
しかし、それなら私は普通ということかな。
ひさびさの普通。
やったね!
勝手に解釈し少し喜んでいたら、頭のなかに何かが浮かんできた。
また術式だ。
何かの魔法が発動する。
そして突然辺りが真っ暗になった。
「きゃー!」
「な、なんだ!?」
バニラとチョコが驚き戸惑っている。
何が起きてる?
建物内でもないのに真っ暗なんて。
その時、ずっと身につけていたお姉ちゃんのペンダントが青く光る。
そしてその光が、泉の中心部へと伸びていく。
これで少し周りが見えるようになった。
バニラとチョコが私の腕に抱きついてきた。
青い光が泉の中心部に到達すると、泉全体がうっすらと青く光る。
そして底の方から何かが浮かび上がってきた。
それは大きくて丸い宝石だった。
三人で手を繋いで囲えばちょうどくらいの大きさだ。
それが目の高さくらいで浮かんでいる。
「なんか月みたいだね」
私の持った印象はこれだった。
目の前にあるお月様といった感じ。
「ここからすごい魔力があふれて来てるぞ」
「さっき外で感じたのはこれですね」
チョコとバニラの言うとおりなら、私たちの世界まで魔力が漏れてることになる。
これは……、隠してるのだろうか。
なんでお姉ちゃんのペンダントに反応したんだろう。
一体お姉ちゃんは何者なんだ……。
なんかどうしていいかわからず、三人で固まっている。
すると急に指輪の宝石が強く光り、私の指から抜け出して巨大宝石にぶつかった。
そしてさらに光が強くなると、それは人の姿になった。
「え?」
驚きの光景に思わず声が漏れた。
チョコやバニラと同じようなものか。
やっぱり指輪は自分の意志を持ってきたということだ。
ずっと持ってた物が人の姿になるとさすがに、戸惑うところはあるね……。
その指輪ちゃん、背はチョコたちと同じくらいで幼く見える。
青系統のボブヘアで、服装はポンチョのようなローブを着ている。
正直かわいいです。
指輪ちゃんは閉じていた目を開き、こちらの姿を確認する。
そして柔らかな笑顔を浮かべ、小さな声で挨拶をしてくれた。
「初めまして、お姉様」
……うん?
「あ、私?」
お姉様って私か?
「そうですよ、お姉様……」
そう言って、私の胸にそっと抱きつく指輪ちゃん。
平らですがいいですか?
「チョコさんとバニラさんも初めまして」
「あ、ああ、はい」
「初めましてです……」
チョコもバニラもうまく対応できていない。
目の前で起きたことをまだ消化できずにいるみたいだ。
そうだ、ボーッとしてる場合じゃなかった。
私は指輪の少女に聞かなければいけないことがたくさんある。
「ねえ、あなたはこの大きな宝石のこと、何か知ってるの?」
「はい」
知ってるんだ。
「あなたはこれと何か関係があるの?」
「はい、とても」
そうか。
お姉ちゃんからもらった指輪から変身したこの子。
そしてこの大きな宝石と関係があると。
お姉ちゃんは私に何かさせたいのだろうか。
少なくともここのことを隠したいわけではないんだろうけど。
私は指輪ちゃんと向き合い、覚悟を決めて言った。
「あなたの知ってること、私たちに教えてくれないかな」
「はい、わかりました」
指輪ちゃんは背を向け、宝石のそばに戻る。
そして振り向きながら言った。
「でもお姉様、私より直接聞いたほうが早いですよ」
「え? 誰に?」
私が聞き返すと、指輪ちゃんは微笑みながら答えた。
「世界のコアであるこの『ブルームーンストーン』にです」




