嘘……、私の指輪が……
「でっかい鏡だなぁ」
祀られている鏡を見て、チョコは言った。
これを見たら誰だってそう思うだろう。
「私、これと同じものをむこうの世界で見たよ」
「ホントですか?」
「うん、ちっちゃいやつだけど」
私がそう答えると、バニラは何か考え事を始めた。
チョコは鏡のそばまで近づいて、じ~っと見ている。
「これ、どこかとつながってるな」
チョコは特に驚く様子もなくそう言った。
多分、ここに来る間にある程度気づいていたんだろう。
それはバニラも同じらしい。
「やっぱり私たちの世界ですよね」
「そうだろうな」
バニラの言葉にチョコが振り返りながら答える。
私たちも鏡のそばまで近づき、チョコの隣に立つ。
「つながってるけど、通れないように魔法がかけてあるな」
「扉と合わせて二重ですか、怪しいですね」
バニラはさっきと同じように鏡に手をかざす。
しかしすぐに首をかしげる。
「あれ? 魔法が解けないです……」
「嘘だろ、バニラにも解けないのか?」
チョコがかなり驚いた表情をする。
いや、一体何者なんだバニラは……。
あ、もしかしたら私の魔法無効化で解けたりしないかな?
ちょっと試してみようと鏡に近づく。
そこでこの鏡にお風呂場の鏡と同じくぼみを見つけた。
「もしかしたらお姉ちゃんのくれた指輪で通れるかも……」
「「え?」」
チョコとバニラが同時に振り向く。
「このくぼみ、お風呂場の鏡にもあったんだ」
「これか?」
私が指差したくぼみをチョコが覗き込むように見ている。
「その時はここにお姉ちゃんの指輪がはまったんだよ」
「今、指輪は?」
「えへへ、お風呂場に……そのままです」
バニラがすごく残念そうな顔をする。
そういえばほったらかしだった。
あれ、回収しちゃっていいのかな?
「ははっ、まぁ今日はここまでにしとこうか」
チョコが軽く笑って、今日の探検終了を告げる。
「そうですね、長居すると危険かもしれないですし」
「え? そうなの?」
「かもですよ、かも」
こんな場所で言われると怖いよバニラ……。
「指輪を持ってまた来ようか」
「ごめんね、ちゃんと身につけてればよかったんだけど」
チョコたちに謝る私。
大事なもののはずなのに、すっかり忘れてたよ。
あれ? そういえばあの指輪、部屋においてあったような。
お風呂場から回収した覚えがないんだけどな……。
どうしたんだっけ?
「じゃ、撤収~!」
チョコが元気よくステップを踏む。
私とバニラはゆっくりとその後を追う。
その時、入り口の扉の前辺りで何かが光った気がした。
気のせいかと思ったら、それは大きくなってもう一度光った。
「にゃ~!?」
チョコが思いっきり光を浴びて、飛んで帰ってくる。
「な、なんだ?」
チョコは私に抱きつきながら、何が起きているか確認しようとする。
バニラも私の後ろに隠れながら光の方を見る。
青い光が渦を巻いて、さらにもう一度大きく光る。
そして光が消えたその場所に、私の指輪が浮いていた。
「嘘……、私の指輪が……」
「むこうからやってきたっていうのか……」
驚く私と、かなり警戒しているチョコ。
とにかくほっといても仕方ないので指輪を手に取る。
確かにお姉ちゃんからもらったものだ。
「これは……、転移魔法なのかな?」
私は確認のため、こういうことに詳しそうなチョコに聞いてみる。
「転移魔法の一種だな、マスターが教わったものとは少し違う」
「そうなんだ」
ふむふむ、上級とかじゃなくて種類が違うのか。
なかなかに奥が深い。
「ただ、誰が使ったか、だな」
確かに。
この魔法を使えるような人物なんて限られるだろう。
いや、それ以前にあの家の住人じゃないとこの指輪が手に入らない。
あと、今ここにいるなんて誰も知らないはず。
可能性があるとしたらモカさんだけど。
あの人なら自分で転移してくるだろう。
目の前で起きた不思議な出来事に答えが出せない。
「あとは、この指輪自身が転移してきたかですよね」
「え?」
思わず聞き返したけど、確かに一番可能性が高いかもしれない。
「魔法でそういうことができるの?」
「特定の人物から一定の距離空いたらとかね」
「一定時間空いたらという魔法も聞いた事あります」
なんか呪いみたいだ。
「指輪が意思を持ってるって可能性もありますが」
「そんなことあるの?」
「私たちみたいなことをしてるかもしれないってことです」
モフモフから人になったことか。
もしバニラの言うように、人の姿をとれるとしたら……。
「かわいい子だといいなぁ」
「真面目に話してる最中に何言ってるんですか……」
「テヘッ」
まぁこのまま話してても正解が分かるわけじゃないしね。
指輪ちゃんがかわいい女の子であると祈りつつ。
とりあえずこの鏡の魔法を解いてもらいましょうか。




