いや、キスだね、今起こしてあげるからね!
あの後、お姉ちゃんとハノちゃんと別れ、鏡を抜けて元の世界へ戻ってきていた。
最後のお姉ちゃんのあれは何だったんだろう。
いつものように冗談で終わらせていいものなのか。
普段と変わらない笑顔だったけど、どこか雰囲気が違った。
でもいきなり結婚とか言われてもね……。
お姉ちゃんの言葉と抱きしめられた感触を思い出し顔が熱くなる。
落ち着くんだ、私!
実の姉相手に何を考えているんだ……。
よし! みんなに会おう!
そうすれば気持ちも落ち着くに違いない。
ということで、みんながいるであろうリビングにむかう。
「ただいま~」
リビングのドアを開けて挨拶。
お風呂から戻ってきて『ただいま』ってなんか変だね。
「おかえりなさいませ、お嬢様♪」
……。
「あ、すいません、家を間違えました」
「待って~!」
中に入って、メイド喫茶のように出迎えてくれたのは、まさかのユウキだった。
予想外の人物のメイド服姿。
何があった……。
ドアを閉めて帰ろうとする私の腕に抱きついて止めようとする。
そのユウキの姿がかわいらしかった。
あとメイド服もかわいい。
そんなまったくの非日常なのに、やっぱりここは落ち着くなぁと思った。
長い時間を過ごした場所だからか。
それともみんながいるからだろうか。
さっきから顔を赤く染めながら、私の服の裾をつかんでいるユウキ。
私は振り返ると、そんな彼女をそっと抱きしめた。
「ただいま、ユウキ」
「お、おかえり」
そのまま私はユウキの頭をなでる。
いろはちゃんとかにはたまにするけど、ユウキにはあまりしないことだ。
「かなで、恥ずかしいよ……」
「嫌?」
「別に嫌じゃないけど……」
無抵抗でなでられ続けるユウキ。
しかし何でこんな格好してるんだろう。
罰ゲームかな?
「何してるの?」
「ひゃう!?」
急に声がかかり、ユウキが短い悲鳴をあげる。
声のした方を見るとマロンちゃんが立っていた。
「かなで、おかえり~」
「ただいま、マロンちゃん」
「ユウキはどうしたの? メイド服なんか着ちゃって」
マロンちゃんがテテテっと寄ってくると、ユウキは私の後ろに隠れてしまった。
このコスプレのことをマロンちゃんは知らなかったみたいだ。
「き、着替えてくる!」
そう言って走り去るユウキ。
階段をかけあがるその後ろ姿にむかって私は声を投げかける。
「ユウキ~! その服かわいいよ!」
その言葉に足を止め、ちらっとこちらを振り返る。
「ありがと……」
そしてまた走りだして自分の部屋へむかっていった。
てっきり「うるさい!」とか言われると思ってたのに。
なんか様子が変だなぁ。
あとあんな服装をしていた理由もわからないままだ。
「ねえねえ、島は手に入ったの?」
「天島? 手に入ったよ、落としそうになったけど」
「よく止められたね~、私は昔お姉ちゃんと一緒に落ちちゃったけど」
そういえばモカさんがそんなこと言ってたなぁ。
「あ、そうだ、モカさんに転移魔法教わったよ」
「うそ、すごい! じゃあ私の家まで行けちゃうんじゃ……」
「いや~、まだ簡易版しか使えなくて自由には移動できないんだよ」
「それでもすごいよ! さすがだね~」
「そ、そう? 照れるね~」
「転移魔法あれば島いらなくなるね!」
う、そんなこと言わないでよ、あんなに苦労したんだから……。
それに移動目的で使わなくても、プライベートアイランドとして使えるよ。
あんなにきれいな場所なんだから。
それに邪魔も入らないしね、フフフ……。
「あ、いろはちゃんはどうしたの?」
「そこにいるよ」
マロンちゃんはソファを指さす。
のぞき込むと確かにそこには愛しのマイエンジェルいろはちゃんの姿があった。
クッションを抱きしめながら、そこで眠っている。
か、かわいい……。
これは抱きしめるしかないね!
いや、キスだね、今起こしてあげるからね!
いろはちゃんの肩をそっとつかみ、顔を近づけていく。
「あ~、かなでいけないことしようとしてる~」
「し~!」
マロンちゃんがいることをすっかり忘れていた。
ついさっきまでしゃべっていたのに。
「う、うん……?」
今のやりとりでいろはちゃんをゆすってしまい、目を覚ましたみたいだ。
くぅ~、残念……。
いやいや、違う、勝手にキスとかダメに決まっている。
これもいろはちゃんがかわいすぎるからいけないんだよ~。
「あ、かなでさん、おかえりなさい……」
そういいながら、まだ寝ぼけているのか半眼のまま私に抱きついてくる。
そしてなぜかほっぺたをスリスリしてくる。
え、なんですかこれは?
勘違いしちゃっていいですか?




