クイックロード!!
「かなでさん、この世界はね、あなたが思っている以上にいいところよ」
「どうしたんですか突然……」
モカさん、誤魔化そうとしてる?
「かなでさん、この世界は女の子しかいないのよ」
「あ、はい」
「知ってたの?」
「お姉ちゃんに教えてもらってました」
「そう、でもこれは知らないでしょう」
「何ですか」
なんかどんどんモカさんがキャラ崩壊していく。
「このあたりはね、みんな家に大きなお風呂を持っているのよ」
家だけじゃなくお風呂まで。
それでハノちゃんの家のお風呂もこんなに大きいのか。
「そして、みんな自由にお風呂に入り合う習慣があるのよ」
え?
勝手に人の家のお風呂に入るの?
そんなのダメだよ!
早く私も家を建てて、お風呂を作らないと!
そして、お風呂に入りにきた女の子と仲良くなるんだぁ。
うへへ。
「あの、入っていいのは開放されているところだけですよ……」
ハノちゃんが話を少し訂正する。
私のお風呂は大開放しちゃうよ~。
「ハノちゃんの家は?」
「巫女の家のお風呂は基本的に開放されていますよ」
巫女ってやっぱり特別なんだね。
「何かを祀っていることが多いから、お参りとかもあるし」
モカさんがそう教えてくれる。
確かにほこらとかあったもんね。
「というわけで、私がお風呂にいたのは普通なのよ」
モカさんが自信をもって言い切る。
あ、そういえばそんな話だったっけ。
「でもモカさんがいたのは開放されてない時間ですよ」
「う……」
モカさん……。
やらかしてるじゃないですか。
「あの時間は巫女の舞の時間なのに……」
「ご、ごめんなさい」
巫女の舞は普通は見られないのか。
確かに恥ずかしいよね、あれ。
私ちょっと見ちゃったけど……。
「あの、私も自分のお風呂が欲しいんですけど、無理ですか?」
私の夢のために必要なんだよ。
「すぐには無理だと……」
「そうだよね……」
時間もお金も必要だよね。
こんな立派な家とお風呂、一体どれくらいするんだろう。
「頑張ってクエストとか受けて稼いでね」
「え、クエスト?」
モカさん、なんですか、そのオンラインゲームみたいなの。
「あの、かなでさん」
「ん?」
「私の家、使ってもらっても構いませんよ」
「ええっ」
いいんですか、ハノちゃんっ。
お風呂だけでなく、家までなんて。
「こっちの世界にいる間の宿として使ってもらっていいですよ」
「なんでそんなにやさしいのぉ~」
「巫女ですから」
天使がいるよ~。
巫女だけど。
ハノちゃんのやさしさに触れ、、
一つ屋根の下で始まる同居生活を思い描き、
私の気持ちは舞い上がる。
しかし、そんな浮かれた感情もすぐに吹き飛んでしまった。
「ひとりぼっちは……さみしいですからね」
そんな言葉とともに見せたハノちゃんの笑顔。
とても悲しくなる笑顔だった。
私が……。
私が守らないと……。
そう思ったのはモカさんも同じようで。
「ハノちゃん、あなたは私の妹みたいなもの」
「モカさん?」
「ここにいる間、私はあなたの姉、家族よ」
「ど、どうしたんですか、突然……」
「なんでもないわよ」
そう言いながら、ハノちゃんの頭をなでる。
ハノちゃんは赤くなりながらも嬉しそうだった。
「ハノちゃん」
「あ、かなでさん」
「私もね、ハノちゃんの家族になりたいって思う」
私はハノちゃんの手を取り、両手で包んだ。
「結婚しよう」
「?」
あ、すっごい首かしげてる。
失敗だ。
「クイックロード!!」
「かなでさん……」
モカさん、あきれないでください。




