さっきの電流で頭をやられたんだな、かわいそうに
容赦なく次々と繰り出される攻撃。
強力な武器をそろえた相手に対し、
私の装備はあまりにも非力だった。
なんとか持ちこたえていたものの、もう限界か。
「終わりだよ、かなで」
「ユウキ……」
ユウキが取り出した漆黒の剣が私の剣を打ち砕く。
そして私の装備を貫いた。
「勝った……」
私はその場に倒れこんだ。
……。
『ゲーム終了です』
ゲーム終了を告げるアナウンスが流れる。
すると私たちの装備や、
周りに展開されていたフィールドが消えた。
「どう? このゲームすごいでしょ」
「ユウキ、これだいぶ通ってるでしょ」
「まあね♪」
モフモフ牧場VRを出た私たちは一度カフェに入っていた。
そこでユウキが突然私を引っ張り、連れてこられたのがここ。
まだ、ここも試験中らしいんだけど、
ユウキは開発協力者らしく、中に入ることができた。
ここではMR技術の研究をしているらしい。
今遊んでいたのはカードの情報から現実世界に
仮想世界を投影し、ファンタジーな体験ができるというもの。
腕に小さなデバイスをつけて遊ぶ。
剣などの武器や風景まで再現しているすごい技術。
さすがに痛みなどは感じないようになっているけど、
バイブレーションで剣が当たった感じはわかる。
「あの、ユウキさん?」
「何?」
「最後、ちょっぴり電流が流れたけど大丈夫?」
「ああ、ゲームで死んだときの仕様だから大丈夫」
え、今死んじゃったの?
「痛くなかったでしょ?」
「うん。気持ちよかった」
「えっ」
ちょっと引かれた。
「だって……、ここに電流がきたんだもん……」
「……」
私が腕で隠したノーマウンテンを見て、
ユウキが顔を赤らめながら目をそらす。
「電流はやめとくか、危ないし。
こういう特殊なやつが出てくると嫌だし」
「ちょっと!」
人を変態みたいに……。
「かなでさ~ん、ユウキちゃ~ん」
ん? 天使の声がするよ。
おかしいな、ゲームは終わっているのに。
不具合発見かな?
なんて思って声のしたほうを見ると、いろはちゃんだった。
マロンちゃんたちも一緒にきたようで、私たちはみんなのもとに向かう。
「やぁ、マイエンジェルいろはちゃん。おまたせ。」
「へ?」
私なりにかっこよく決めてみたけど反応がよろしくない。
ポッとなってくれると思ったのに、おかしいなぁ。
「ユウキちゃん、かなでさんがおかしい……」
「ああ。さっきの電流で頭をやられたんだな、かわいそうに」
「電流!? あぁやっぱりあの仕様はやめておくべきだったんですね……」
お~い。私、頭おかしいの確定なの?
というか、君たちなんでここのアトラクションの
試作機を触らせてもらえるの?
しかも仕様にまで口をだしてるし。
あ、そういえばここっていろはちゃんのお母さんがらみか。
みんな関係者なのね。
「このゲームすごいよね」
「実際に動くから結構疲れるけどね」
マロンちゃんとユウキが機械を触りながら話し始める。
このゲームは腕につけたデバイスでカード情報を読み取ると、
CGで剣とか魔法とかが出てくる。
これがすごいことに感触がある。
そして実際にそれを持ってバトルしたりするので、
プレイヤーは結構動くことになる。
剣と剣が当たった時の反動とかどうやってるんだろうか。
ただの映像同士の衝突で終わらないのがすごい。
ずっとやってたら、それこそ現実と仮想世界の区別がなくなりそう。
「ねぇねぇユウキ、私もやってみたい!」
マロンちゃんが目を輝かせながら、ユウキのところへ。
「いいよ。じゃあこれつけて」
「は~い」
腕にデバイスをつけて準備完了。
そこにいろはちゃんが近づいてきてカードを渡す。
「これ使ってみてください」
「これ、このゲームのカード?」
「そうです。お母さんから渡されてたんですけど、
私はそんなに動けないですし」
そうか、このゲーム、体力がないときついのか。
ユウキは意外と動けるんだね。
「このカードはこう使うんですけど……」
「うんうん」
いろはちゃんがマロンちゃんにカードの説明を始める。
そして3枚ほどを持って、ゲームを開始する。
「嫌な予感しかしないんだけど……」
ユウキの予感はおそらく当たっていると思う。
いろはちゃんに渡すとしたら、
あまり動かずに済む魔法系のカードだろうから。
しかも、とんでもない威力の。
思ったとおりマロンちゃんは開始早々カードを使う。
すると手が光り始め、ユウキに向かって振りかざす。
「いっけ~!!」
ユウキのいる場所が大爆発した。
「ぎゃぁ~!!」
「わわっ、強すぎるよこれ」
そしてゲーム終了。
はやっ。
「あんっ」
「ん? ユウキ、今……」
「ああ~、電流は禁止だ!」




