かなでと一緒なら大丈夫って思うんだ
『モフモフ牧場VR』の世界から戻ってきた私は、
フカフカのチェアの上で少しボーっとしていた。
まるで夢を見ていたような感覚。
最近この感じをよく体験する。
このフルダイブや、お姉ちゃんの所に行った時もそうだった。
みんなは大丈夫かな?
私はヘッドマウントディスプレイをはずし、みんなの様子を見に行く。
ユウキといろはちゃんはすでに起きていておしゃべりをしていた。
チョコとバニラはチェアの上で伸びをしたり、あくびしたりしていた。
そしてマロンちゃんはまだ起きていなかった。
「……」
「さぁ行くとするか」
ユウキはまったく気にすることもなく外に出て行った。
いろはちゃんも苦笑いをしながらチョコ達をつれて続く。
「……」
それでも起きてこないマロンちゃん。
「マロンちゃ~ん。先に行くね~」
「え、少しくらい心配しないの?」
やっぱり起きてたんだ。
「いや、起きてたの分かってたし」
「え~、なんで~」
マロンちゃんが寝てるかどうか、私には分かっちゃうんだよね。
「ふふふ、それはね」
「うん」
「マロンちゃんは寝てるときすっごく可愛い顔になるんだ」
「え?」
そう、マロンちゃんの寝顔は、それはそれは可愛いのだ。
しかし、さっきのマロンちゃんは無表情だった。
「ふふん。すごいでしょ」
「うん……、というか」
「ん?」
「なんで私の寝顔のこと、そんなに分かるの?」
「はっ」
しまった!。
「さぁ、マロンちゃん、みんなが待ってる」
「誤魔化したー!」
私はさっさと退散することにした。
外に出るとユウキが戻ってきた。
「マロン、ここまだ一般解放されてないだろ」
あ、ユウキは気付いてたんだ。
いや、知ってたのかな?
「どうやって入ったんだ? 鍵はかかってなかったのか?」
「実は……、ユウキのお母さんにテストプレイを頼まれてて」
「お母さんが?」
「うん。メールで」
マロンちゃんはユウキのお母さんとメールするの?
まぁ、私やユウキと一緒にいればおかしくはないか。
「お母さん、なんでボクに送らないんだ」
「あ、どうせ来ないからって」
「よく分かってるな、あの人」
いいのかそれで……。
「でも何で隠してたの?」
少し気になったので聞いてみた。
別に隠すようなことではないと思うけど。
「ユウキ、気にするかなって……」
マロンちゃん……、やさしいんだね。
なんて思っていたら、ユウキが一言で切り捨てる。
「本当のことを言いなさい」
マロンちゃんは苦笑いしながら、本音を話し始める。
「いや、なんか実験みたいで怖かったから……」
「うん」
「みんな巻き込んじゃえと思って、テヘ」
え~。
テヘッと可愛く言っても、やってる事はひどい。
「断りなよ……」
ユウキの言うとおりだよ。
まぁ、マロンちゃんはやさしいからね。
断ることができなかったんだろうけど。
でも、自分の身は大事だよ。
「まぁ、前を通るまで忘れてたんだけどね。えへっ」
「それ無理にやらなくてもよかったんじゃ……」
もうすぐ正式に稼動する予定なら、危険はもうないんだろうけど。
調べたかったのはクオリティの方かな、多分。
「マロン、お母さんにメール返しといて」
「なんて書いて欲しい?」
「ボクが最高のモフモフだったって言ってたって」
「うん、そうする」
ユウキのお母さん、よろこぶんじゃないかな。
マロンちゃんがメールを打ち終わるのを待って、みんなのところへ向かう。
その途中、マロンちゃんが私の腕に抱きついてすり寄って来る。
「どうしたのマロンちゃん」
「えへ、あのね。私、もしあのまま戻って来れなくなっても、
かなでと一緒なら大丈夫って思うんだ」
「え?」
「かなでと一緒なら、私、安心できるから」
「う、うん。ありがとう」
突然そんなこと言われるとうまく言葉がでてこない。
そんな状態なのに。
「ちゅっ」
マロンちゃんがいきなりほっぺにキス。
「ひゃっ」
「えへっ」
にっこりと笑うマロンちゃん。
ほんのりと頬が赤く染まっている。
え、何、何が起こっているの?
私は顔が赤くなっていくのを感じながら、
なんとか平常心を保ち、歩みを進めた。




