モフられる~
モフモフ牧場VRの世界へ入り込んだ私達。
目を開けると確かにそこは牧場だった。
自然があふれる広大な大地。
青い空に白い雲。いいお天気だなぁ。
風も気持ちいい。
ポカポカの春の季節という感じかな。
本当にこれがバーチャルなのかと思うほど感覚は現実そのもの。
現実に戻れるのか不安になるほどに本物っぽい。
まぁ、なんか腕輪がついてて終了ボタンがあるので大丈夫だと思うけど。
あとタイマーがついてるから時間で終了かな。
他のみんなも無事にこれてるみたいだし、とにかくモフりに行きますか。
「かなで、あれ見て気持ちよさそうだよ~」
マロンちゃんが指さす方には私達より大きい毛玉さんがいた。
なにあれ、巨大羊?
モデルが不明だよ……。
しかし、モフりがいのありそうな外見である。
「行ってみようか、マロンちゃん」
「うん」
ふたりで毛玉にむかってダッシュ。
他のみんなもそれぞれ好きなキャラクターのところにむかって行った。
「ねえ、かなで。あれにダイブしてもいいかなっ」
「いいんじゃないかな。バーチャルだし」
「じゃ、いっくよ~」
マロンちゃんが巨大モフモフにむかって飛んでいった。
「あはっ、これは最高~」
抱きついた瞬間、マロンちゃんがふやける。
どれどれ、私もモフモフ……。
ふにゃ~、とろける~。
ああ、最高のモフり心地。
「くっ、これがバーチャルモフモフ……」
あ、バニラ、いつの間に隣に……。
「最も気持ちよく感じるように調整しているのかっ」
バニラ、性格が変わってるよ。
「モフられる~」
モフられてはいないけど。
しかし本当にモフモフが気持ちいい。
眠ってしまいそうだよ。
「スヤスヤ」
あ、マロンちゃんが寝てる。
私は負けないよっ。
まだまだ広い牧場なので、まずは回ってみたいな。
そう思って歩き出す。
ほのぼのしてまったりとした時間が過ぎる。
この時間はいったいどうなってるんだろう?
こことリアルはまったく同じ時間進むのだろうか。
だとしたらあまりゆっくりはしてられないよね。
とはいえ、特に急ぎもせずキャラクター達を見て回った。
1週ぐるっと回ってきて、最初にいた広場にある建物に入る。
あ、ソフトクリームが食べられる。
バーベキューもできるのか。
牧場型商業施設のバーチャル版というべきかな。
でもここで食事をして意味はあるのだろうか。
精神的に満たされるということかな?
よし、ソフトクリームとコーヒー牛乳を買ってみよう。
電子マネー使えるのかな。
そう思ってスマートフォンを取り出すと、別のデバイスに変わっていた。
そのデバイスのトップメニューには決済用のアプリがあった。
試しにタップしてみると、説明書きが表示される。
『この仮想世界内専用の仮想通貨決済アプリです』
『お買い物はこのアプリで行ってください』
わお。
ではありがたく使わせていただきます。
購入したソフトクリームとコーヒー牛乳を持って外に出る。
マロンちゃんを探し辺りを見回すと、
前方から巨大羊と思われるキャラクターがこっちにむかってきているのが見えた。
あれ、背中にいるのはマロンちゃん?
もしかして運んでくれているのかな。
私は羊さんが到着するとマロンちゃんを降ろし、お礼を言った。
そして、羊さんはそのまま振り返ると元の場所へと帰っていった。
私はあの羊さんを『メェメェさん』と呼ぶことにした。
「お~い、マロンちゃん起きて~」
「う、うん?」
ゆさゆさ揺すっているとすぐにマロンちゃんは目を覚ました。
「あれ、かなで? 私寝ちゃってた?」
「ぐっすりと」
「そっか~」
そっか~といいながら、再び眠りに落ちそうになっている。
私はさっき買ったコーヒー牛乳のビンをマロンちゃんの頬に当てた。
「ひゃっ」
「寝ちゃダメッ」
「えへへ」
もう、可愛くてもだめだよ。
「ねぇマロンちゃん。ここで飲食したらどうなると思う?」
「気分だけなんじゃない?」
「試してみない?」
さっきのコーヒー牛乳を差し出す。
「私だけ?」
「私はもうソフトクリーム食べてるよ。ほら」
半分に減ったソフトクリームを見せると、
マロンちゃんも安心したのか、ビンを受け取って飲み始める。
「お、おいしい」
「うん。こっちのソフトも今までで1・2を争うおいしさだよ」
「ということは、ここでバーベキューをすれば……」
「最高においしいという事だよ!」
バーベキューか。今度みんなで行きたいな。
そんなことを考えながら、目を輝かせているマロンちゃんを眺めていた。
そのとき、突然腕輪から音声が聞こえた。
『時間となりましたので終了ボタンを押してください』
終わっちゃったか。
どれくらいここにいたんだろうか。
1時間くらいかな?
「かなで、今度はバーベキューとかしたいね」
「そうだね。でも時間足りなくない?」
「正式に運用開始になったら、時間制限なくなるみたいだよ?」
「正式?」
マロンちゃんが「やばっ」という表情をする。
さっきから引っかかることがあったんだよね。
「マロンちゃん、何か知ってるでしょ?」
「かなでっ、とりあえずここを出よう? ね?」
誤魔化してるよ。
まぁ、まずは現実世界に戻りますか。
私は腕輪の終了ボタンを押した。
さよなら。楽園の牧場。




