カプ麺でも食べてるよ
朝食を済ませ、みんなリビングでくつろいでいる。
今日の予定はどうしようかな。
そういえばいろはちゃんが買出しするって言ってたよね。
「いろはちゃん、買出しに行くんだよね? 私も一緒に行っていいかな?」
「一緒に来てくれるんですか? ちょうどお願いしようと思ってたんです」
うれしそうに笑ういろはちゃん。
この笑顔を見ているとこっちまで幸せになれるなぁ。
「今日は本土のほうまで出かけるつもりなんですよ」
「そっか、それはひとりじゃ大変だね」
実は私達が住んでいるのは小さな人工島で、本土側に少し街があるだけの田舎。
買い物を楽しむなら本土まで出かけたほうが楽しい。
ちなみに、いろはちゃんの家はとんでもなくお金持ちで、
お母さんがいろはちゃんのために採算度外視で開発していて、
海の向こうは都会化しているし、
この島の商店街もきれいに整備されている。
「お昼もむこうで済ませようと思うんですけど、みなさんだいじょうぶですか?」
基本的にここで料理をするのは私かいろはちゃんなので、
私たちがそろって出かけると大幅な戦力ダウンになってしまう。
ユウキはこの前カップ麺食べてたもんね。
するとマロンちゃんがピョンとソファからこちらに跳ねてくる。
「本土までいくんだよね? 私、アニメショップ行きたいし、一緒に行きたい!」
「アニメショップか……」
そういえば最近私も行ってないなぁ。
「いろはちゃん、いいかな?」
「はい、いいですよ」
快く了承してくれたいろはちゃんだけど、少し残念そうに見えた。
もしかしてふたりきりがよかった?
いやん可愛い。
「おーい、こいつも連れて行ってよ」
ユウキが頭の上にいるモフモフを突きながら言う。
懐かれてるね。
「モフモフー、おいでー」
私が呼びかけると、ふわっと浮いて私の背中に張り付いた。
「なっ、私の特等席が……」
なぜか泣きそうになるいろはちゃん。
私の背中っていろはちゃんの特等席なの?
「お、おーい、こいつも連れて行ってくれー」
あれっと思ってユウキの方に振り向くと、
なぜか頭の上にモフモフが乗っていた。
……チョコレート色の。
どういうことかと思いマロンちゃんを見ると、
目が合った瞬間、グッと指を立てテヘペロ。
意味がわからないよ。
「追加で呼んどいたよ」
呼んだ?
どこから呼んだんだろう。
「二人いたらモフモフじゃどっちかわからないですね」
確かにいろはちゃんの言うとおり。名前つけたほうがいいかな。
ところで二人って数えるの?
「じゃあ二人ともかなでに懐いてるし、かなでが名前付けてよ」
ユウキが面倒くさそうに話を投げる。
どっちかというとユウキに懐いてるんじゃないのかな。
「よし、じゃあ、こっちはチョコレート色だから『チョコ』で」
「え?」
私の付けた名前にぽかんとするユウキ。
続けて名前を付ける。
「で、こっちの白いほうが『バニラ』」
「おいしそうな名前ですね!」
「いろは! なんてことを!」
「チョコ、バニラ、そしてマロン。フッ」
「フッ、じゃないだろ。おいマロン、一緒になってるぞ」
「かなで、私のこと食べる?」
「いただきまーす!」
「だ、だめです! 私から食べてください!!」
「いろははダメだ、落ち着け!」
「キャー」
「なんだこいつら……。
なんでこんなどうでもいいことでこんなに盛り上がれるんだ?
これが人間社会に必要なことなのか?
無理だ、ボクには無理だ。
やはりニートしかないな……」
なにかユウキがぶつぶつとつぶやいている。
みんながはしゃぎおわって出かける準備に戻っていく。
そんななか、まったく動かないユウキに声をかける。
「で、ユウキは来ないの? ひとりでお留守番?」
「ああ、カプ麺でも食べてるよ」
「カプ麺て。あ、でも今カップ麺ないよ?」
「え……」
沈黙。
「あ、すぐ行きます。」