私、あの家のみんなのこと、本当の家族だと思っていますから
私の意識が徐々に現実に戻っていく。
目を開けるとまぶしい青空が広がっていた。
倒れてからそんなに時間が経ってないのかな。
「お、お姉ちゃんっ!」
バニラの声がする。
それからみんなが集まってきた。
上半身を起こすと、ようやくベンチの上にいることがわかった。
うう……、少し頭が痛い。
「うわ~ん。マスター、ごめんなさい~」
チョコが泣きながら飛びついてきた。
あぶないあぶない。
「チョコ、大丈夫だから、泣かないで?」
「うう……」
私はチョコをなぐさめながら、自分の指を確認する。
確かにそこにはお姉ちゃんがくれた指輪がはまっていた。
夢じゃなかったんだ……。
「チョコ、バニラ、あとマロンちゃんもかな。
あとでちょっと聞きたいことがあるんだ」
「何?」
マロンちゃんが首をかしげる。
「ちょっとね。まぁ家に帰ってからでいいよ」
今日はまだ楽しい時間を終わらせたくないからね。
「さ、次のアトラクションに行こうよ。まだ時間あるよね?」
時間を確認すると、多分気を失っていたのは15分ほどだ。
「何言ってんの、ダメだよ! もう帰るよ!」
ユウキが心配して怒ってくれている。
嬉しいけど、でもまだ帰りたくない。
次がいつになるかわからないし、
このまま帰ったら嫌な思い出が残ってしまいそうだから。
「心配してくれてありがとうユウキ。でも大丈夫だからね」
「でも……」
「ユウキ、お願い」
私はユウキを抱きしめた。
「な、何いきなり……」
「私、大丈夫だよ」
「わかったよ」
私が腕を緩めると、するっと逃げていく。
「まったくもう……」
ユウキは腕を組んでため息をついている。
その顔は少し赤くなっていた。
「本当に大丈夫なんですか?」
いろはちゃんが隣によってくる。
後ろにはバニラもついてきていた。
「うん、不思議なくらいなんともないよ」
少し嘘をついた。本当は少し体が重い。頭も痛い。
「そっか……」
いろはちゃんは少し残念そうな悲しい笑顔を見せた。
今日のいろはちゃんは私の知らない表情をよく見せている。
どうしたんだろう。
「かなでさん、そこに座ってください」
「え?」
いろはちゃんはさっきまで私が寝ていたベンチに目を向ける。
言われた通りに座ると、いろはちゃんが前に立った。
「目を閉じてください」
「え、うん」
何だろう、何されるの?
少しドキドキしつつしばらく待つと、
なんかわからないけどやわらかい雰囲気?
のようなものに包まれた気がした。
すると体の重さや頭痛も引いていた。
あれ、何が起きたの?
「もう大丈夫ですよ」
「え?」
目を開けるといろはちゃんの笑顔。
「かなでさん、嘘はダメです。もっと頼ってください」
「いろはちゃん……」
「私、あの家のみんなのこと、本当の家族だと思っていますから」
いろはちゃんは祈るように目を閉じる。
「ずっとこの楽しい時間が続けばいいのにって思います」
「うん……」
「この時間を守るためなら何だってしたいって思っています」
私も。
「私も同じだよ。私もこの日々を守りたいって思ってる」
「なら、さっきみたいな嘘はやめてください」
「う……」
「私ならきっとかなでさんの助けになれると思いますから……」
いろはちゃん、ありがとうね。
私みたいなのに、そんなに思ってくれて。
「ごめんね、いろはちゃん。今度はちゃんとするから」
「約束ですよ?」
「約束だね」
私達は指切りをした。
この時から私達は本物の家族。
そんな意味を込めて。
「ちょっと私もっ、私も家族ですよ!
何ですかさっきから目の前で見せつけて~!」
バニラが割って入ってきてふくれている。
「ふふ、バニラももちろん家族よ」
いろはちゃんは大人の対応でバニラをなだめる。
でも10歳。
「そういえばいろはちゃん、さっき私に何したの?」
もしかして魔法かなにかじゃ……。
いや、でもなぜ、いろはちゃんが。
「ふふ、秘密ですっ♪」
「ええ~」
まぁいいか。
世の中は不思議なことだらけだから。
最近まわりで起きていることも、
変わりつつある何かも、
いつか繋がってひとつになる日が来るだろう。
なら、今はこの時間を楽しませてもらうよ。




