なんとこの世界は、女の子しかいないの!
暗い、寒い、怖い。
ここはどこ。
真っ暗で何も見えない。
あれ、私、宙に浮いてる?
足元に何も感じない。
『かなで、こっちよ』
お姉ちゃん?
お姉ちゃんの声がする。
声のしたほうへ意識を向ける。
泳ぐみたいにそっちへ進もうとする。
でも進んでいるのかもわからない。
ただ、唯一の救いかもしれないものに必死にすがる。
そしていきなり光に包まれる。
「きゃっ」
体に感覚が戻る。
声も聞こえた。
「かなで」
「お、お姉ちゃん?」
まったく見覚えのない場所で、
私の目の前にお姉ちゃんがいる。
8年前、過労で倒れた姉。
あの時私は、お姉ちゃんが死んだと勘違いして泣き続けてたんだよね。
まぁ、問題はその後で。
お姉ちゃんは私のことをユウキの母親に託し姿を消した。
泣き疲れて眠ってしまった私が目を覚ますと、
ベッドの上は空っぽになっていたのだった。
「久しぶりね、かなで」
「……」
「あれ、かなで……怒ってる?」
「いや」
怒ってないけどなんというか。
「お姉ちゃんとの想い出がほとんどない」
「ひどいっ」
「ひどくないよっ、8年前だよ?」
今14歳だよ?
6歳の時にいなくなられても、ほとんど一緒にいた記憶ないよ。
「うわ~ん」
泣かないでよ。勝手にいなくなったのそっちなのに。
あれ、私やっぱり怒ってるかな。
ほとんど覚えてないけど。
でも、はっきりと声も姿も覚えてる。
大好きだったって覚えてる。
「それよりお姉ちゃん、なんか年取ってなくない?
私の記憶のままなんだけど。あとここはどこ?」
「そうね、順番に話すわね」
「うん」
「まずここはチョコちゃん達の言う、門の向こうの世界。
簡単に言えば異世界ね」
「異世界……ってちょっと待って」
「なぁに?」
「なんでチョコ達のこと知ってるの? まさかのぞいてた?」
「ち、違うわよ。チョコちゃん達を向かわせたの、私なのよ」
え?
「私はこの世界を今は離れられないから……。
でもあなたのことは見守っていたかった」
「お姉ちゃん……」
「でもね、ちょっと事情が変わってきちゃったの」
「何かあったの?」
「うん、だからかなで、あなたにもこっちの世界にきてほしいの」
「えぇ」
私が異世界に? 嘘でしょ?
「実は私達がいるこの場所も異世界の一部なの。きれいでしょ」
「ここが?」
周りを見回す。
確かにきれいな場所だった。
自然が豊富で、湖の水も透き通っている。
まるでゲームとかで見るようなファンタジックな世界だ。
「それにね、なんとこの世界は、女の子しかいないの!」
「うっそ」
最高じゃないですか。
私がいつか夢見た百合の世界じゃないですか?
「あれ、じゃあどうやってこどもを」
「やだ、かなでのエッチ」
「えぇ、なんで!?」
普通に思わなかった? 私エッチなの?
「まぁ、とにかくこっちの世界へ来てほしいの。
別にかなでは来ても帰れるから」
「これからはお姉ちゃんと一緒にいられるの?」
「すべてが……終わったらね」
いったいこの人何してるんだろう。
「かなで、今見てるのは夢みたいなものなの。
いったん意識を元の世界に戻すわね」
え、今意識だけ異世界にいるの?
「あの露天風呂から正式にこちらに来てほしいの。
詳しい方法はチョコちゃんに聞いてね」
「うん。よくわからないけどわかったよ」
細かいことはチョコに任せよう。
突然のこと過ぎて、実は頭がうまく回っていない。
「じゃあ、みんな心配してるだろうからいったん戻すわね」
「お姉ちゃん、全部夢でした、とかないよね」
「かなで……」
そう、急に不安になってしまった。
これがただの夢だったらと。
せっかくお姉ちゃんとおしゃべりできたのに。
そんな私を見て、お姉ちゃんが微笑む。
「これ渡しておくわ。起きてこれを持っていたら
夢じゃなかったってわかるでしょ」
そう言って私に指輪をはめてくれる。
サイズはぴったりで、はめている感覚すらしない。
それがやっぱり夢なのかなって心配になったけど。
でもいつまでもこうしてはいられない。
みんなからしたら、私は今、気を失っている状態だろうから。
「ありがとうお姉ちゃん」
「ふふ、またすぐに会えるからね」
お姉ちゃんが私の頭をなでてくれる。
すると私の体を光が包み込んでいく。
「バイバイ、かなで」
「またねお姉ちゃん」
最後におでこにキスをしてくれて、私は現実へ戻っていった。




