いろはちゃん、何か聞こえなかった?
次々と襲い掛かる少女の霊に毎回悲鳴をあげながら
お化け屋敷を進んでいく。
「ユウキ~、大丈夫かい~」
「ふふふ」
「ひっ」
ユウキが壊れた~。
「チョコは平気?」
「大丈夫じょぶ。あ、妖精さんだ♪」
大丈夫じゃないっ!
「待って! 行っちゃダメー!!」
慌ててチョコを連れ戻す。
これくらいでおかしくなってて大丈夫なのだろうか。
異世界でもっと怖い目とか合わなかったのかな。
それともむこうの世界って結構平和だったり?
私が思っているようなファンタジーな世界とは違うのかも。
「お姉ちゃん大変そうですね。しばらくチョコは私が見てますよ」
「ありがとね、バニラ」
バニラ優しいなぁ。
おかげで少し楽になった。
さっきまで両側から引っ張られたり、悲鳴をあげられたり、
爪が食い込んでたり、もう大変だったんだから。
とりあえずユウキを正気に戻し、また進み始める。
しばらくすると少し広くなってるところに出た。
なにか来そうな雰囲気だなぁ。
そう思っていた時マロンちゃんが何か見つける。
「あれは……女の子?」
「またか。さすがに先に見つけていれば大丈夫だぞ」
今度はユウキも耐えている。ぎりぎりっぽいけど。
でもあれは……。
「何か今までと違いますね。本物の女の子ではないでしょうか」
いろはちゃんも同じことを感じていたようだ。
しかし、女の子が本物かCGかという話をしているのがすごいね。
暗いのもあるかもしれないけどパッと見でわからない。
「こんにちは」
女の子は私達に気付くとあいさつをしてくれた。
「あ、こんにちは」
「さっきからの悲鳴ってお姉ちゃん達ですか?
ずいぶん楽しめているみたいですね」
「別に楽しんではいない……」
女の子の言葉にユウキがつぶやく。
「そうなの? じゃあ近道教えようか?」
「そんなのあるのか? 教えてくれ!」
必死すぎるよユウキ。
「私ここには何回も来てるから詳しいんだ。
実はここの障子を開けていくと途中を飛ばせるんだよ」
な、なるほど。
ここはぐるっと外周を回るようにコースが作られてるのか。
ということは入り口付近が一番ショートカットできるんだね。
リタイア用というわけだ。
私達は女の子についていくことにした。
ユウキとチョコがさすがにかわいそうなのと、
私も結構きつかった。
途中女の子と自己紹介などを交わしながら歩く。
女の子はあかりちゃんというらしい。
と、あかりちゃんが急に立ち止まる。
「あ、この先気をつけてくださいね」
「へ?」
あかりちゃんが上を指差す。
その先にいたんだ。
白装束の女性が逆さまに宙に浮いていて、
そしてこっちを見ている。
さらに薙刀を持っていらっしゃる。
「大丈夫ですよ。気付かれなければ」
「いや、すっごい見てるよ! こっち見てるから!」
ユウキが恐怖のあまり、涙目になって騒ぐ。
とりあえずみんなを背後にかばいながら下を通る。
目線が私を追ってくるのがすごく怖い。
何事もなく通り過ぎることができると、
みんな少し早足で進み出す。
あの薙刀さんはなんでここにいたんだろうか。
公式コース外のはずなのに。
ちょっと嫌な予感がする。
あと、あかりちゃんだ。
この名前をどこかで聞いた気がするんだよ。
「あ、出口って書いてあるよ」
マロンちゃんが壁の目印を指差す。
ちょうど公式コースらしい道との合流地点にそれはあった。
嫌な予感ははずれてくれたみたいだね。よかった。
みんなふらふらと出口へ向かう。
終わった安心感からユウキやチョコからも笑顔が見れる。
あかりちゃんにも感謝だね。
『……して』
ん? 何か聞こえた?
後ろを振り向くといろはちゃんしかいない。
「いろはちゃん、何か聞こえなかった?」
「聞こえた気がします……」
さすがのいろはちゃんも少し疲れた表情をしていた。
まさか来るのか、ここで。
『返して! 私のあかりちゃぁぁぁん!!』
来たー!!
さっきの薙刀さんが猛スピードで突っ込んでくる。
ああ、あかりちゃんってこれだよ。
なんで忘れることができたんだ。
薙刀さんは私達をすり抜けてユウキ達のところへ。
「ぎゃあぁぁぁあああ」
完全に安心しきっていたチョコはパニックになって、
薙刀さんに手をかざし、その手が光り始める。
ま、まさか。
「チョコ! ダメです~!」
バニラが慌てて止めに入るけど間に合わず。
チョコの手から魔法が放たれる。
魔法は薙刀さんに当たるはずもなくすり抜け、
私といろはちゃんの方へ。
いろはちゃんを守るため前に飛び出す。
「お姉ちゃーん!」
バニラの悲鳴のような声が響く。
その時、私の頭の中に何かが入り込んできたような感覚がして、
自然と魔法の光の方に手を向けた。
すると光が私の手に当たる寸前で霧散して消えた。
「……」
何が起きたのか、理解できなかった。
チョコとバニラが泣きながら私に飛びついてきて、
その後、私は意識を失った。




