はぁ、モテる乙女はつらいよ
「や、マスター」
私たちが屋内の飲食コーナーへ着くと、
すでに人数分の席を確保したチョコにお出迎えされる。
「チョコ、席取っててくれたの? ありがとうっ!」
「ふふん、マスターのためだからな。これくらい当然だ」
そう言って立ち上がるとバニラのほうに駆け寄る。
「バニラー、ちょっと寂しかったぞ~」
「よしよし、チョコえら~いです」
「キスしていいか?」
「ダメです♪」
「ちぇ~」
おいおい、ラブラブかよ。
「ユウキちゃんたちはまだですか?」
いろはちゃんがチョコに他の二人のことを聞くと、
「あの二人なら先に注文しに行ってるぞ」
と、指さしながら答える。
もう来てたんだ。
しばらくして二人が戻ってくる。
トレーの上には焼きそば、ホットドッグ、
ハンバーガーにドーナツが大量に。
どんだけ買ってるのドーナツ。
「それ二人分?」
「ううん、ドーナツは違うよ? みんな食べるかなと思って」
マロンちゃんの言葉に安心する。
まさかと思ったよ。
最近この子たち食べすぎな感じがするから……。
「むこうで選んでるといろいろ食べたくなるんだよ。
Iloveジャンクフード」
ユウキはそんなに食べれないでしょ……。
「そんなのばっかり食べてると体に悪いよ?」
「大丈夫さ、サプリメント飲んでるから。
Iloveサプリメント」
好きで飲んでるの!?
私が何とかしないと。
「マスター、私たちも行こうか」
「そうだね。いろはちゃんとバニラは何食べたい?」
「はいっ、サンドイッチがいいです。ヘルシーなもので」
「あ、じゃあ私も同じもので」
二人ともサンドイッチか、ここにあるのかな……。
あ、あった。
「じゃあ行ってくるね」
私たちは手を振って席を離れる。
「バニラに最高のサンドイッチを届けてやるぞ!」
隣でチョコがやたらと張り切っている。
ここで最高のサンドイッチは難しいよ。
今度パン屋さんとか行こうね。
サンドイッチのコーナーに着く。
思っていた以上に種類が豊富だ。
タマゴ、ハムレタス、カツ、トマト。
おぉ、イチゴホイップ……。
いろいろあるなぁ、私もサンドイッチにしようかな。
「チョコは何にする?」
「カレーが食べたいな」
「カレーもいいね、私もカレーにしようかな」
「ピザもいいな、あ、ハンバーグも」
「……」
味覚がこどもだった。
「あ、これどう? ナン風サンドイッチ。
なんとなくカレーとピザを食べた気にならない?」
ならないな、うん。
自分で言っといてなんだけど。
「いいな、さすがマスターだ」
よし、勝った。
「ククク、今度来たときにハンバーグを食べるとしよう」
「ふふ、そうだね。また来ようね」
「ああ、レストランとか行ってみたいな」
「うん、そうしよう」
チョコとの約束だ。
チョコってもっと冷めてるというか、
本心では話さない子だと思ってたけど、
なんか無邪気なこどもっぽいな。
……どこまでが本心なんだろうか。
私のことを本当に信用してくれてるのかな。
バニラに対しても本当はどう思っているのかわからない。
そして私はなんでこんなことを考えてしまってるんだろう。
私たちはいろんな種類のサンドイッチを購入し、席に戻る。
私とチョコが椅子に座ると、
いろはちゃんのひざの上でなでなでされていたバニラが、
私の隣の席に移動してくる。
チョコとバニラに挟まれる形になった。
「マスター、食べさせてくれ」
「え?」
「はぁ?」
いきなりで驚く私と、
後ろでちょっと怖い声を出したバニラ。
やめて、私のために争わないで!
とりあえずチョコが口を開けて待っているので、
先ほど買ったナン風サンドを少しちぎって、口に運ぶ。
「あむ」
口の中に入るとき、少し指が唇にふれ、ドキッとした。
やわらかいなぁ。
そして後ろから視線を感じ、振り返ると、
バニラが「ム~」とジト目でこちらを見ていた。
「ム~」
それから私の胸に頭を押し付けてグリグリしてくる。
バニラのふわふわ髪の毛が気持ちいい。
そして可愛い。
ふへ~。
「ねぇ、こいつら何やってんの?」
「三角関係で大変なんですよ」
「私たちもいるから六角関係?」
「まぁ、それはもっと大変ですね」
他三人のコソコソ話が聞こえてきた。
はぁ、モテる乙女はつらいよ。……なんてね。




